この世界の終わりを知っているか?
「この世界の終わりを知っているか?」
目の前を塞ぐように現れた一升瓶を手にした男は、シンジたちにそう言って何本か抜けた前歯を見せた。
平日の午後四時。解体作業のバイトを終えたシンジとケンジは埃塗れのニッカポッカ姿でコンビニで何か買おうと話していたところだった。変質者に注意と書かれた張り紙が電柱でひらひらとしていて、こんな昼間から出没するのは宗教の勧誘か詐欺まがいのセールスだと思っていたところに、ヤツは現れた。どちらでもない本当にやばいタイプの人種で、その証拠に口元に笑みを浮かべながらも目が据わっている。
「聞いてるんだよ。お前らはこの世界の終わりがどうなるか知っているかって」
「知りませんけど」
答えない方が良かったのだろうか。男は罠にかかった獲物を見つけたようにほくそ笑むと、一升瓶からぐいと液体を流し込み、よれよれのシャツの袖で口元を拭う。
「オレは知ってるんだよ。何故って、さっき終わりを見てきたからな」
シンジは隣で梅干しでも食べたみたいな顔になっているケンジに目配せし、そのまま通りすがろうとした。
「おい待て。核戦争で終わるとか隕石が落ちてきて終わるとか、そんな最後じゃないんだぞ?」
無視しろ。と内なる声が叫んでいた。
ケンジともども下を向いたまま足早に行ってしまおうとする。
「シンジ、それにケンジ。お前らに話しておかなければならないことがある」
何故名前を知っているんだ。
その疑問で足が止まり、シンジは思わず振り返っていた。
「この世界は既にヤツらがいる」
それは冗談の類を口にしている目ではなかった。
「ヤツらはオレたちの知らない間に生活に入り込み、ある日突然、反旗を翻す。昔なんかの映画で見たんだ。ヤツらは人間になりすまし、その時をじっと待っていて、時が来れば一斉に正体を現し、人類を滅亡に追いやる。分かるか?」
分からないし分かりたくなかった。
「お前らにこれをやる」
そう言って男はポケットが小さなものを二つ取り出し、それぞれシンジとケンジに手渡した。手を広げてみるとビール瓶の栓のような金属に、ヘルメットを被ったヒーローものの主人公の写真が載っていた。缶バッジだ。
「お前らがヒーローになれ。そして世界を救うんだ」
シンジはその言葉に何故か胸が熱くなる思いがしたが、隣でケンジは思い切り缶バッジを地面に叩きつけた。
「親父、いい加減にしろ」
どうやらその男はケンジからよく聞くどうしようもない父親らしかった。




