昼下がりの戯れ
じっとりと首筋に汗をかくような蒸し暑さに目覚めると、そこはベッドではなく、ひんやりとした板張りのフローリングの上だった。レイコは開けたままの窓に一匹のアゲハが止まったのを目にし、体を起こす。
テーブルの上には飲み残しのチリワインのボトルがまだ半分残っていて、片方のグラスには口紅がこびりついたままだ。
看護学生の彼女にとって昨夜は久々の休日だった。勉強漬けの日々から解放され、青柳のワンルームでディナーを楽しんだ。床には彼女の下着がくしゃりと落ちていて、それを目にしてようやく自分が下半身に何も付けていなかったことに思い至った。
青柳とは医学生との合コンで出会った。ベッドの上で気持ち良さそうに寝息を立てる彼の顎にうっすら髭が生えているのを見て、そっと撫でる。硬くてちくちくとする感触に自分の父親のことを思い出し、この三つ年上の男性が愛おしくなった。
時刻は昼の二時過ぎ。小腹は空いているものの、一緒に何か食べるという気分でもなく、その上彼は夕方から友人に誘われていて、自分は用無しだ。
紙皿の上のすっかり冷え切ったポテトを摘む。塩味と油の塊みたいな味に眉を顰めたが、ちょっと思いついて、それを眠っている彼の唇に押し込んだ。
「ん……」
自分と同じ思いを味わっている、と想像すると何だかおかしくなり、今度はグラスに残ったワインを口に含む。そのまま彼の上に覆いかぶさり、彼の口内にワインを流し込む。
「ちょっと、何してんだよ」
彼は噎せてから上半身を起こし、目を細めてレイコを見る。
「起きた?」
「まーだ」
気怠げに首を横に振りそう言った癖に、彼はそのままレイコを抱きしめる。自分より一回り大きな体に抱きしめられる包容感が安心をくれるけれど、さすがにエアコンが壊れて自然風もほとんど入ってこない午後には暑さの方が勝った。
だから「暑い」と言ったのだけれど、彼は構わずワインに濡れた唇を押し付ける。
「もう、昨夜さんざんしたくせに」
「まだ足りない」
その甘えた声にどうしても応えたくなってしまう。こんな自分を受け入れてくれてありがとう、と。
レイコには兄が一人いる。それもヤクザの下っ端で、今は刑務所だ。そのことを彼が知らない間はきっと、大丈夫。
ただ一緒にいるだけで楽しい。
その貴重な時間を愛おしむように、レイコは自分からキスを求めた。やや驚いたような彼はそれでも応えてくれて、二人はワイン味の唾液が絡み合う戯れの中に埋没していった。




