19話 エルフあるある
長くなってすみません……
途中で切れない私をどうか許して……
砂駆車という名の車でどんどんと旅路を進めていく。
旅を始めて16時間が経過した頃
徐々に鬱蒼としていた森が開けていき、草原になる。
更に、気温が高くなって来た頃、外に生えてきた草花が姿を消し始めた。
いよいよ、タガールが近づいてきた合図だ。
「テレサ様! いよいよタガールっすよ! この空間の中は魔法で気温は安定していますが外に出たら日中は火傷するし、夜は凍えるのでこれ、羽織ってくださいね。こっちは昼用っす!」
ベンから2種類の紺色のマントを貰う。
遮熱素材と保温素材。
話によると、首都まではここから更に二日進まないとたどり着かないらしい。夜は野営を設置すると聞かされた。
マントを軽く羽織りながら私は、三人に視線を向けてこれからの流れを話し始める。
「さて。皆さんからの情報のおさらい。エルカディアの国土の4倍の面積を誇るタガール皇国。その9割が砂漠で、日中の平均気温は60℃夜間の気温が10℃を下回る……宜しいですかね?」
「はい。その通りです。や、やはり広すぎて……難しいのでしょうか」
不安げにアズィーズが眉を下げた。
「いえ、私がタガールに入った日に、一気に緑化する事は容易い。多分数時間で砂漠は消えるでしょう」
「「おお!!」」
ベンとアズィーズは揃って目を輝かせた。
だけど……
「……ですが、それは残念ながら出来ない」
私が首を振ると、レヴィが低く呟いた。
「……他国か」
「その通り。タガールは内陸国。国境は陸で繋がっています。何か変化が起きればすぐに、他国へ情報が流れてしまう。
……まぁ、私の存在は秘匿とされてきたので瞬時に豊穣の星名とは行きつかないでしょうが……それでも何かの旨味を嗅ぎつけて来る国はいる。
一番可能性があるのは、タガールの隣国であるルオス帝国。私の所業は、おそらく過去に一度見られてますからね」
「……お前一体何したんだ」
「可哀想な兵士たちを助けただけだよ☆」
私は怪訝な顔をするレヴィにバチコン! とウインクをかましてやった。
嘘は言ってない。可哀想なゾンビの魂を救済しただけ。
その空気を割るように、アズィーズが難しい顔のまま、口を開いた。
「ですが……それを仰るなら。一番に嗅ぎつけるのはエルカディア王国では……? いくら弱小国家と言っても、貧困に喘ぐ僕らには到底太刀打ちが……」
さすが皇太子様。
頭が切れるなぁと思いながらも私は首を振る。
「ああ。それは大丈夫、エルカディアは私が居ると知ればなおのこと襲えません。ふふふ」
「……だからお前、一体何をしたんだ」
呆れたようにレヴィが合いの手を入れる。
……よし、ジジイは無視だ!
まだ不安げなアズィーズが弱々しく尋ねてきた。
「ただ……どうやって僕達の国を助けて下さるおつもりで……?」
「それは……これを使いまーす。ジャジャーン」
私は持ってきたボストンバッグから重い袋を取り出し、ベンに渡す。
私が渡すと、重さで下に袋がベンの腕ごとグンッと下がる。
「重っ! なんスかこれ!? ……ん? 色の違う……魔石?」
琥珀色に透き通った石。
それを見た途端、レヴィが目を見開き私に大声を上げる。
「き、貴様!? これをどうやって手に入れた!?」
「どうしたのレヴィ!?」
ベンの手から石を取り、驚愕の眼差しで石と私を交互に睨みつける。
いや、そんな怖い顔せんでも。
「どうやってって、私が作ったんだよ。女の子にはね体調が悪くなる時期があってだねぇ。神聖力をコントロール出来なくなるから、結晶石作るんだよ。作らないとニキビが出来るからね。雷雨続くし、草木も普段の2.5倍伸びる」
ペラペラと説明する私に、顔を真っ青にしたまま言葉を失うレヴィ。
エルフの特許たる秘術がアステニアにそして私にパクられた事が悔しいかい?
物なんてな、いつの世もパクりパクられだよ。レヴィ。
ま、魔石は作れん。だから安心しろ。
魔石は人間の生活を支えるもの。
私の結晶石は加護を与えるもの。
使い道もちがう。
「え、この石そんなに珍しいの?」
「……伝説だよ。本来、大気中の魔素や神聖力を具現化なんて物理的に不可能なんだよ。その秘技を生み出したのがエルフ。それは秘匿とされていてほかの種族が知るよしはない。まして人間になど……まさか大昔の文献に残されていた伝説が本物だったとは」
「じ、じゃあこれ他国に知られたら?」
「確実に戦争になるな」
「ええええええ!?」
「これは結晶石ではない。聖石という。一粒で国が買える程の価値だ。まぁこの世に現存するなど誰も知らんがな」
へえ。そうなのか知らなんだ。
あんま興味ないけどね。
今の私にとっちゃただのニキビ予防の石でしかない。
顎が外れそうなアズィーズとベン。難しい顔をしたままのレヴィを他所に
私は更に説明を続ける。
「アズィーズさん。この石には既に私の加護が付与されています。これをね、信頼できる人達で王宮付近から地中に少しずつ埋めていって欲しいんです。私の力は大地と共鳴するから、しばらくすると溶けて無くなり、ゆっくり大地の息吹へと変わります。400個程度しかないから足りないとは思うけど、これからも家賃として月々ちゃんと渡すから安心してください」
「す、少しずつ、我が国を内側から緑化していく……そう、仰るのですね」
「そう! そしてタガールの方々にも成長を促す為に働いて頂く。まるで自分達の力だけで緑化したように見せかけないといけませんからね。それに民達にも耕したり、水路を築いたりなどはいずれ要るスキルだろうし」
「で、ですが……天候は……? 説明が……」
「1000年振りの奇跡が起きたとでも言っておいたらいいでしょう。科学的に証明なんてできないんだから」
「適当か!」
呆れたレヴィにツッコまれた。
このエルフ、単にツッコみ気質なのか?
私はクスッと笑って言う。
「皆さん、という訳でご協力、宜しくお願いいたします。国を守りながら、タガールに住む人達の生活を豊かにしましょう!」
ベンが私の事を気にするように口を開いた。
「で、でもそれじゃぁ……テレサ様は誰からも感謝されないんじゃ!? こんな偉大な事をして頂くのにっ」
うん。本当に良い子。
私は首を振って微笑む。
「……もう既にアズィーズさんから感謝されました。それで十分。私の力なんて……動植物増やして、天候を操れる、ただそれだけの能力だから」
今まであんまり感謝されたことないから。
素直に嬉しかった。
3年前神官様に感謝された時と
さっきの――。
また微かに周さんが記憶に浮かびあがる。
もう会えない義父とあの日の恋心が蘇ったせいで
私は少し哀愁を漂わせ話題を変えようとした。
「ま、それよ――」
「……でもさっき兵士たちを助けたと言ってなかったか?」
うん。絶妙なタイミングで被せてくるなこのクソエルフ。
しかも突かれたくない事を!!
私はイラッとしてつい、悪態をついた。
「いいんだよ。細かい事は。ったく、神経質ジジイ」
「あああああん?」
「っ……!!」
ズイッと近付きメンチ切ってくる。
顔面の破壊力がすごい。
頼むから今は近づいてくれるな。偽周よ。
私は顔を背け、少し紅潮した頬を誤魔化すように鼻を摘んだ。
「寄ってくるな。加齢臭が凄いから」
その言葉が、よりレヴィは噛み付いてきた。
どうやら地雷だったみたいだ。
「昨日から言わせておけば……!!! 俺のどこが臭いんだ!? 言ってみろ! 首筋匂ってみろ!!! ほら!!!」
「れ、レヴィ。それは変態……」
アズィーズの冷静なツッコミがレヴィの耳に届くことはなくこっちに来いと食ってかかる。
私は必死に首を振った。
君の匂いは嗅ぎたくないんだよ。レヴィ
いい匂いなのは分かってるから。
私はこの感情が誰にもバレないように、冗談めかして更に返した。
「嫌だねっ! エルフを匂うなんて勘弁勘弁ご勘弁〜! だって風呂嫌いじゃないか! エルフって」
「え!? レヴィ、そ、そうなの!?」
「そうですよぉ〜?? 『垢と一緒に魔素が身体から流れてしまいそうだから』って理由で何百年って風呂も入らない、歯も磨かない」
誤魔化す余り、つい余計なウンチクを言ってしまう。ドワーフの頃の記憶と……アステニアの自叙伝による知識から……。
レヴィは仰け反り、ダメージを食らった。
「うぐぅ!? なぜそんな事まで知ってるんだ!?」
「えええええ!? レヴィ、まさかの図星ー!?」
「だ、団長……流石に汚いっすよ! ……はっ!? その髪の輝きはもしかして……脂!?」
虹色の髪を靡かせ、レヴィは真っ赤な顔でベンに言い返した。
「違うっ!! 毎日風呂に入ってる! というかベン! お前1回でも俺を臭いって思ったことあるのか!? 無いだろう!? この俺を世界樹の奴らと一緒にするな!! 歯も毎食後ちゃんと磨いてる!! ……あ」
つい、口が滑ったレヴィ。
アズィーズが揶揄うように笑った。
「……ぷぷ。エルフ自体は風呂に入らないんだ。歯も磨かないんだ」
「ふふふ。やはりね」
私はこの三人の空気が面白くて、つい笑ってしまう。
レヴィは戦犯である私を睨みつけ、恨めしそうに口を開いた。
「貴様……もう怒った。王宮に帰ったら俺が風呂に入るところを絶対見せてやるから覚えておけよ!? そして嗅げ!! ほら、臭くないだろうが!? 何が加齢臭だ!」
にじり寄り、私を捕まえたかと思うと首根っこを掴んでグリグリと胸板に押し付けた。
「や、やぁめろやぁぁぁ」
「どうだ?臭いか? ああああん?」
「れ、レヴィ。だから言ってることもやってる事も変態だからやめたげて……」
ガシガシと、ものすごく強引に顔面を擦られる。
案外分厚い胸板と軍服から香るアンバー。
……胸の奥が
痛い。
「ぬおおおおおお。臭い」
「まだ言うか、このクソガキがぁぁぁ!!」
いや、物理的に擦れて顔が痛い。
私はただ、これ以上周さんを思い出したくなかっただけなのに
いい匂いですと言うまで離してくれそうもない。
観念して口を開く
「いい……におい……でもない」
「よし……ってお前! もう許さんぞぉぉぉ!!!
「ぶへぇ」
助けて周さん。
君の奥さんが今、変態クソエルフに虐められてるよ……
このジジイめ。エルフは臭いって一生吹聴してやる!!
そう、心に決めたババアでした。




