鈴木教のクリスマス
駅前の広場には巨大なツリーが置かれ、電飾がきらびやかなイメージを周囲に撒き散らしていた。それに群がるようにして待ち合わせの恋人たちが二人組を作る。
その様子をコンビニのカウンターでレジ打ちをしながら、高森好市は黙って見つめていた。店内はクリスマスカラーに染められ、流れてくる曲もほぼクリスマスソングだ。
と、目の前にシャツとジーンズといった平凡な服装で一人の女性が現れた。鈴木教子、好市の彼女だ。
「明日のデートなんだけど、キャンセルね」
「え? 折角クリスマスイベントチケット手に入れたのに」
「ワタシ、鈴木教だから」
それだけ言うと、会計を済ませて彼女はサンドイッチとジンジャエールを手に、立ち去ってしまう。
鈴木教。それは彼女が信仰しているらしい彼女独自の宗教で、特色はメジャーなイベントを全て否定し、世間に迎合しないというものだった。つまりバレンタインやハロウィンはやらないのは当然として、正月もなければクリスマスも完全にスルーする。
それを承知で付き合うことにしたのだけれど、本当にここまでイベントをやらないとは思わなかった。付き合っていけばそのうちやりたくなると思っていたのだけれど、彼女は頑なに拒否し続けた。
次の週末、キャンセルした分のデートができることになった。くしくも二十四日。クリスマスイブのことだ。
「待った?」
その日の彼女は赤いワンピースに深緑のジャケットを合わせていた。あまり被りたがらない帽子も赤で、やや先が尖っている。好市はサンタを想像したが、彼女に聞くと「全然違う」と言う。
今日は彼女がこの前のキャンセルのお詫びということで、好市が行きたがっていた都内のデートスポットを梯子しようということになった。
お台場に六本木、東京タワーも全てがクリスマスカラーで、カップルで溢れていた。当然彼女はクリスマスのクの字も口にしないし、現地で買う食べ物も絶妙にクリスマス限定商品を避けた。
それでもクリスマスの雰囲気の中を二人で歩くだけでも好市は楽しく、彼女とクリスマスデートをするという夢は叶えられた気分だった。
夕食は彼女がご馳走してくれるというので、電車で彼女のアパートに移動した。
「お邪魔します。あれ、これって」
見ればテーブルの上には大きな鳥の丸焼きが載っている。
「七面鳥ってやつが食べてみたかったの。それだけなんだからね」
そう言って恥ずかしそうに好市を見た彼女を、鈴木教でもいいと、信徒Aは思った。




