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【BL】どうしようもない幼馴染みが恋人に!?  作者: 朏猫


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20/21

12-1 どうしようもない幼馴染みと恋人に

 エントランスに入る幸佑の後ろ姿を見る。鼓動がうるさいのがばれたくなくて、二人分くらい距離を空けて後をついて行った。


(「彼氏だから」とか何確定したみたいに言ってんだよ)


 困惑したり呆れたりしているのに否定する気になれない。心の奥で何かがざわざわする。


「コウちゃん」


 レベーターに乗った幸佑がこっちを見ている。追いかけるように乗り込むと、すぐに扉が閉まり動き出した。


(幸佑は大事な幼馴染みだ)


 二十歳になったいまでも世話を焼いてやるかと思える、いわば家族のような存在だ。でも、幸佑にとっては違っていた。

 オレに好きだと告げた幸佑と高橋の姿が重なる。正直、高橋の告白は「馬鹿言ってんじゃねぇよ」と笑い飛ばせるレベルだ。さっきは驚いて何も言えなかったが、いまなら「ごめん無理」と即答する自信もある。


(でも幸佑は……)


 グッと唇を噛んだ。ポンと音がしてエレベーターが止まった。幸佑の後に続いて玄関に入り、リビングダイニングに向かう背中をぼんやりと見つめる。たった一週間来なかっただけなのに妙に緊張している自分に気がついた。


「コウちゃん」


 振り返った幸佑に「うん」と答えながら靴を脱いだ。部屋に入り、何も変わっていない光景に少しだけホッとする。ぐるっと部屋を見回していると「ちゃんと掃除してたよ」と幸佑がはにかんだ。


「コウちゃんにいろいろ教えてもらったからね」

「教えるも何も、掃除機はアレになったからな」


 部屋の隅にロボット掃除機が鎮座している。これもいつの間にか幸佑が買ったものだ。いまでは床掃除はそれに任せて、幸佑はハンディの埃取りで棚やテレビなんかを掃除していた。それだけでも随分成長したなと思っていたが、オレが来ない間もちゃんと掃除していたらしい。


「俺、ちょっとは成長した?」

「夏休みに来たときよりはまともになった」

「やった」

「前はまともじゃなかったって言われてるのと同じだぞ。喜んでんじゃねぇよ」

「コウちゃんに褒めらたことがうれしいんだって」


 ニコッと笑う顔が眩しくてそっと視線を逸らした。そんなオレの腕を優しく掴んだ幸佑が「もっと褒めてくれていいからね」なんて言いながらソファに引っ張って行く。

 幸佑の横顔はさっきまでとは違い上機嫌だ。その笑顔を消したくない。さっきまでのことを考えてもいまは何も言わないほうがいいのはわかっている。言おうかどうか迷ったものの、このままじゃやっぱり駄目だと思い、口を開いた。


「あのさ……オレのこと、やっぱ勘違いなんじゃないのか?」


 言いたいのはそういうことじゃない。うまい言葉が見つからなくて、結局こんなことしか言えなかった。目を伏せながらソファに座ると「まだそんなこと言ってんだ」と呆れたように幸佑が隣に座る。


「だって、いくら考えてもなんでオレなんかをって思うだろ」

「コウちゃん」

「自分を下げてんじゃねぇよ。ただ、おまえくらい見た目がいいならオレなんか選ばなくてもって」

「それが下げてるって言ってるんだけどなぁ……まさかコウちゃん」


 眉を寄せた幸佑がオレの顔を覗き込む。


「さっきの奴のこと、ほんとは好きだったりしないよね?」

「はぁ? 高橋は友達だって言っただろ」

「だってめちゃくちゃ親しそうだったし、向こうもコウちゃんのことよく知ってるって雰囲気出してたし」

「入学式のときに偶然席が隣で、それで友達になったんだよ。たしかに泊まったり日帰り旅行に行ったりはしたけど」

「待って、泊まったり旅行に行ったりって何?」


 幸佑の声が低くなった。慌てて「ほかの奴らも一緒だって」と答える。


(部屋に泊まったのはオレ一人だったけど、言わないほうがいいよな)


 幸佑がため息をついた。「なんだよ」と見ると「何かされたりしてないよね?」となおも低い声で聞いてくる。


「ただの友達だって言ってるだろ」

「でも向こうはそう思ってない」

「それは……」

「コウちゃんだってあいつが本気なの、わかってるよね?」

「そうだとしてもオレにその気はない。まったくない。いくらそういうこと言われても無理としか答えられない」


 オレの言葉に幸佑がホッとしたような顔をした。不意にその顔が小さいときの表情と重なり、とある記憶が蘇る。


(いや、さすがにそれはないだろ)


 一旦はそう思ったものの気になって口にせずにはいられなかった。


「あのさ……おまえの気持ちだけど、それって本当に恋愛感情なのか?」

「どういう意味?」


 幸佑の目が少しだけ細くなった。


「昔、大事なおもちゃを保育園でなくしたって泣いたことあっただろ? あのとき家の中を一緒に探したら見つかって、そのときの顔と……おまえのいまの顔、なんとなく似てる気がするっていうか……」


 オレを見る幸佑の顔から表情がなくなる。


「俺がコウちゃんのこと、お気に入りのおもちゃと同じように思ってるって言いたいの?」

「そうじゃねぇけど……おまえ、仲いい友達いないだろ? オレ以外に親しい人がいないから勘違いしてるんじゃないかと思ったっていうか」

「そんなことない」


 即答した幸佑が、そのままスッと視線を逸らした。こういう話をしているときに視線を逸らされたのは初めてで、自分から言い出したことなのにモヤモヤしたものがわき上がってくる。


「勘違いなんかしてない。ちゃんと好きだし、おもちゃなんかと同じなわけない」

「本当に言い切れるのかよ」

「当然でしょ。俺はコウちゃんが好きだし、前からずっと好きだった」

「でも気づいたのはついこの間だよな? それだってもしかすると……」

「たしかに気づいたのは最近だけど嘘じゃない。何回も考えて、ずっと考えてわかったんだ。勘違いなわけない」

「でも、」

「俺はコウちゃんさえいてくれればいい。コウちゃんの彼氏になりたい。コウちゃんに俺の彼氏になってほしい。この気持ちは本当だし、これからもずっと一緒にいたいと思ってる。コウちゃんのそばにいたいって思ってる」

「落ち着けって」


 俯き加減でまくし立てる幸佑の表情は髪の毛に隠れてはっきり見えない。それでも興奮しているのは声でわかった。


(興奮っていうより動揺してるって感じがする)


 いつもの余裕みたいなものは完全になくなっていた。オレの指摘が当たったからそんなふうになっているのかと思うとモヤモヤした気持ちがさらに膨れ上がる。


「俺のコウちゃんへの気持ちは嘘じゃない」


 モヤモヤしたまま「わかってる」と答えたが、すぐさま「わかってない」と否定された。


「全然わかってない。小さい頃のおもちゃと同じとか言い出して、本当はコウちゃん、俺に告白されたのが嫌だったんでしょ」

「そんなことは言ってないだろ」

「じゃあなんでそんなこと言うの。断るつもりならはっきり言えばいいじゃん」

「そうじゃなくて、」

「俺の気持ちもてあそんでたってことだろ」


 幸佑が顔を上げた。初めて聞く厳しい口調に返す言葉が出てこない。


「今日だって俺がデートだって浮かれてるの見てほんとは笑ってたんだろ」

「そんなことするわけないだろ」

「じゃあなんでおもちゃと一緒なんて言うんだよ」

「それは……」

「やっぱり馬鹿にしてたんだろ」

「だから違うって。おまえの勘違いだったら幼馴染みじゃいられなくなる、そう思っただけで」

「言ってる意味がわからない」

「勘違いだったらオレが告白を受け入れてもいつか必ず駄目になる。そしたら絶対に気まずくなるし幼馴染みには戻れない。オレはそんなふうになるのが嫌なんだよ。恋人でも幼馴染みでもとにかくおまえを失うのが嫌なんだよ!」


 最後、少し興奮気味になってしまったオレに幸佑が目を見開いた。その表情にとんでもないことを口走ってしまったことに気がついてハッとする。


「いや、いまのはそういうことじゃなくて……」


 今度はオレが視線を逸らす番だ。いつも一緒に食事をしているダイニングテーブルが視界に入り、幸佑と同じくらいここでの食事を楽しく思っていた自分に気がついた。そうした時間が消えてなくなるかもしれないと想像するだけで胸がギュッと苦しくなる。


「コウちゃん、いまのって……」


 もう誤魔化したり見ない振りをしたりなんてできない。目を逸らし続けていた答えにオレはようやく目を向けた。

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