ステーション
駅のホームには今朝も仕事や学校に向かう人の列が整然と生まれていた。そこに電車が滑り込んできてドアが開くと、一気に人が吸い込まれそのまま運ばれていく。シンジは毎朝ゴミを集めながらまるで怪物に食われているみたいだと感じていた。
その人の列の中に最近気になって見てしまう、ある男女がいた。女性の方はまだ歩くのもままならない幼子を抱いていて、スーツの男性を見送っている。
家族だ。それも結婚してそう日が経っていないだろう。二人の様子からは仲の良さが滲んでいた。
平日、毎日決まった時間に顔を合わせるようになると、軽い会釈をされたり、時には「大変ですね」と声を掛けてもらったりするようになった。旦那さんを見送った後に娘はまだ三ヶ月で、家に戻って父親がいないことが分かると泣き出して困ってしまうとか、そんな幸せのおすそ分けを貰えたりもした。
十月のある休日だった。
その日は別の用事で駅に来ていたのだが、ホームで電車待ちをしている時に気づいた。
彼女の旦那だ。知らないコートの女性と手を繋ぎ、階段を登ってきた。一見すると恋人然とした二人だったが、平日にいつも見るあの幸せそうな家族の姿を知っていると、その印象はがらりと変わってしまう。
結局その日、二人は特急に乗り込み、どこかへ出かけて行った。
十二月に入り、駅に来る人の格好もすっかり冬衣装へと変化した。少し高台にあるホームには寒風が入り込み、清掃員の冬用の制服ではとても防げない。カイロをいくつも貼り付けて寒さを凌ぐことになる。
けれど今日シンジは清掃員の格好をしていない。
ホームに彼女と旦那がやってくる。彼女は約束通り、娘を抱いていなかった。実家に預けると言っていたから、そうしたのだろう。
「あの、すみません。これを見てもらえますか?」
シンジは階段を登り切った二人に、携帯電話の写真を見せた。彼の浮気場面を捉えたものだ。ラブホテルに入っていく瞬間がしっかりと撮影されていた。
「な、何なんだ君は!」
「将太さん、ごめんなさい。どうしても、許せなかった」
「なあ順子。ちょっと聞いてくれ。これには事情が」
シンジは言い訳をしようとした男の右頬を思い切り殴りつけ、彼女の手を取る。
「行こう、順子さん」
男は何か喚いたが、構わずに彼女と一緒に階段を駆け下りる。
もうそこに清掃員として家族を見守っていた彼の姿はなかった。
ホームには電車が入ってきて、今日もまた、有象無象の人々を吸い込んでいく。




