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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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崩れ始めた野盗たち

濃い霧が、森を覆っている。


だが――視えないわけではない。


揺れる影。

滲む輪郭。


そしてその奥で――


「おい……また一人いねぇぞ」


野盗の声が、低く響く。


「ふざけんな……さっきまで右側に――」


「静かにしろ!焦んじゃねえ!

 散るな、集まれ!」


苛立ちと焦りが、混じる。

だが――隊列は崩れていない。


むしろ、硬い。

動きが、鈍い。


明らかに動きを止め、

“来るはずの攻撃”に備えている。


何が来るかも分からないまま。


その空気を――


イヴァンスたちは、見ていた。


『……四人。固まってる』


プラーサのサーチが、静かに流れる。


『配置換えをしたわ。

 中央がリーダー格だと思う。

 そこから前、左、右に配置してる』


『……さっきまでより、さらに警戒してる。

 全く動かない。これじゃ崩しようがないよ』


手詰まり。


わずかな迷いが、思考に混じる。


その時――


『……こっちに指揮権を貸しな』


スランザの念話が割り込んでくる。


一瞬で、空気が変わる。


プラーサの意識が、わずかに揺れる。


『……え?』


『迷ってる暇はねえ。まだあと二個の集団があるんだ。

 ここはあたいがやる。プラーサ、勉強しときな』


迷いのない声音。


押し付けるでもなく。

だが――引かない。


プラーサは、短く息を吐いた。


迷っている時間は、ない。


『……お願いします』


指揮権が、スランザへと渡る。


その瞬間――


“指揮”が、切り替わった。


スランザの思考が、研ぎ澄まされる。


配置。

距離。

呼吸。


霧の濃淡。

足場の柔らかさ。


すべてが、一本の線で繋がる。


『ベラミカ』


『なによ』


『霧を一瞬だけ薄めろ。イヴァンスを一度やつらに見せる。

 一瞬でいい』


『……了解』


『イヴァンス、見られた瞬間に向かって左の野盗に突っ込め。

 殺気はガンガンに出せ』


『え?気配を消すんじゃなくて?』


『そうだ。殺気を叩きつけて、あえて意識を集める。

 ――近付いた瞬間に消せ』


一拍。


『……ああ、そういうことか』


イヴァンスの理解は、早い。


『了解。思いっきり行く』


『ベラミカ、セーニャは右と正面だ。

 イヴァンスに意識が向いた瞬間に“落とせ”』


『スリープが入ったらジャックとレキサルが回収。

 ――いいな?』


『なになに~、ぼくちゃんを作戦に組み込むの~?

 それって本気出せってことだよね~。

 ひひひ……張り切っちゃうよ~』


『どうやら、この身の力を披露する刻が巡ってきたようにございますな。

 余すところなく、ご覧いただきましょうぞ』


二人とも――完全に“入っている”。


『よし……行くぞ』


霧が、わずかに緩む。


視界が開ける。


世界が、輪郭を取り戻す。


その中央――


『イヴァンス、前に出ろ』


『了解』


一歩。


迷いなく、姿を晒す。


「いたぞ!!」


リーダー格の声が弾ける。


視線が、一斉に集まる。


その瞬間。


『――今だ。霧、戻せ』


霧が、爆ぜるように濃くなる。


視界が、潰れる。


「っ!?くそ、また霧か!

 気をつけろ!各個撃破を狙ってやがる!」


『殺気、出せ』


『……はい』


イヴァンスの気配が、膨れ上がる。


隠さない。


むしろ――叩きつける。


圧が、霧の中を震わせる。


「来るぞ……っ!」


恐怖が、膨らむ。


だが――


位置は、見えない。


混乱。


その中へ――


イヴァンスが、突っ込む。


音を殺し。

気配を絞り。


そして――


左側。


一人の野盗のすぐ傍で、完全に消える。


「――そこだ!殺気が漏れまくってんぞ!!」


リーダーの叫び。


剣が、振り下ろされる。


狙いは――左。


だが。


「バカ野郎、俺だ!!」


斬られかけた野盗が、絶叫する。


一瞬。


空気が、止まる。


“味方を斬りかけた”事実。


その認識が、遅れて全体に広がる。


正面と右の野盗に、動揺が走る。


「隊長、何があったんですか!?」


『今だ、ベラミカ、セーニャ』


同時に動く。


右と正面。


位置は、完全に共有済み。


「スリープ」


無音。


重なる。


「……っ」


「な――」


抵抗は、間に合わない。


二人同時に崩れ落ちる。


『回収すんね~』


『しかと押さえさせていただきまする』


影が走る。


ジャックとレキサル。


倒れる前に、奪う。


『はいはい、いただき~』


そのまま、消える。


残るは――二人。


だが。


その二人は、もう戦えていなかった。


「おい……一旦下がるぞ」


「おい、返事しろ!」


「二人ともいねぇ……!?」


恐怖が、支配する。


視線が泳ぐ。

呼吸が乱れる。


“どこにいるか分からない敵”に、心が削られていく。


スランザが、小さく舌を鳴らした。


『いいか――』


冷静な声。


『あの二人が後ろを向いた瞬間に、ベラミカとセーニャで落とせ』


一拍。


『イヴァンスは同時に切り込め。

 さっきと同じだ。柄で腹を叩き込め』


逃げ場は、もうない。


――そのはずだった。


その時。


わずかに。


ほんの一瞬だけ。


プラーサのサーチに――“違和感”が走る。


(……あれ?)


点が、揺れた。


まるで――


“そこにいないはずの何か”が、混じったかのように。


霧の奥。


誰もいないはずの空間に。


もう一つ、“気配”があった。


それは――


今までの野盗とは、明らかに“質が違う”。


(……これ、まずいかも)


小さな違和感は、確信へと変わりかけていた。


そして――


その気配が、静かに“こちらを見た”。

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