第5話
静寂が訪れた。
アムネリスは一人、崩れた神殿の中央に立っていた。
勝者。
誰が見ても。
最後まで立っている女神は彼女だけだ。
だが、勝った感覚などなかった。
空を見上げる。
「これでいい」
誰に言ったのか、自分でも分からない。
「これで……」
その瞬間。
脳裏の奥でノイズが鳴った。
聞き間違えるはずもない。
あの女が目を覚ました。
「おめでとう。今度は、うまくやりなんしたなぁ」
アムネリスは答えない。
頭の奥で、始祖女神が笑った。
「……約束は、忘れておりんせんな?」
――
地下祭壇では、四人のレジェンダリーが沈黙していた。
六つの棺。
六人の女神。
祭壇中央に開いた巨大な魔法陣は、
七人目の供物を待っている。
だが、何も届かなかった。
一人の司祭がゆっくりと顔を上げた。
黄金の仮面の奥で、赤い光が灯る。
「消失を確認」
別の司祭が答える。
「死亡反応なし」
「転送か」
「転送先、不明」
長い沈黙。
そして、最も背の高い司祭が言った。
「アムネリス」
その名だけが、巨大な地下空間に響いた。
祭壇の上で、
三つの頭を持つ影が揺れた。
七人目の生贄を得られぬまま、
輪郭を持つこともできず、
やがて光の中へ沈んでいく。
ケルベロスの召喚は失敗した。
戦いから七日後。
アムネリスは女王女神となった。
世界中の都市で鐘が鳴らされ、祝福の白い花が撒かれた。
人々は新たな百年の始まりを祝った。
六人の女神の死を悼み、
メンディアの死を悼み、
最後に残ったアムネリスを讃えた。
レジェンダリーの四人も大聖堂の階段に並び、新女王へ祝福を与えた。
「光と共にあらんことを」
最も背の高い司祭が、一歩だけ前へ出た。
「これより百年、光はあなたの歩みを見守り続けるでしょう」
祝福の言葉。
だが、アムネリスには警告に聞こえた。
――我々は見ている。
彼女は笑みを崩さなかった。
「ええ。私も、光から目を離さぬようにいたします」
一瞬。
四つの黄金の仮面が沈黙した。
周囲の人々には、女王と司祭が穏やかに言葉を交わしたようにしか見えなかった。
それでよかった。
その言葉を聞きながら、アムネリスは微笑んだ。
彼らも微笑んでいるように見えた。
仮面の下に表情などないことを、アムネリスだけが知っていた。
世界は何も知らない。
そして、今はそれでよかった。
レジェンダリーの企みは失敗した。六人を取り戻す方法はまだない。
だが少なくとも、
七人目の生贄は渡さなかった。
ケルベロスも現れなかった。
そして自分も、
彼らの力に屈する傀儡にはならずに済んだ。
百年の統治権はアムネリスのものとなった。
彼女は勝ったのだ。
そういうことになっていた。




