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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第五乃段
41/100

正義の味方時給八百五十円

 アクタースーツのヘルメットを外し、大きな息を吐いて水のペットボトルを手に取る。

「おつかれさん。これ、今月分ね」

 シンジは事務机の上に無造作に置かれた封筒を見て「ありがとうございます」と頭を下げる。すぐに中身を確かめたかったが分厚い手袋がなかなか脱げず、面倒になって結局そのままペットボトルの水を飲み干した。

 ヒーローショウのアルバイトを始めて三ヶ月。徐々にアクションにも体が馴染み、僅かばかり手足に筋肉も付いた。始めた頃は真夏の炎天下で意識が朦朧もうろうとして正直生きている心地はしなかったが、それでもショウを最前列で見ようと必死になっている子どもたちの姿に、もっと頑張ろうという気になった。

 ただこのバイトもいつまで続くだろうか、正直不安がある。

 誰にも打ち明けていないがシンジは刑務所帰りだった。


 帰り道にあるファーストフード店でいつもよりワンランク上のハンバーガーを買い、窓際の二階席に陣取る。給与袋には数枚の万札と明細が入っていたが、時給八百五十円には何の手当もつかず、それどころか衣装修理費とクリーニング代が差し引かれ、想定していたより三万円も低い。

 チーズがでろんと飛び出て、それにテリヤキソースが付着しているのが舌の上でほどよく感じられたが、またしばらくパンの耳と仲良しな生活かと思うと、胃袋がきりきりと痛んだ。

 バーガーを食べ終え、シェイクも空にしたシンジはジーンズのポケットから小さな缶バッジを取り出す。それは十年ほど前に友人の父親から貰ったものだ。戦隊ヒーローの写真は薄くなり、赤から黄色っぽく変色してしまっている。

 小さい頃に夢見たヒーローだったが、実際にやっているのはスーツの中で蒸されながら必死に手足を動かしてはステージで倒れている。そんな役回りだ。

 何の為に生きてるんだ。

 何が楽しいんだよ。

 そんな自問に苦しみながらいつも空腹を抱えて布団に入っていた。


 翌日事務所に行くと、主任の那珂野から新しいアクタースーツを渡され、こう言われた。

「欠員が出たんで、今日からこっちでがんばってくれるか。その分給料上乗せするから」

「はい、がんばります!」

 意気込んで舞台に立つ。

 子どもたちの声援に応え、大きく手を振り上げると、

「この世界の平和を守るため、お前を倒す!」

 相手のアクターが決め台詞を言い、勢い良く突き出した蹴りに合わせて後ろに飛んだ。

 そう。シンジは今日、戦闘員から怪獣役にランクアップした。ヒーローではなく。


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