人街
旨いだろう、と西谷に言われ、シンジは湯気を立ち昇らせる熱々のスープを蓮華で掬い、口に運ぶ。牛肉とも豚肉とも、鶏のダシとも違う。次々に食べたくなるほど中毒性があり、太めのラーメンはあっという間に胃袋へと滑り込んでいく。
シンジは今日で一年半ほど勤めた冷凍食品の営業を辞めた。西谷は彼の一年先輩で、一応の上司というポジションだが、シンジと同じように今年中には会社を辞めるつもりだと言う。最後に奢ってくれたのは隠れ家的な裏路地の屋台で、小さな駐車場に停めたキッチンカーで手拭いを頭に巻いた男性が一人必死に作っているラーメンだった。
材料も調味料も隠し味も全部秘密らしいが、西谷はこれがニューミートという最近出回っている新食材だと耳打ちする。
「次も食品関係なんだっけか」
「ええ。一応食肉関連の物流だとか。俺も詳しくは知らないんですけど」
「うちはボーナスも雀の涙だからな。新しいとこでもがんばれよ」
互いにコップを掲げ、笑顔を交わした。
翌朝、クリーニングから戻ってきたスーツを着込み、貰っていた地図に従って新しい職場のオフィスに向かう。がらんとしたテナントビルの一つに入ると、指示された三階まで上がった。
オフィスには人の姿はなく、一つだけ事務机が置かれ、パソコンのモニタをミミズが這っている。マウスを動かしてみると、そこに人の顔がでかでかと表示された。
『おはようございます。日陰シンジさんですね。これから仕事先に向かってください。場所は指示書の通りです。では宜しくお願いします』
随分と早口で聞き取るのが大変だったが、シンジは準備されていた封筒を手に取り中の地図を確認する。
最寄り駅から電車に乗り、二駅をやり過ごすと、今度はバスに乗り換える。そこから郊外まで一時間ほど掛かり、更にバスを乗り換えて田畑と山が見える広い場所にやってくる。どうやら着いた場所は工場のようだった。
中に入るとまた音声メッセージで「服を脱げ」と言われる。下着になり、隣の部屋に行くとスモークが出て消毒された。その隣では薄くて白い入院着のようなものを頭から被り、最後はドアを開け、ひんやりとする薄暗い部屋に入った。
『ありがとうございます』
突然の感謝の声に続いて何かが目の前を横切る。
あれ……。
痛みはなかったものの、自分の右腕が消えていた。続いて左腕、足、どんどん切り刻まれていく。
ここは新しく建設されたニューミート工場。美味しい人肉を製造中だった。




