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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第五乃段
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殺人講義

 何故人は人を殺すのでしょうか。


 私立大学の大きな階段教室にアルトの声が響き渡る。『殺人講義』と書かれたホワイトボードの前に立つ男が会場を埋める聴講生たちをゆっくりと見やり「わかりますか?」と言うのを、久慈は一番後ろの席から見下ろしながら唇を軽く結んだ。

 瀬崎恭輔は最近テレビでも引っ張りだこの新進気鋭の犯罪学者だった。今日はその彼の一般向けの講義とあって、マスコミのカメラも含めて多くの聴講者が入っている。整理券の抽選に外れた百名余りは廊下で列を作り、ざわざわとした空気がずっと会場を支配していた。

「この中に人を殺したことがある者はいますか?」

 久慈は話に耳を傾けながら会場の数名を確認し、手帳に小さくメモをする。

「他者を殺す。それは生物界ではごく自然な行いです。同じ種族ではなく、相手が別の種族であれば尚更のことで、肉食動物であれば捕食行為としての殺害は生きていく為に必要なスキルでしょう」

 会場は徐々に静まっていく。

「実は人も日常的に殺害を行っています。今朝私が食べたサンドイッチにはツナが使われていました。卵も使われていました。ハムも、あとはレタスやチーズ、それにトマト。これらは他の動物や植物の命から得られたものです。けれど、そういうことを言っているのではありません」

 久慈は事件のメモを振り返る。その殺人があったのは一月前だ。ある女性が自宅マンションで殺されていた。首を絞められたことによる窒息死だが、あまりに強い力で頚椎骨折けいついこっせつが認められた。

「私は中学の頃、いじめに遭っていました。弱者に対して排除しようという集団思考の一つです。しかしその頃はまだ他人をいじめるという行為が理解できなかった。そして逆に私にとって邪魔な存在であったその首謀者しゅぼうしゃたちを教育委員会に訴えることで排除しました。これは殺人ではありませんでした。ただこの時の体験が後の犯罪学への興味へと繋がっているのです」

 久慈の手にしていた携帯電話が震える。

「まだ小学生になる前のことです。保育園からの帰り道に屠畜場とちくじょうがありました。ただ当時は何をしているか知らなかった。そこで私はある日、こっそりと中に入っておじさんが鶏を絞めている場面を目撃しました」

 講堂の後ろのドアが押し開けられ、久慈の後輩刑事の景山が入ってくる。その手には捜査礼状が握られていた。

「私はおじさんに尋ねました。何故殺すのですか、と。するとおじさんはこう答えたのです」


 生きる為さね。


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