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4話 澪桜の軌跡。転生23回目~35回目 クソエルフ

 


 彼はいつからか――


 呪いに変わった。



 人はきっと、この痛みに耐えられないから愛を忘れて生まれ変わるのだろう。


 新しい人生を生きる為に。


 私は世界のバグ。


 この魂に刻まれた


 その瞳が

 美しい微笑みが

 長いまつ毛が

 低くこもった声が

 優しさが……


 君の愛が


 君への愛が、私を縛る。


 この呪いからは永遠に逃れられない。


 もう、彼を探すのはやめよう。

 この世に彼はいないのだから。



 そう結論付けて、静かに呪い(彼との思い出)に浸り3人分の人生を終えた頃。



 生きていくことに疲れた私に


 新たな目標が出来た――




 転生23回目


 時は15世紀、ヨーロッパ




「魔女だーーー!!」



「焼き払えーーー!!」



「焼死だけは嫌だ!! 火傷痛い! 体験したくない!! そんな苦しい死に方したく……ぎゃあ!」



「魔女を捕まえたぞ!!!」



 全力で逃げたが、呆気なく男たちに取り押さえられてしまった。

 腕ごと上半身を縛り上げられ、連行される。


 煤けた金髪が、焚き火の香りのする風に揺れた。

 灰色がかった瞳が空を見上げる。



 ああ、今回も失敗か。



 ごめんね。


 早くそこに行ってあげたいのに。


 どうしても君の元へ行かせてもらえないんだ。

 

 きっと寂しくて今頃泣いているよね。


 神様は意地悪だよ。


 私はただ、天国に行きたいだけなのに。




 だけど、手段はない。

 当たり前だけど。


 ありとあらゆる文献を調べあげ、今回は黒魔術というものにハマり、コウモリの干物を買い漁っていたら、村人に目をつけられて魔女だとチクられたのだ。


 確かに、コウモリはダメだったな。そりゃ怖い。



 逮捕され高い塔に投獄される日、焼死だけは嫌だったので、村人が鍵を開ける隙をついて、塀によじ登った。



「その縄にかける手を離さないと……道連れだぞ? 村人よ」



 なんの躊躇もなく手を広げ、私は30mの高さから落ちた。


 多分、村人は恐怖したことだろう。

 どうでもいいが。




 ***



 転生35回目。


 惑星ノア 聖歴2072年


 何度目かの異世界転生。


 異世界と言えば惑星ノア。私は地球とノアを行き来しているらしい。

 今回はなんと、人ではない。


 ドワーフだ。


 手足が太く短く。


 毛深い!(個人差あり)


 昼下がりの午後。テーブルに肘を付いて真剣に本を読む私にしゃがれた声がかかる。



「ガル、お前また本読んでんのか?」


 見上げるとぶっきらぼうな態度で少しだけ口角を上げる男が立っていた。



「面白いんだよ。コレ! 今のイチオシだ。豊穣の聖女って人が書いた自叙伝でねぇ〜。如何にもチートって感じだね!」



 ねずみ色の本を手に取り、短く太い腕で彼に見せつける。


 褐色の肌に肉襦袢(にくじゅばん)を纏ったようなイカつい男性、ネオが私の言葉に首を傾げた。



「ちぃと……? なんだそれは。お前はたまに訳分からん言葉使うよな。……人間贔屓がすぎるんじゃねぇか?」



「いいじゃないか贔屓しても! 人間はいいよ! 中にはやな奴もいるけどな。そしてエルフ! いいねぇ〜美しくて気高くて。あたしゃ好きだねぇ〜」


「エルフの何がいいんだ悪趣味だな。ってお前また……魔法省の図書館に行ったんじゃ……!? あれだけやめろって言っただろ!? アイツらは他の種族なんかゴミとしか思ってねぇんだよ!! 目ぇ付けられたらロクなことにならねぇぞ!?」



「はいはい〜気をつけますよ〜。にしてもこの著者、アステニアって聖女さんの本、面白いねぇ。残念な彼女に共感しすぎて首がもげそうだ。彼女が開発した技も……ププッ厨二病が凄くて私も使ってみたいよ。ゾンビ倒す時に使う技って。何時なんだいそれは? あはははははは!」



「ったく、俺の話聞いてねぇし。今日の分のレッドウルフの肉、ここに置いといてやるから。下処理をちゃんとしとけよ」



「はいよぉ、いつもありがとさんよ〜♪」


「どこのババアだお前は。ほらこれ今月のオーダーだ。頑張れよ」



「へい毎度ぉーそこに置いといて」


 視線は本に落としたまま、テーブルを指さした。

 加工前の原石のカゴがボサっと置かれる。


 私は今世、父親に作ってもらったルーターで原石を磨き、ブリリアントカットの宝石を生み出す仕事をしてる。


 澪桜だった頃の幼少期、泥ダンゴもピカピカに磨きまくっていた私。


 磨くのは好き。


 周さんの車も、ガラスコーティングはお手の物だった。



 ……と、ちがう。話がズレた。


 何度目かの異世界で、輪廻を終わらせるカギはこの世界にあると仮説した。


 というのも、この世界には実在する女神が5人いて

 人々はそれを崇拝しているのだが


 そのうちの一人が、輪廻転生を司っているらしいと、様々な文献を読み漁って知ったから。



 アステニア(月の欠片)という星名を持つ聖女こそ、その加護を持った人間。



 星の名を女神から賜った聖女は歴史上三人のみ。彼女は3代目にして歴代最高と崇められている現役聖女(67)だ。


 白髪に白い瞳。色白の肌に華奢な体躯という、異様に美しい聖女だと噂で聞いていた。


 人の寿命は短いから、もうおばあちゃんだろうけど。



 依頼はかなり高額になるらしいから直接会うことは出来ない。


 だから私は彼女に絞り込んで彼女が書いたありとあらゆる自叙伝を探しまくって読んでいる。


 まぁ、ほぼ中身は近所のオッサンに対する愚痴とか、最近あった残念な話とか。人から歩くエノキ呼ばわりされてるとか。


 ほぼエッセイなんだけど。面白いんだ。

 神聖力なんか使えないけど、説明が分かりやすくて。

 ドワーフなのに手から出せるんじゃないか試してみたくなるほどだ。


 カッコイイ技名付けるのに半年かけたなんて話を読んで笑った。


 内戦の多い時代だからか。

 はたまたアステニアが血の気が多いからか。


 豊穣の聖女なのに、物騒な技が多いのは置いといて。



 本も買うと高いから、お金を貯めて借りるようにしている。


 中でも魔法省の図書館は彼女のシリーズが充実しており、探しやすいし最高なんだ。



 後書きまで読み終わった、私は悦に浸る。



「……新刊早く出ないかな。……彼女の仮説だけど、理論上の奥義ラグナロク。それが鍵な気がするよ。待ち遠しいなぁ〜」



 後書きにちゃんと次回予告だけはキッチリする商売上手なアステニア。

 そこも好感が持てる。


 ドアを開け、帰って行くネオの後ろ姿を横目で確認して、もう一度初めから読み返し始めた。


「ガル、いい加減ネオの気持ちに答えてあげたらどうなんだい?」


 編み物をしていたおばあちゃんに眉を下げて返す。


 生まれてから500年、私は伴侶を取っていない。

 この人生も当たり前のように。



「残念だけどそれは無理。私はね、おばあちゃん。好きな人がいるんだよ」



「……その人と結ばれるのかい?」



「……いつかね」


 視線を窓の外の晴れ渡る空に向け、微笑んだ。



「そうかい。ネオは可哀想だがそれじゃあ仕方ないねぇ」


 おばあちゃんは鼻歌を歌いながら編み物に目を落とした。


 心地よい音色に浸り、読書を続ける。

 穏やかな午後が今日も続く



 そう思っていた。



 バン!!


 急にドアが開き、黒ずくめの男たちが5名ほど入ってくる。


「だっ……誰だい!?」


 びっくりしたおばあちゃんが声を張り上げる。


 恐ろしく塩顔の眼鏡をかけたエルフが丁寧にお辞儀した。


 塩顔なのに整っているその顔は、能面のように表情が固定されていて薄気味悪い。



「これは失礼。魔法省のエルダーニアと申します。お宅のガルさんに、間諜の嫌疑がかけられておりましてね」


「かっ……!? 私スパイなんかしていません」


 慌てて否定するが、全くエルフの心には響かない。



「ええ、ええ、分かりますよ。皆さんそう仰いますから。……でもね、ガルさん。君のような薄汚いドワーフ如きがなぜ週に何度も気高き魔法省の図書館に許可証なく通い続けているのかな?」



「え? ……だっ……だって、司書のエルフさんが気にしなくていいって……」


「そのエルフは君から脅されたと言っているんだが?」



「そっそんなはず」


「連行しろ」



「ガル、待っておくれガルー!!!!」


「おばあちゃん、私は無実だぁぁぁぁ」



 私はこの日思い知った。


 この世界の


 いや


 エルフという生き物はクソだと。




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― 新着の感想 ―
毎話感想失礼いたします。今日は本編のほうにもうかがったし…… と思いましたが、宣伝ポストの「毛深い!」に惹かれてうかがってしまいました。 今後に向けての大事な情報が開示された気がしますが、「エルフと…
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