夜道
夕飯はいらないと家に連絡をして、薄暗い夜道を二人で歩いた。
「あんま、星見えねえなあ」
「はい……」
ぽつんぽつんとまばらに光る星はあるが、それが何の星なのかさっぱり分からない。
「北斗七星見たいなあ」
太一が呟く。
「今日は曇ってますから……」
「だよなあ」
こんなたあいないやり取りをしている間も、海斗の心はここにあらずだった。
「何飲む?」
「え?」
無理やり笑おうとすると、肩を叩かれた。
「鏡で見せてやりたいよ。その顔」
「どういう意味ですか? それ」
意味が分からず海斗は頬を緩めたまま首を傾げる。
「もう少し我慢しろ。部屋に入ったらいくらでも泣いていいからな」
泣いていいと言われると今すぐ泣きたくなる。
海斗はうつむいて歯を食いしばると、太一がその腕をつかんで早足に歩き出した。
家に着く前に近くのコンビニでビールやワインを買った。
太一のマンションが見えてきた。
「もう少しだ。頑張れるか?」
優しい言葉に海斗は頷いた。
「大丈夫ですよ、僕……」
そう言った時、ぽろりと涙が零れた。
「あっ」
海斗がびっくりして顔を押さえた。
太一は、海斗の腕をつかむと急いでエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターが止まり、二人は無言で下りた。
太一が鍵を探している間、海斗は太一の洋服にしがみついた。
ドアが開いてなだれ込むように部屋に入った。とたん涙が溢れ出した。
堰を切ったように涙が出る。
「ううっ」
ダメだ。もう、我慢できない。
「先輩……。僕っ」
「まあ、部屋に入れ。ここじゃ寒いから」
優しい言葉が胸に沁みる。
「はい…」
部屋に入ると太一はすぐさま暖房を入れた。テーブルにビールやワインを並べると、冷蔵庫をのぞきこんだ。
「つまみは何もないな」
「なくてもいいです…」
泣きながら海斗が呟いた。
「大丈夫か? 目が赤いぞ」
海斗の顔を覗き込む。
「もう、大丈夫です。泣いたらすっきりしました。ありがとうございました」
「そうか」
太一はほっとしたように言って、いつものように海斗の頭を撫でた。
「それ、気持ちいです」
そう言うと、太一はハハと笑った。
「まあ、飲むか」
「はい」
ビールのプルタブを開け、二人はカチンとお互いのビール缶をぶつけた。
「転勤おめでとう。海斗なら次の学校でも生徒から人気のある先生になれるはずだ。自信を持て」
「はい……」
海斗はぐっと言葉に詰まった。
「言いたくなったら言えよ。聞いてやる」
「はい……」
冷たいビールが喉を通っていく。
海斗はいつしか酔いと共に、心に溜めていた気持ちを太一に向かって吐き出していた。
太一はそれを静かに聞き入れてくれた。
「先輩……」
「ん?」
気がつけば太一の腕の中で海斗は目を閉じていた。
優しく腕を撫でてくれている。
「ゲイって気持ち悪いですか?」
その質問に太一は苦笑した。
「お前をこうして抱いている俺に言うのか?」
「え?」
顔を上げたとたん、ふっと目を細めた太一が頬を寄せた。
生暖かい唇の感触に目を見開いた。
太一がそっと唇を離す。
「俺も同じだ。男が好きで、お前の事をずっと好きでいた」
「え…?」
とろりとした目で海斗は太一の顔を仰いだ。
目を閉じると、喉を鳴らした太一がもう一度唇を重ねてきた。
「いいのか?」
海斗は何も答えなかった。
太一が海斗の体を押し倒す。何をされているのか分かっていたが、抵抗しなかった。
目を閉じてされるままになり、涙を零した。




