3話 澪桜の軌跡 2回目~17回目 真面目にアホな女
2度目の転生。
手放したはずの意識がハッキリしたのは3歳の頃だった。
今回は赤子から生まれ変わったらしい。
また誰かの人生の終わりから始まった訳では無いことに少しだけ安堵した。
この度、生を受けたのは再び日本だった。
ただ……私の知る現代ではない。
慶安3年(1650)、徳川家光の時代。
歴史は詳しくない。だけどなんか聞いた事ある名前。
だがそんなのは庶民の我らにはほぼ関係はない。
政は上の方のお偉いさん達の話だ。
いつの世も、それは変わらない。
私は大工の正作という父と、妙という母から生まれ、ただただエコな時代を体験しただけだった。
はじめの方こそ電子レンジや冷蔵庫、ガスや電気を懐かしんでいたが、気付くと不自由さにも慣れ、世話焼きの長屋の人達と仲睦まじく生きた。
当時で言えば大往生となる67歳まで独り身を貫いた私は、風邪を拗らせて長屋の皆に看取られながら死んだ。
……経験値として残ったのは、プロとして呉服屋さんから依頼されてたお針子(仕立て屋)としての腕、元結(髪を結う和紙の紐)作り、火起こしの技術……そのくらい。
あとは身分違いなのでお侍さんと目を合わせちゃいけないということを学んだ。
ちなみに鞘に触ると殺されるらしい。
髷を触っても殺されるらしい。
……お前らはどこぞのヤンキーか。
5度目の転生。
酷い干ばつに苦しむ土地に生まれた私。
親はいない。兄妹で支えながら生きていたがその年は特に水不足に悩まされた。
動物達の水飲み場すら枯れ果て、亀裂の走る大地、虫の屍すらいない。
それでも、出来る限り試していく。
火起こし沸騰殺菌……力がなくて火が起こせない。
濾過装置……濾過出来るほど水がない。
地脈……探すだけ無駄。
木の幹に穴を開けて水分を……いや、既に木が枯れてる。
何も役に立たない無駄な知識だけが頭を上滑りする。
現実など、こんなものだ。
……正直、飢餓も相まって判断能力が落ちていた自覚はある。
余りの乾きに半ば走馬灯が見えた私。
そこである記憶を呼び覚ます。
昔、澪桜だった頃に、MeTubeで見たサバイバル術。
神さまからの思し召しとばかりに、私は最後の力を振り絞って動き出した。
「やめなよ。死んじゃうよ」
不安がる兄に下手くそなウインクをして安心させた。
「大丈夫だよ! 飲めるって言ってた!」
「誰が!?」
「いよぉし! 飲むぞ!!」
私が持ち上げたのは……出来たての象のフンだった。
その冒険家は絞り出した水分で安全に水分補給できる、緊急措置だと言っていた。
だから信じて飲んだ。
あの冒険家を。
……翌日
案の定私は激しい腹痛を起こし、脱水症状になって呆気なく死んだ。
この時、バイタルが正常かそうでないかで結果がだいぶ変わることを知った。
アホな妹ですまん、兄よ。
どうか、私の分も長生きしていておくれ。
10回目の転生を超える頃
少しずつ自身の死に恐怖を覚えなくなってきた。
人の死の後の人生にも。
頭痛も無くなった。
余り感情も揺れなくなっていく。
何度も死を経験したせいで
共感も悲しみも……あまり感じなくなってきたような気がする。
そんな私を人は”薄情者”や”冷酷な人間”と呼んだ。
私は言いたい。
記憶をずっと残したまま、会いたい人にもずっと会えずただ永遠とも呼べる時間を彷徨う。
お前はそれを経験した上で罵っているのかと。
私だって……
会いたい人はいる。
その為に探してる。
ただ、会えないだけなんだ。
転生13回目。
今世は12歳からのスタートだった。
病に伏せていた私。今日が峠だと言われていたが奇跡的に助かった。
異世界……というのか。世界にいるという女神を崇め、聖女を敬う世界の、しがない商家の娘だった。
ある程度裕福だが貴族になれる程でも無い。
今度こそ夫を探しに行けると、胸を弾ませた私は知識を得る為に文献を読み漁り、世界を勉強して、旅に出る準備を着実に進めていった。
だが、いつもの国立図書館に向かっていた途中。
とある貴族に見初められてしまった。
半年後、側室として14歳の頃に見受けが決まった。
泣いて嫌がったが……覆ることはなく、48歳のオッサンに嫁がなければならなかった。
初夜の日。
私は貞操と、周さんとの愛と、自らの尊厳を守るため、メイドの目を盗み、縄紐を手に入れ……オッサンにドラゴンスリーパー(ヘッドロック)をかけ、力技で失神させた後、その紐でオッサンの身体を縛り上げ逃走した。
普通に翌日捕まって、絞首刑にされた。
……他人の家に逃げたのがダメだったね……。
気の良さそうなお年寄りだからと言って見ず知らずの人間を信じるのは止めようと思った。
17回目の人生。
西暦2510年の世界。カナダ。
牛は食べない。豚も。鳥も。野菜もない、果物も。米もパンも。いるのは管理された虫だけ。
すべてバクテリアで生成されたなんちゃってご飯。
ガスや石油などの資源を使う事はない。
火も起こせる人間はいない。
栄養管理は完璧。おやつはバッタかコオロギ。
この時代に生まれたお陰で、バッタの塩バター味スナックが好きになった。私はコオロギや芋虫よりバッタ派だ。
(……周さん、虫嫌いだから、こんな話したらきっと裏声で叫ぶんだろうなぁ)
人工的に作られたホログラムの青空を眺め、人工植物の葉を揺らすサーキュレーターの風を感じて微笑む。
つい思い出してしまう懐かしい記憶。
澪桜としての人生を終えてから、通算で400年ほど生きた私。
この体も使い古し、インプラントだらけ。元の体の部分は脳の一部と膝関節くらいのものだ。
臓器も皮膚もすべて。カスタムする時代。
お金さえあれば本当の意味で不老不死にもなれる。
一般市民でも、平均で100~170歳は生きられる。
ちなみに私は今150歳を超えている。購入したパーツが良品だった事と、私の物持ちの良さの相乗効果だろう。
江戸時代を生きた生活の知恵のおかげか。
不意に通り過ぎた男性に、彼を見た気がして。
心がザワつく。
……いや、そんな訳ない。
ここ、カナダも散々探し回ったじゃないか。
微かに微笑むシリコンの頬。
(この世界にもいない。全世界60億の人が使っているSNSに『ユウキアマネ、これを見たら連絡して』毎日欠かさず何度も投稿した。だけど誰からも返信はない……もう130年近くも続けているのに)
目の前を、子供が楽しそうに遊具で遊んでいる。
思わず目を細めてしまう。
つい、我が子と重ねて
胸を締め付けた。
柊弥と瑞希
思いやりがあってとても優しい子達だった。
あの子達にも、もっとしてあげられる事があっただろうに。
どうか、私のような経験をしませんように。
ずっと幸せでいてくれますように。
ホログラムの花びらが手に落ちて消えた。
ゆっくりと機械音のする指を握りしめる。
ああ、またあの声が記憶を掠める。
(もう、これ以上反芻させないで)
穏やかな時の流れ、穏やかに過ぎていく人生が澪桜を縛り、魂をゆっくりと摩耗させていく。
静かに瞼を閉じた。
どうして……
どこにも周さんはいないんだろう。
どうして……
こんなに苦しいのに。
何百年も前の事なのに。
忘れられないんだろう。
初めて周さんと公園デートした日の事をまた思い出し。
乾いたガラスの瞳に熱を持った。
(やめて)
思い出すアンバーの香り。
彼の微笑みと甘い声。
『……澪桜』
(もう、やめて)
ただ
あなただけは―――
(お願い、忘れさせて)
矛盾しているのは分かってる。
馬鹿だと思う。
転生する度に探した、会う人皆にあなたの名前を呼んだ。
何処にも存在しない事は頭で分かっていても。
―――貴方に会いたい。
次回は14日更新!
リアルとして考えたら。
そんな都合よく愛する人には会えない
そんな気軽に人を好きにはなれない。
転生する世界線や生まれ落ちる場所は選べない。
と思いました。




