第9話
城を出たあと、
アムネリスは一人で塔の最上階へ向かった。
夜だった。
窓から都市が見える。
新しい女王女神の誕生を祝う灯りが、
地上を星のように埋め尽くしている。
その向こうに大聖堂があった。
レジェンダリーの本拠地。
アムネリスはしばらくそれを見つめていた。
「見つけられるわけがない」
アムネリスは呟いた。
あの日、自分が何をしたのか。
すべてをCL3-SC4に話したわけではない。
彼女の手の中に、小さな光が生まれた。
無数の粒。
星屑のように散っている。
アムネリスは転生術を使った、あの瞬間を思い出す。
本来なら、
一つの魂を、一つの器へ送るはずだった。
だが、それではレジェンダリーに追跡される。
女神の核は存在が強すぎる。
だからアムネリスは、
一つだけ術式を変えた。
自分にさえ、追跡できないように。
あの瞬間、
メンディアは光の中へ消えた。
今どこにいるのか。
どのような姿になったのか。
アムネリスにも分からない。
そして、たとえ見つけたとしても――
元のメンディアに戻るのか。
それすら分からなかった。
CL3-SC4には言わなかった。
言えば、行かないかもしれない。
あるいは、それでも行くかもしれない。
どちらにせよ、
伝える必要はない。
そう思った。
少なくとも今は。
そのとき、
脳裏の奥で微かなノイズが鳴った。
アムネリスは目を閉じる。
最近、少しずつ近くなっている。
始祖女神の気配。
契約の代償が、いつ訪れるのかは分からない。
明日なのか。
もっと先なのか。
次に目を覚ましたときなのか。
アムネリスは再び窓の外を見た。
CL3-SC4は、もう十分に離れただろうか。
メンディアを見つけられるだろうか。
そして――
そのときまで、
自分はまだ自分でいられるだろうか。
「急ぎなさい、CL3-SC4」
小さく呟いた。
「私が、まだ私でいるうちに」
もちろん、返事はない。
アムネリスはしばらく黙って、
遠い夜空を見つめていた。
「ごめんなさい」
誰もいない部屋で呟いた。
その言葉がメンディアに向けられたものなのか。
CL3-SC4に向けられたものなのか。
それとも、
これから消えていくかもしれない自分自身に向けられたものなのか。
彼女にも分からなかった。




