面倒くさい
部屋に戻るなり、絨毯にしゃがみ込んだ。
足腰に力が入らない。呆然としたまま考えを巡らせた。
嫌われていたのだろうか。
めんどくさいって言っていた。
何がめんどくさいんだろう。
僕がトロいからめんどくさいのだろうか。
当てはまる事が多すぎて、泣きそうになる。
知らなかった。
嫌われているなんて思いもしなかったから、まさか、伊吹があんな事を思っていたなんて思いもよらなかった。
ふらりと絨毯に手をついた。手が震える。目頭が熱くなり、涙が出そうになった。
嫌だ。伊吹に嫌われたくない。
でも、こんな厄介な想いは伊吹にとって迷惑なだけかもしれない。
手で顔を覆ったとたん、涙が溢れた。
「く……っ」
転勤は偶然じゃなかった。本当に伊吹と離れなさいって意味なんだ。
海斗は力なく笑いながら溢れる涙を拭った。
涙は止まらない。
ずっと好きだった。伊吹の事を何年も想い続けてきた。
この気持ちはばれてはいけないと隠してきたけど、隠す必要すらなかったなんて。
ぽたぽたと絨毯に涙が染み込んでいく。
口の中に入る涙の味はしょっぱくて、海斗は思わず笑った。
「失恋……しちゃった…」
笑顔はやがて消えて、海斗は呆けたようにその場に座っていた。
月曜日、海斗は前日のショックを引きずったまま学校へ行った。
夕べ、伊吹は来なかった。
きっと女の子と一緒にいたのだろう。自分の事など思い出す時間もなかったはずだ。
投げ遣りな態度で学校へ行ったが、次第に力が抜けていく。
太一が何度か心配そうに話しかけてくれたが、優しくされれば泣きそうな気持ちになるので、海斗は頑なに首を振っては、何でもありませんと答えた。
放課後、仕事が終わって重いため息をつくと、苛々した口調で太一が背中を叩いた。
「お前、いい加減にしろっ」
「先輩…」
口を開いたとたんに涙腺が緩んだ。
今にも泣きそうな海斗を見て、太一は息を呑んだ。
「忘年会するか」
「え?」
「俺の部屋で忘年会だ。今年の辛かった事聞いてやるよ」
海斗はこくりと頷いた。
「そんな顔すんなよ…。な?」
なだめるような口調にすら、すがりたくなる。
「はい……」
顔を上げた時、少しだけ海斗の顔に笑みが浮かんだ。




