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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第七乃段
65/100

人街

 うまいだろう、と西谷に言われ、シンジは湯気を立ち昇らせる熱々のスープを蓮華れんげすくい、口に運ぶ。牛肉とも豚肉とも、鶏のダシとも違う。次々に食べたくなるほど中毒性があり、太めのラーメンはあっという間に胃袋へと滑り込んでいく。

 シンジは今日で一年半ほど勤めた冷凍食品の営業を辞めた。西谷は彼の一年先輩で、一応の上司というポジションだが、シンジと同じように今年中には会社を辞めるつもりだと言う。最後におごってくれたのは隠れ家的な裏路地の屋台で、小さな駐車場に停めたキッチンカーで手拭いを頭に巻いた男性が一人必死に作っているラーメンだった。

 材料も調味料も隠し味も全部秘密らしいが、西谷はこれがニューミートという最近出回っている新食材だと耳打ちする。

「次も食品関係なんだっけか」

「ええ。一応食肉関連の物流だとか。俺も詳しくは知らないんですけど」

「うちはボーナスもすずめなみだだからな。新しいとこでもがんばれよ」

 互いにコップを掲げ、笑顔を交わした。


 翌朝、クリーニングから戻ってきたスーツを着込み、貰っていた地図に従って新しい職場のオフィスに向かう。がらんとしたテナントビルの一つに入ると、指示された三階まで上がった。

 オフィスには人の姿はなく、一つだけ事務机が置かれ、パソコンのモニタをミミズが這っている。マウスを動かしてみると、そこに人の顔がでかでかと表示された。

『おはようございます。日陰シンジさんですね。これから仕事先に向かってください。場所は指示書の通りです。では宜しくお願いします』

 随分と早口で聞き取るのが大変だったが、シンジは準備されていた封筒を手に取り中の地図を確認する。


 最寄り駅から電車に乗り、二駅をやり過ごすと、今度はバスに乗り換える。そこから郊外まで一時間ほど掛かり、更にバスを乗り換えて田畑と山が見える広い場所にやってくる。どうやら着いた場所は工場のようだった。

 中に入るとまた音声メッセージで「服を脱げ」と言われる。下着になり、隣の部屋に行くとスモークが出て消毒された。その隣では薄くて白い入院着のようなものを頭から被り、最後はドアを開け、ひんやりとする薄暗い部屋に入った。

『ありがとうございます』

 突然の感謝の声に続いて何かが目の前を横切る。

 あれ……。

 痛みはなかったものの、自分の右腕が消えていた。続いて左腕、足、どんどん切り刻まれていく。


 ここは新しく建設されたニューミート工場。美味しい人肉を製造中だった。


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