目
「こうするとほらね?」
中学校の夏服のセーラーの短い袖を更に捲り上げて、佐伯ミカは集まった同級生たちに自分の右の手のひらを広げて見せる。つい一秒前までそこには男子生徒がコンビニで菓子パンを買う為に持ってきた五百円玉があったのに、どこかに消えてしまっていた。
夕美はどうせただの手品だという白けた態度で一人本を開いていたが、再びそちらに視線を向けると、今度は消えたはずの五百円玉を近くにいた女子生徒のスカーフの中から取り出して見せ、歓声を浴びていた。
転校してきた一週間前はただの大人しい子だと思っていたのに、周囲の見る目の変化は恐ろしい。
夕美は母親がドイツ人なこともあって自分の瞳の色が黄金色なことで、同い年の子らとどうしても縮まらない距離があることを感じていた。
それから一週間ほど経った土曜の午後のことだった。
夕美が忘れ物を取りに教室に入ると、佐伯ミカが一人でノートを広げて何か書き込んでいた。
夕美は思い切って彼女の前まで歩いていく。
ノートを見るとそこには生徒一人一人について詳細なメモが取られていた。
つい自分についての記述を探してしまう。
西園寺夕美。資産家のお嬢様でクラスで一番の美人。頭もよく、授業中の態度も真面目。ただ一人でいることが多く、友人はいないっぽい。瞳の色が黄金色なところが好み。
「私ね、将来記者になろうと思ってるの」
「手品師じゃなくて?」
「手品は前の学校で親が手品師だっていう子がいたから、それでちょっと教えてもらっただけ」
それを聞いて自分とは全然違うと感じると共に、手品師ではないのだという落胆もあった。
「それじゃあこの目は消せないんだね」
「嫌いなの? とても綺麗だと思うけれど」
「だってこの目が特別なせいでみんな私のことを恐れるから」
夕美がそう言うと彼女は少し考え込んで、ノートを閉じる。
「ちょっとこっち来て。隣に座って下さい」
「何?」
「いいから」
よく分からないまま椅子に座らされ、それから目を閉じるように言われた。
「そのままいてね」
何をするつもりだろうと暗闇の中で考えていると、右の瞼が開かれ、生暖かいものがそこを滑った。それは彼女の舌だった。舐められたのだ。
「目にゴミが入るとね、こうして取るんだって亡くなったお母さんが教えてくれたの」
全然痛くなかったし、ゴミなんて入っていなかった。それでも涙が滲んできて、夕美は自分の瞳に掛かっていた何かがするっと消えてしまったような気がした。




