異星人式
「お前の成人式はここで行われる」
そう言われ、鈴木教子は一月の雪の落ちてきそうな寒空の下を、スーツ姿で地図を片手に歩いていた。
その予感は以前からあった。
鈴木家は父も母も教子が小さい頃から他の家とは違うと感じることが多かった。例えば保育園で教わるまでは食事の前には「ありがとうございます」と言っていたし、小学校の参観日で自分の両親の格好が周囲と全然違い「奇抜」と言われる部類だと認識した。
父親から渡された地図には駅から徒歩で十五分と書かれていた。脇路地に入ると随分と人気が減る。通り沿いに建つビルも大半がテナント募集中の看板が出されていて、たまに入っている店舗も名前からは何をしているのかよく分からない怪しげなものばかりだ。
更に五分ほど歩く。
前方に見えるのが目的のビルなのだろう。その玄関前に人だかりができていた。
「まさか瀬崎君も?」
「君は鈴木さん、だったね」
瀬崎は自分の封筒を見せる。それは宛名も何も書かれておらず、ただ落書きのような小さな判子が押されているだけだ。
どうやら同じ式に参加するらしい。
瀬崎恭輔は小学校の同級生だったが、教子が転校してしまった為に同じクラスだったのは半年程度だ。それでも自分のことを覚えてくれていたようで、少し嬉しい。
瀬崎は今大学で心理学の勉強をしているらしい。ただ特別仲が良かった訳ではないのでそれ以上話は続かなかった。
式の会場は二階のホールで、教子たちが到着した時には既に八割くらい人で埋まっていた。その中には芸能人や野球やサッカーのプロ選手の姿もあった。
唐突にマイクのスイッチが入り、耳鳴りのような高周波が会場に響き渡る。壇上に立ったのは、最近物言う都議としてテレビでもよく見る宗像林秀だった。
「まず始めに言っておきます。君たちは異星人である、と」
その言葉に会場に集まっていた大半の人間が耳を疑ったことだろう。少なくとも教子はそうだ。
「ここへ来たのは成人式という儀式を行う為だと説明されたと思う。しかし本式の意義は、君たち一人一人が異星人という自覚を持ち、我々の崇高なる目的である地球という惑星の支配活動に邁進してもらう為の準備を、今、今日から始めてもらいたい、ということである」
教子は隣にいた瀬崎の顔を見たが、彼はただ黙って真剣に宗像のスピーチに聞き入っているようだ。
「もう一度言おう。君たちは異星人である。そして今日から我々の仲間だ」
こうして、異星人式は始まった。




