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23話 残念な妖精は夜を徘徊する

 


 月明かりが小さな窓から優しく差し込む。

 そこに音もなく徘徊している怪しい影が一つ。

 その大きな影は、差し込む光に髪色だけ反射させていた。



 隠し扉から抜け、客間の回廊にでてきたアズィーズが黒い影の後ろを取り声をかける。


「……レヴィ。こんな所で何してるの」


「!!!!」


 慌てて振り返るレヴィ。焦りからか、手に持っていたランタンを落とした。


 コロコロと転がってきたランタンを拾い、アズィーズが口を開く。


「……気になって来たんでしょ? テレサ様の事」


 ギョッとした顔をした後、レヴィは落ち着かない様子で髪をかきあげる。


「……馬鹿な。なんで俺があんなガキを気にしないといけないんだ!」


「……じゃあ、こんな客間しかない所に何でいるのさ」


「うっ!!!」


 図星というように肩を大きく揺らした後、レヴィは気まずそうに固まった。



「……ふ、風呂に行こうと……」


「何言ってんの。風呂は上の階の、西棟でしょ。ここ、階も違うし、しかも東棟なんだけど」



「うぐぐ!!」


「ねぇ、レヴィ。本当は……ベンに変わってオアシス作りに行くの手伝おうって思ってたんじゃないの?」


「はあ!? ……さ、さっきから何を言ってるんだ!? そんな事する訳ないだろ!? 何でわざわざ俺が手伝わないといけないんだ!」



「……1階の入口のとこ、君のカマル(ラクダ)が待ってた」



「……俺は知らん!!!」


 レヴィは苛立ちを隠せず顔を真っ赤にしてアズィーズからランタンを受け取り、戻っていく。



「そんな気になるなら……なんであんな無視したんだよ! せっかく途中まで楽しく旅できてたじゃないか! 可哀想だよ。……きっと傷付いていたよ? テレサ様」



「知るか! 別にどうでもいいわ! ……ただ、ふ」


「ふ?」


「風呂に入るところを見せて俺が臭くないと証明しようとしただけだ!!! カマルは……散歩だ!!」



 アズィーズに突進するような猛スピードと通り抜ける。

 フワッと花のような香りが鼻を掠めた。


 どんどんと小さくなっていくレヴィに眉を下げて、声を響かせた。


「カマル、ちゃんと厩舎に連れて行ってあげなよ。眠そうにして待ってたよ」


「うるさい! 言われなくても分かってる!!」



「……ったくそんなシャンプーの匂いさせて何が風呂だよ。夜にラクダの散歩なんて聞いた事ないでしょうよ……素直じゃないんだから」


 アズィーズは呆れたように独り言を呟いた。



 ***



「ふわわぁ」


 ボリボリと、頭をかいて、私は目を覚ました。


 なんか、やけに廊下の方がうるさい。

 あれかな。見回りとかあるのかな?案外この王宮で働く人多いのかもしれない。


 いやそれより、この居城。

 石造りで夜は放射冷却効果が半端なくクッソ寒い。

 夕方は凄く心地よかったのになぁ。


 私は立ち上がるついでに、部屋に設置されている鏡に目を向けた。


 うん。いつも通り、頭がメデューサ。


 ほわんほわんと揺らしながら靴を履く。

 そろそろベンが迎えに来る時間なので、もう濡らす暇はない。

 頭を適当に紐でまとめ、乱雑なお団子を作った。


 防寒用のマントを羽織り部屋を出ると、声をかけられる。


「ああ、テレサ様。今から出かけるんだね」



 ベンではなく、アズィーズだった。


「あれ? アズィーズさん。何でここに?」



「……今ちょっと残念な妖精と遭遇してね。捕まえようとしたけど逃げちゃった」


「えええ? この国、妖精とか居るのかい!? 虫と間違えて潰さないようにせねば!! グロい!」



 ドワーフだった頃に世界樹の近くに妖精の国があるという本は見た。かなり気性が激しく、すぐ噛み付くそんなヤツら。

 言語はなく、超音波で会話をするという。


『ゲギャギャ!』とかなり耳障りな鳴き声で親指くらいの大きさ。

 好きな食べ物は腐った魔物の死骸だと書いてたけど、魔物って本当にいるの?



「―ってことがあって。……? ってテレサ様? テレサ様ってば!」


「はっ! すまんね! つい思考の旅に出ていた!」


「? しこうのたび?」


「おおーい! テレサ様ぁー!!」



 ゴッゴッと、ゴツイ足音を立てて走ってくる金髪の男。ベンだ。


 私は二度見した。


 いや、走り方!

 走り方が凄い変!!


 なんでそんな騎士の服で乙女に走る!?

 小指を立てるな! ワザとか!?

 あれか! ツッコみ待ちなのか!?


 物凄い左手がなんでやねんとポーズをキメそうになるのを必死で堪え、チラリと隣のアズィーズに目を向けたが普通にしている。


 いや、これは触れちゃいけないやつ。

 スルーしよう。



「おー! お疲れ様! すまんねぇ。迎えに来てもらって」


「とんでもないっす! 団長を探したんスけど、風呂行くって言ってから戻ってきてなくて! どうせオアシス探しに行くなら団長に乗せてってもらった方が確実かな〜と思ったんスけど」



 何故かアズィーズがベンの肩を叩き、共感するように頷いている。

 ベンも頷き返した。


 意味がわからん。

 そして何であのジジイが会話に出てくるんだ?


 尚更意味がわからん。


 二人よ、奴はトウモロコシで私に嫌悪したんだと。だから今は近付けてやるな。あれだよ、私は奴にとって黒板を引っ掻いた音みたいなもんだ。


 あとは、アルミホイル噛んだ時みたいな?


 多分、君達にはわからんだろうけどな。


 私は聞かなかったことにして、ベンの肩を叩き促す。



「ほら、さっさとオアシス探そう。水脈を見つけたからと言って、直ぐに水が出てきて潤うわけじゃないから、なるべく早く探さないとね」


「は、はい! えっと……こっちっス!」



 ワタワタと私を誘導し始めるベン。

 アズィーズに別れを告げて、私は肩を鳴らした。


 今までロクに使った事もない私の力を、思う存分使う時が来たんだから。



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― 新着の感想 ―
このジレジレ感が! たまらないです! 溺愛もいいけど、こういうなかなかラブにいかない甘酸っぱい感じが続くのもいいんだよな~。 あきらめが良すぎるのは澪桜ちゃんのころから変わらないテレサちゃん。 あな…
こちらの走り方は乙女走りが標準!しかも小指たててるのが笑えました!多分、それでめっちゃ早く走れるんだろうな……(≧∀≦) レヴィが素直じゃないのも標準装備になってきましたね!そして妖精の描写が虫っぽ…
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