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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第七乃段
67/100

彼女の罪と罰

 五十階から見る眺めは、高所が得意ではない真崎にとってあまり良い体験とは言えない。腕時計を確認すると約束の時間まであと一分というところだ。

 ドアがノックされ、彼女が入ってきた。

 黒い髪は胸元まで伸び、化粧気のない顔に丸眼鏡を掛けていて、以前とは随分印象が異なるが、よく見ればその瞳は黄金色だ。

「お待ちしてました。あなたが西園寺夕美さん、ですね?」

 彼女は消え入りそうな声で頷くと、小さく頭を下げてから、真崎が勧める椅子に腰を下ろした。

 今回真崎はストリームシーンで火がつき今や多くの有名人が歌ってみた動画をアップするほど話題になっている女性歌手の、独占インタビューを取り付けた。曲がいいとか歌声がいいとか、そういった歌手は星の数ほどいる。しかし彼女の場合は、いわゆる「いわく付き」だ。なんでも彼女の歌を聞いた者は自殺してしまうという。

「今話題になっている『贖罪しょくざい』という曲ですが、作詞作曲はどちらもご自身でされたのですか?」

「ええ。でももう随分前、それこそ学生時代に作ったもので」

「あなたのかつてのファンという方がアップロードされてますね。他にもアイドル歌手時代の曲がいくつかありました。ただこの『贖罪』だけが異常な再生数になっています」

「もう私は歌をやっていません」

「ええ。存じています。けれど歌が嫌いになった訳ではない。夜の公園でギターを弾いていたという目撃情報があります」

 彼女は何か言おうとしたが言葉にはせず、うつむいてしまう。

「それでは話題を変えましょう。路上の死神と呼ばれていることに関して、どう感じていますか?」

「死神という言葉に良い印象を持つ人はいないと思います。私は歌を、自分の為に歌っていました。それは自分自信を救う為に歌っていた、と言ってもいいと思います。その歌が人を殺す。そんな風に言われるなら、私には歌う資格なんてありません」

 彼女の楽曲の流行と共に自殺者数が増加した、というデータは残念ながら見つからなかった。

「もし本当に私の歌が人を殺すとしたら、あなたは私を罰してくれますか?」

 彼女は今までで一番強い口調で言うと、真っ直ぐに真崎を見た。それは綺麗な黄金色の瞳で、夕陽に沈む太陽のように真崎には感じられた。


 インタビューを受けた翌日、彼女は失踪しっそうした。

 彼女がいなくなってしまってもネット上では『贖罪』が多くの人に歌い継がれ、それを聞いて死ぬ人間が後を絶たない、という都市伝説が流布され続けていた。


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