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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第七乃段
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人形樹

 突然耳を引き裂くような絶叫が響いた。

「お客様! その樹には触れないで下さい!」

 女性店員は慌てた様子で、女の顔のような模様をしているずんぐりした樹を引き抜こうとしていた子どもを引き剥がした。

 男はそれを目にしてやはりここが例の植物園だと確信する。噂を聞いたのは刑事時代に付き合いのあったホームレスの情報屋だった。何でも不可思議な植物ばかりを展示、販売している店らしい。

「取り込み中のところすまないが、こういうものを探している」

 男はポケットから皺くちゃに折り畳まれた一枚の紙を出し、それを広げて、店員に描かれている絵を見せた。

「ああ、それでしたら」

 彼女はすぐに理解したようで、親子にもう一度頭を下げてから、男を奥へと案内する。

 赤いパーテーションで区切られたエリアだった。入口のカーテンを開け、先に男に中に入るよう促す。続いて彼女も入ったが、男は一歩入ったところで立ち止まってしまった。

 そこにあったのは、地面から生えている一本の木だ。いや木と呼んでいいのか分からない。ひょろりとして、二メートルくらいまで伸びたところで大きく曲がり、先端に赤く巨大な実を付けている。その実はゆっくりと点滅しているように光り、中に何かが見えるのだが、その影がどうも人のように思えた。

「こちらですね」

 鈴木と名札を下げた女性店員が男に手渡したのはひと抱えの鉢だ。そこに貼り付けられたシールに『人形樹にんぎょうじゅ』とある。

「こちらの人形樹はお客様のお持ちになられた大切な人の物を栄養素として成長し、その人にそっくりの人形を生やす、という地獄の植物です。こちらをご購入ですか?」

 男はその場で購入を決め、彼女にお金と緑の髪ゴムを手渡した。


 三ヶ月後、男は再びそこを訪れた。

 目の前で人形樹は付けていた赤い実を地面に落とす。それは盛大に破裂し、赤い水を周囲に撒き散らした。その液体に横たわるようにして一人の女性が倒れている。裸だ。

 店員は慌てて毛布を掛けるが、男は彼女を退かすと生まれた女性を抱き締める。

「麻里」

 それは男の妻の名だった。

「すまない。俺が悪かった。もう、二度とあんな真似はしない」

「あなたは、何も悪くない」

 その言葉を聞いて男は「違う」と口走り、妻によく似た女を突き飛ばす。

「これは妻じゃない!」

 男は何度もそう繰り返し、店員に彼女を廃棄はいきするように言った。それからまた新しい鉢を購入し、店を出ていく。

 その姿を鈴木という名の女性店員は悲しげに見送った。


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