表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

139/146

静寂の捕縛

魔約の塔――一室。


広い空間に、足音だけが響いていた。


コツ、コツ、と。


一定のリズムのようでいて、どこか落ち着かない音。

セラフィスは部屋の端から端へと歩いている。


止まっては、また歩く。

窓辺に寄っては、すぐに背を向ける。


落ち着きがない。


明らかに。


「……」


何も言わない。

だが、その足は止まらない。


コツ、コツ、と。


わずかに速まる。

その様子を、少し離れた場所からボルックスが静かに見ていた。


そして――


「気になりますか?」


不意に、声をかける。

柔らかい声音。


だが、その問いは真っ直ぐだった。

セラフィスの足が、ぴたりと止まる。


一瞬だけ。


「……別に?」


振り返らないまま、答える。

いつもの軽い声である。


だが――


次の瞬間には、また歩き出していた。


コツ、コツ、と。


先ほどより、わずかに速い。

ボルックスは小さく目を細める。


「左様でございますか」


それ以上は言わない。

ただ、見ている。


セラフィスは窓辺で足を止めた。


外は夜。

遠く、森の気配がわずかに揺れている。


「……」


何も言わない。

だが、視線だけが、そこに留まる。


一拍。


そして――


「……ちょっと出てくる」


ぽつりと軽く言った。


まるで散歩にでも出るかのように。


ボルックスの眉が、わずかに動く。


「……は?」


間の抜けた声が、珍しく漏れる。

だがセラフィスは振り返らない。


「心配とかじゃないわよ?」


軽く手を振る。


「ただ、ちょっと気になるだけ」


言い訳のようでいて、言い訳になっていない。


そのまま、扉へ向かう。

迷いはない。


「いってらっしゃいませ」


静かに、ボルックスが告げる。


「……ふん」


短く鼻を鳴らすように返すセラフィス。


振り返らない。


そのまま扉に手をかけ――


開く。


夜の空気が、すっと流れ込んだ。

そして、何の躊躇もなく外へ出る。

扉が、静かに閉じられる。


――パタン。


わずかな音だけが、部屋に残った。

ボルックスは、その場に立ったまま口を閉じる。


止めない。止めても無駄だと、分かっている。


「……まったく」


小さく、ため息を吐く。

その視線は、閉じられた扉へ。


「初めから同行すればよろしかったものを」


誰に聞かせるでもなく。

ただ独り呟いたのだった。


その頃――森では。


夜は深く、音は薄い。


だが、その静寂の中に。


“気配”だけが、はっきりと浮かび上がっていた。


『……二十前後。分散してる』


プラーサのサーチが、全員へと流れる。

点のような存在が、森の中に散らばる。

だが――今はもう、見失わない。


その瞬間。


『……問題ない』


低く、短い念話。

スランザだった。


『ズレもない。精度も十分だ』


プラーサが指示を出す。


『右前方、一。少し離れてる』


『了解』


イヴァンスが応じる。

気配を消しながら一歩、踏み出す。

呼吸を落とし、重心を沈める。


音を殺す。


そして――


カサリ。

わざと、小さく枝を踏んだ。


その瞬間。


『……来る』


プラーサの念話。


一点の気配が、こちらへ向かって動く。

警戒しながら。


だが、単独で。


『距離、三……二……一』


闇の中から、影が現れる。


「……誰だ?」


低い声。


剣に手をかける野盗。

その一歩を――


『今ね、ウォール』


ベラミカの魔力が走った。


無音で展開される障壁。

四方を囲う、透明な檻。


逃げ場はない。


「っ!?」


反応するより――速い。


そして――


『スリープ』


背後。

気配のない一歩。


セーニャの術が、静かに落ちる。


「……な……」


言葉は最後まで続かない。


膝が崩れる。

野盗はそのまま、音もなく倒れた。


沈黙。


『……一人、確保』


短い共有。


「いいね~」


少し離れた位置から、ジャックがくすくすと笑う。


「ちゃんと“狩り”になってるじゃん」


軽く手を振る。


その隣で、レキサルが静かに頷いた。


「お見事にございます」


二人が前に出る。


倒れた野盗を、無駄のない動きで担ぎ上げる。


「では、こちらは騎士団へお引き渡ししてまいります」


「いってら~」


ジャックは軽く笑い、そのまま闇に溶けた。


一瞬で気配が消える。


『……次』


プラーサのサーチが、再び広がる。


『左奥、二。間隔あり』


『順に行く』


イヴァンスが応じる。


同じ動き。


同じ流れ。


だが――今度は、明確に速い。


カサリ。


誘う音。


『反応あり』


『来る』


影が動く。


『三……二……』


「誰かいるのか――」


『少し大きめのウォール』


障壁、展開。


「なっ――」


『スリープ』


一瞬。


それだけで、終わる。


『……二人まとめて、確保』


リズムが、出来ている。


無駄がない。


ズレもない。


“連携”として完成し始めている。


だが――


『……奥、まとまりあり』


プラーサの声が、わずかに低くなる。


点が、集まり始めている。


「今まで通りとはいかなそうだな」


イヴァンスが小さく呟く。


『ええ』


セーニャが応じる。


『少しずつ切り崩していきますか?』


ベラミカが同意する。


『そうするしかないでしょうね』


ジャックの笑い声が、どこからともなく落ちてくる。


「いいよいいよ~」


楽しそうに。


「そのまま行っちゃえ」


森の奥。


まだ見えていない“本体”が、確実に動き始めている。


だが――


イヴァンスたちも、止まらない。


『次に行くぞ』


静かに。だが確実に。


“捕縛”は、進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ