22話 王様って冠付けてるもの?
「おおおおおおおお、おはっお初にお目にかかります王様……じゃなかった皇王様」
へへぇーと私は頭を垂れた。一度バンザイの体勢からラジオ体操のように両手を後ろに回す。
1000年生きてきたけど、そういえば王様への謁見なんて今回が初めてだ。
エルカディアに居た時ですら見た事ない。
王様って冠付けてんのかな?
チラッと顔見てみようかな? ……目が合ったら殺される? まさかね。
あ、そおいえば、江戸時代の時はマジでお侍さんと目は合わせられなかったなぁ。斬り捨て御免って本当だったのかなぁ?
……唯一、長屋で傘張りしてた源内先生だけは凄い優しかったけど。あの人の爪楊枝、いいんだよ。
おっと危ない。また思考の旅に出かかってた。
緊張の余り、どーでもいい事を思い出した私は、この国のマナーを知らない。
とりあえず、敬意を示す為に土下座までいかない程度に地面に伏せた、死ぬほど低いカテーシーを決めた。
足が猛烈につりそうだ。
実際、このカテーシーも今マナー的に合ってんのか間違ってんのかもよう分からん。
さっきアズィーズに聞けば良かった。
やっぱ前世の記憶というものは何の役にも立たんなぁと思いながら、震える足で体勢を保つ。
すると頭の上から笑い声が聞こえてきた。
「はっはっはっ!! 楽にされよ聖女テレサ殿。こちらこそ初めまして。我が名はシャハザード・ザハル・タガール。こちらが妻のサマーハだ。愚息アズィーズの無謀な願いを聞き届けて下さり心から感謝する。長旅疲れたであろう」
優しく、だがよく通る美声が謁見の間に響き渡る。
無理。余計に身体が強ばる。
生王は威厳がすごい。
「いっいえ! 滅相もございません。アズィーズ様ご一行のお陰でとても快適で楽しい旅をさせて頂きました」
「ぷっ!」
私のかしこまり具合に耐えきれず、アズィーズが笑う。
いや、笑うなそこの皇太子。フォローしろフォロー! さっきまでの優しさどこにやった!?
すると王が更に話を続ける。
「そうか。それなら良かった……テレサ殿。我が国はこの通り、何も無い国だ。滞在中きっと不便をかけるだろう。だがもしお主が嫌で無ければいつまでもここにいて欲しい。我が国に聖女を迎えられること自体が奇跡なのだから。まして豊穣の聖女と聞く。何とも有難い神からの祝福だ」
おずおずと、顔をあげてみた。あ、冠付けてない。
皇王は妃と顔を見合わせ、もう一度私に微笑んだ。
これ以上、言われると申し訳なくなるからやめて欲しい。
「いえ、身に余る光栄です。客人として迎えて下さり感謝します。常闇の譜なしではございますが、精一杯タガール皇国の為に努力を惜しまぬことをお約束致しましょう」
「はっはっ。心強いお言葉、恐れ入る。だが気負わずいて欲しい。君は我が国の友なのだから。……それにな、今回の外交で他国から食料の援助を頂ける事になってね」
「父上それは本当ですか!?」
「ああ。レヴィに作って貰った魔石のお陰だ……いつもすまないレヴィ。君にばかり頼ってしまって親父の世代からの盟友だと言うのに」
申し訳なさげに皇王はレヴィの方に視線を向けて眉を下げる。
「大したことはない、気にするな」
レヴィの低い声が響いた。
今までもずっと、そうやって凌いで来たのだろう。
だがそれではいつか崩れる。
レヴィが死ねばこの国も終わるしかないからな。
共倒れする前に、間に合って良かった。
「テレサ殿、しばらくは王宮に留まるがいい。落ち着いてから住む場所を探した方が良かろう」
アズィーズも頷いている。
まぁ、結晶石の効果範囲がどのくらいなのかも実際にやったことないから分からない今、ある程度食料確保させる事が先決だろう。
私は頷く。
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
もう一度つりそうなほどのカテーシーを決めて、私は謁見を終えた。
***
テレサが謁見の間を出た後
アズィーズの母が口を開いた。
「あの聖女様……譜なしと仰っていたわ。本当に国全てを任せて大丈夫なの? 我が国に客人を招くような余裕はないのに」
「母様、心配ないよ。テレサ様は良い方だし、弱いと言っても範囲は小さいが力はお墨付きだった。旅の間もそのお陰で僕たちは食に困らなかったよ……なぁ! 皆」
旅に度をした騎士やレヴィに声をかける。
皆口々に、食べ物を出してもらったと言っていた。
レヴィも頷く。
皇王は妃に手を重ね、諭すように優しく語りかけた。
「ほら、問題ないさ。それに豊穣なんて、それだけで有難いじゃないか。サマーハよ、君もきっとおもてなしがしたいのだろう? 恥ずかしい所をみられたくなかったのだろう? だがね、現状を把握してそれで受け入れてくれる聖女じゃないとウチはいらない。そう思わないか?」
自分の言葉を恥じるように俯く。
「……そうね。彼女の顔に曇りはなかった。こんな居城を見ても……それが答えね。彼女に未来を託すとしましょう」
もう一度皇王に視線を向けて妃は微笑んだ。
「違うよ、母様」
「アズィーズ?」
「僕ら皆で、未来を切り開く為に動くんだ」
王は静かに……何かを確かめるように、アズィーズを見つめながらゆっくりとうなずいた。
***
さあ〜て
ひとまずこれで終わり。
私はメイドさん? お付きの人? のような人の後をついて行く。
部屋に案内してくれるそうだ。
まぁ、夜まで暑くて外では動けそうにもない。しゃーないか。
「テレサ様!!」
大きな声で呼び止められた。
振り返ると綺麗なエメラルド色の髪を靡かせた好青年が走ってくる。アズィーズだ。
スっとお付きの人が立ち去っていく。
「おー。アズィーズさん、どしたの?」
「折角だから……ほら、良かったら王宮内案内しようかなって。暇でしょう?」
「それはありがたい! めっちゃ暇だから一眠りしようかと思ってたよ!」
「怠惰!!! さっきまであんな緊張してたくせに!?」
まあいいや。こっちから案内するね。
そう言って彼は優しくエスコートしてくれた。
指先を彼の肘に当ててゆっくり歩く。
登るはずだった階段を素通りし、回廊へと向かう。
静かな回廊も全て石造りの王宮。
冷房はないのに、小さな窓から風鳴がして、涼しい風が通り過ぎる。
計算された作りのお陰で、日中も案外過ごしやすい。
アレかな。湿度が無いからか?
カツーン
カツーン
二人の歩く足音だけが響いていた。
回廊の途中で止まり、日が差す方にアズィーズが視線を向けた。
視線の先には堅牢のような作りの内側に作られた空間。
彼が物思いに耽りながら口を開く。
「ここがね……僕が子供の時によく母様と遊んだ庭園だよ」
「……庭園」
目を向けるとカサカサの……庭園とは言えないテニスコート2つ分ほどの広場。
ボロボロに枯れた何かと、乾燥しきった噴水があるだけだった。
憂いを帯びた声でアズィーズが呟く。
「昔はここ、屋根があったから昼でも外で遊べたんだ。大きなウチワサボテンもあったんだよ? だけど砂塵嵐で屋根が飛ばされてしまって、今は千年草すら無い。……ね。僕の言った通りだったでしょう?」
草を生やすだけでも奇跡
彼の言葉は本当だった。
私は笑う。
「じゃあ、数年後にはここを君の好きな花で埋めつくそう。お母様や未来のお妃様もお友達と女子会ができるくらい、笑顔の絶えない、素敵な庭に変えよう」
アズィーズは目を見開いて泣きそうな顔をする。
「っ……」
「泣くのは早いよ。数年後、現実になってから感動したらいい。その頃には君が次期王だろう?」
私はこの空気を変えるように煽ってやった。
「っ……ふふ、テレサ様、流石に気が早いよ」
アズィーズは照れるように眉を下げて笑う。
さて。
今夜から忙しくなる。
オアシスを探す事、そして結晶の効果を見る事。
更にそこに私の力を与え少しかさ増し。
近くにいれば譜なしでも作物が育つことにして、ある程度安定供給が出来るようになるまでここに留まり、民達にも協力してもらう。
自立を促すためにもね。
そうしたら私は用無し。
いつか、常闇の譜なしはいてもいなくてもどっちでもいい存在になるだろう。
それでいい。
それがいい。
私は足元の石畳の隙間から生えた小さな双葉をアズィーズに見せて笑った。
「あ、ほら見てごらん? 最初の一歩だ」




