21話 沢◯エルフ
サンドクルーザーの旅3日目の朝
今日も今日とてラクダは走る。
グエーとかオエーというあまり聴きなれない鳴き声を上げながら。
そして、この車にサスペンションなどない。
さすがにケツが痛くなってきた。
このままじゃ痔になる。
こいつらは……なんで平気なんだ。
あれか?
既に痔主か?
そんなアホな思考の旅をしながら、お尻にさり気なく毛布を敷きこみ、振動を中和していると車内に声が響く。
「もー! レヴィ昨日からどうしちゃったの!? 急にテンション下げるじゃない! ノリ悪いよ!? 体調でも悪いの?」
アズィーズが眉を下げながらも、軽い口調でレヴィの背中をポンポンと叩いた。
「別に」
何故か昨日の朝からずっとこんな感じ。
どこぞの思春期か。
ジジイの癖に。
パチっ
また……目が合う。
だが直ぐに逸らされた。
一昨日のあれがよっぽど気に食わなかったのだろう。
私のトウモロコシの食べ方が人をこんなに……いや、エルフをこんなに不快にするとは。
そんな舐め回して食べたりしてないし、クチャラーという訳でもないし、歯の間に挟まった皮をシーシーした訳でもないのに。
ただ、2列からちぎって食べただけ。
そんな嫌か?
まぁでも、あれからということは……嫌だったんだろう。
今までならギャーギャー言ってもすぐ絡んできてたから気にしなかったのに。
謝っておくべきだった。
世の中広いな、価値観という概念の奥深さを改めて思い知った。
一昨日までは楽しい旅だったのに。
また私はやらかしたようだね。
いつもそう。
気付くのが遅いんだ。
クソエルフよ。
君の事はエルフだが嫌悪はしてなかった。
ただうるせぇクソジジイだなと思ってただけだった。
まぁ、もともと私の方が関わりたくないと思っていたんだから
こんなに申し訳なさなんて感じなくていいはずなのに。
なんでだろうね。
少し胸が痛い。
「もーーー! 団長のせいで空気悪いっすよ! もうすぐ王宮に着くのに!!」
元々明るい性格のベン。
頭を掻きむしりオーバーリアクションでレヴィに物申す。
思ったことをスパスパいうあたり、かなり仲がいいのだろう。
それでも、変わらない。
「そんな話す事もないだろう」
ほらね。
素っ気ない態度のまま。
ベンがアングリとまだ何か言いたげにレヴィの顔を覗き込んでいた。
アズィーズはひとつ、深いため息をついて、正面に座る私の方へ視線を向ける。
「テレサ様、長旅お疲れ様でした。王宮は殺風景かも知れないけど、ゆっくり身体を休めてくださいね。食べる物もあまりないから申し訳ないですが。僕はみんなの食料も……どうにかしないと」
少し不安げにする彼に、私は眉を下げた。
「だから、それは心配しなくていいですよ。王宮の近くに、今夜私の結晶石を埋めてください。そしてこのバナナの子株達を翌日の夜、植えてほしい。水は私が今夜地下水脈を当たりますから」
「え? ……でも砂漠に地下水脈なんて……ありませんよ」
私は首を振った。
「いやいや、砂漠だって地下水脈はありますよ、多分ね! オアシス作りますから、バナナとトウモロコシ。ちゃんと栽培してくださいね」
「でもこれだけじゃあ……」
私の手から渡される袋に入った子株達30株ほどを見て、眉を下げた。
何言ってんだ。植えるとこ人に見せたいだけだって言ったろ。
心配なのは分かるがもう少し信用してほしいもんだ。
「譜なしとて、毎日少量なら一気に成長させられるって事にしておけばいいです。で、豊穣だから枯れないでどんどん生える事にしておけばいい。トウモロコシの種はエルカディアで大量に買ったことにでもしてください。どうせ誰にも証明出来ないんですから。収穫して民に食べさせましょう。おなかいっぱいね」
「ですが……オアシスは……どう説明を」
「じわじわと数箇所染みださせるので、誰かが発見したことにしてください。天の恵みだとでも言っとけば何とでもなりますよ。なけりゃ小雨でも降らせましょ」
「あはは! テレサ様適当! でもそれならバレなさそうっすね!!」
そんな、申し訳なさすぎると眉を下げるアズィーズに首を振った。
ついでに聞いてみよう。
「あ、アズィーズさん。オアシスならどこら辺がいいとか、教えてもらえます?そこまで行かないといけないし」
「……それなら、ラダ街道の先がいいかな。あそこが一番人の行き来が多いから」
ほい! とベンが手を挙げた。
「そっすね、じゃあ俺がラクダで連れていくっす!」
「ありがとう。人目に付かないように、夜中にしようと思ってるんだ……ですよ。今日はちょっとベンの睡眠を妨げてしまいますけど」
「あははは! そんなの、普段から夜勤で見廻りしたりしてるッスから気にしないでください、テレサ様! そして俺なんかに敬語は要らないっす!」
トンッと胸を叩き、任せろと言わんばかりの
あっさりとした返事に私は嬉しくなって笑顔を深めた。
「そうかい? あれ? 敬語になっていたかい?」
「まだらに敬語っすね!」
「まだら!? アズィーズさんにも?」
「そうだね。まだらだね!」
「おや、それは失敬!不敬すぎたですな!」
「いや、タメ口でいいよ。テレサ様」
クスクス笑うアズィーズ、ベンも楽しそうだ。
和気あいあいと三人で談笑していると
また
レヴィと目が合う。
……気のせいかもしれない。
だからもう一度話しかけてみた。
「敬語とは難しいものだねぇ? レヴィ?」
一瞬切れ長な瞳を大きく見開いて
「……」
フイッと
レヴィは窓の外に目を向けてしまった。
アズィーズが声を大きくする。
「レヴィ、テレサ様に失礼だよ! 返事くらいしなよ!」
気のせいじゃないよね。
やはり意図的か。
昨日から幾度となく目が合うのに話しかけるとこう。
しばらくしたらまた、話して貰えるかと思ったが
彼はエルフ。
んな訳ないか。
私の一昨日の言動がよっぽど気に食わなかったんだろうなぁ。
エルフは気難しくて、根に持つ生き物。
謝っても許してはくれないだろうと。私は諦めたように眉を下げ愛想笑いをした。
あ、ほらまた不機嫌そうに睨みつけられる。
で、そっぽ向くよね。
私が嫌いなら、わざわざこちらを見なくていいのに。
嫌われるのには慣れてる。
だがこう、文句を言われるより話をしていた者から急に無視されるのは、キツイ。
澪桜だった頃苦手なんだよな。
改善が出来ないから。
……?
改善?
はは。何を考えてる? 私は。
そんなもん必要ないだろ。
婚約者だったカスアンじゃあるまいに。
さっさとオアシスを探して、一日も早く一人暮らしを始めよう。
そしたらレヴィ、君を不快にせしめる私はすぐに居なくなるよ。
二度と会うこともないだろうから安心するといい。
私は窓の外の町並みに目を向け、ため息をついた。




