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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第六乃段
57/100

ライン工

 六時五十分にデジタルの目覚まし時計が鳴る。

 顔を洗い、布団を畳んで隅に押しやり、冷蔵庫から納豆をワンパック。質素な朝食を終え歯を磨き、着替えてボロアパートのワンルームを出る。駅前まで二十分、隣の駅まで五分、そこから工場への直行バスで一時間揺られ、目的の工場に到着する。

 更衣室で真っ白な制服に着替え、帽子とマスクも着ける。真っ白な人間たちが整然と列を作り、次々と消毒室を通り抜ける。綺麗になったシンジたちは何十とラインを作るベルトコンベアの前に立ち、仕事開始の合図を待つ。

 アナウンスで「みなさんおはようございます」と始まり、ブザーが鳴ると機械が動き始めた。ベルトが滑り出し、右から左に流れていく。一分ほどでシンジの前には基盤きばんの付いた凸凹でこぼこした金属の部品が流れてきて、天井から吊られた電動ドライバで四隅を固定する。

 ダダ、ダダ、ダダ、ダダ。

 すぐに次が流れてきて、ダダ、ダダ、ダダ、ダダ。

 これをただ繰り返す。昼休憩の四十五分を挟み、午後三時までひたすらに繰り返す。それがシンジの仕事だった。

 シンジは目の前を流れる何の中身なのか知らない機械部品を見ながら考えていた。

 自分が今この手を止めたら、作業を放棄ほうきしたら、一体どうなるのだろうかと。

 試しに一度、電動ドライバから手を離してそのまま棒立ちになってみる。ビスで固定されないまま部品は目の前から移動していく。けれど誰一人としてそれを気にしていない。不完全なままでも構わずその部品は次から次へと流れていく。

「おい、何をしている? 仕事をしろ」

「あ、すみません」

 三分ほど何もしないでいることができただろうか。注意のアナウンスにシンジは慌てて作業に戻る。


 シンジはそれからも、度々作業の手を止めた。最初は週に一度、一分ほどのことだ。何回かは上手くいった。といっても、ただそれだけだ。


 ある日のことだった。

 シンジは完全に作業の手を止め、列を離れた。隣の作業員が一瞬驚いたように彼を見たが、彼らは手を止めることなく自分の作業を続けている。

 それがおかしくてシンジは笑った。笑い声を上げた。

 機械音とダダ、ダダという電動ドライバの音が響く中に、笑い声が重なる。

 だがその笑いは一分も立たないうちに止まってしまった。

 シンジの抜けた位置に別の作業員が入り、作業を始めたのだ。

「何してんだ!」

 シンジはその男を殴りつける。男は地面に倒れ、マスクが外れた。

 驚いてこちらを見たその顔は、シンジ自身だった。


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