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18話 記憶の泉

長くなってしまいました!!すみません。

読んで頂けたら……有難いですm(_ _)m

 


「えええ!? レヴィのその綺麗な髪色って白髪だったの!?」


 アズィーズの驚きの声が車内に響いた。

 私はうんうんと、頷いて、不貞腐れるレヴィに視線を向けた。


「あらら、ご存知なかったんですね。聞かなかったんです?」


「虹色の……特別な髪色なのかと」


「ただの加齢ですね。だから私は後期高齢者なんだろうなーって思って、親切心で大きな声を――」


「嘘つけ!! ワザとだろうが!! それに俺はまだ837歳だ! 長年世界樹に帰ってないから魔力が慢性的に枯渇状態なだけだ。加齢ではない!」


 レヴィは力いっぱい否定する。

 800歳でまだ若いと思ってるあたりさすがエルフだと思った。まぁ、私も似たようなもんか。


 だがエルフにとって魔力の枯渇、それはすなわち寿命が近いことを意味する。

 必死で言い訳するレヴィに呆れた声で諭してやった。


「……だから死にたくなければ世界樹に帰れと言ってるだろ? 徒歩で」


「帰れるかぁぁぁ!!! 帰るなら飛空船で帰るわ!」


 

 脊髄反射かと言うほどのスピードで真っ当なツッコミを返される。

 真面目か。


 だがそこに、不安げなアズィーズの声が。


「え、でもレヴィ、真面目な話……一度帰った方がいいんじゃ……?」


 心配そうにレヴィに視線を向け眉を下げる。

 その事に気づいたレヴィは温度を下げた声で静かに呟いた。



「……いや、もう帰る気はない。そこまで生きる事に未練もないしな」


 シーンと静まり返る空気。

こう言うのがとても苦手な私はワザとレヴィをおちょくった。


「じゃあ、やっぱ寿命が近いお年寄――」


「違う!! 寿命としてもあと150年くらいはある! お前よりは生き長らえるぞ! はははっ、残念だったな。クソガキ!」


 水を得た魚のようにテンションを上げ暴言を吐くヤツに、私は合わせてやった。ジジイには、ジジイネタだ。


「んん? 入れ歯がズレててなんて言ってるか分かりませんよ〜? レビーおじーちゃぁぁん?」


「誰が入れ歯じゃあ!!! 見ろ! 自前だろうが!そしてレヴィだぁぁ」


 またあのイラつく発音を繰り広げ

 カチカチと目の前で歯を鳴らす。


 ウザイ。


 心底ウザイのに、イーッ! と歯をむき出しにするレヴィの変な顔がツボに入ってしまった。



「ぬははははは! 変な顔」


「笑うな! クソ聖女っこのブス!! ワカメ頭!!」


「うるさい!このメルヘンジジイ」


「なんだとぉぉぉぉ!?!?」


 私は久しぶりに腹から笑った。お腹が痛くて。

 

 何故だろう


 関わりたくないはずなのに

 つい返してしまう。

 カスアンと同じタイプで、面倒くさいはずなんだが。


 エルフとは思えないほど表情豊かで。


 変なやつ。


 クスクスと笑っていたアズィーズが口を開いた。


「にしても凄い。どうしてテレサ様はそんなに、長耳族についてお詳しいので?」


 ドワーフの頃の生の知識ですなんて言えない私は半分嘘、半分本当の言葉で濁す。



「……王宮図書館に入り浸っておりましたから。あそこには3000年前からの文献など幅広く取り揃えてありますからね」


「ふんっ、くだらん。余計な知識でしかないわ」



 不貞腐れ、窓に目を向けたままレヴィは長い耳をヒョコヒョコ動かして悪態をつく。

 合いの手かと思うほど突っかかってくるな。あれか? 構ってちゃんか?


 でもまぁ、周さんにクリソツな顔だと言うことを除けば

 そんなに悪意は感じない。

 口が悪いクソエルフというだけだ。


 仕方ない、ここは私が一歩ひいてやろう。通算で言うと247歳分お姉さんだから!


 一つ咳払いをして、アズィーズの方に目線を向ける。



「では、アズィーズさん。この二人は信用に足る人材だと言うことでよろしいですかな?」


「……え? はい。彼らは僕が心から信頼している友のような二人です。昨日のお約束通りにさせて頂きました」


「分かりました。お三人に悪意は感じないので私も信用させていただきます。今からお話する事は多分国家機密になると思うので、漏洩はなさいませんよう。……国が危ぶまれます」


「は?」


 意味が分からないというように目配せし合う3人。


「えっと……何が国家機密……と?」


「……私の存在ですね」


「……テレサ様が?」


「私は譜なしではございません」


「……え?」


 疑問でいっぱいの表情を浮かべるアズィーズに、嘘つけという顔で呆れるレヴィ、話自体を分かってないベン。


 そこで手っ取り早く

 デモンストレーションをしてあげることにした。


「外をご覧あれ」


 そう伝え、窓の外を指差す。

 3人の視線が窓に向いた途端

 私はパチンと指を鳴らした。



 ザーーーーーー!!!!



「うわぁ!! 通り雨だ!!」


 御者の慌てた声がする。


「おっと。いけない。ラクダが濡れるな」


 私はもう一度指を鳴らす。

 パチン。


 ……一瞬で大雨が嘘のように快晴になった。



 三人は狐につままれたような顔を目配せした後、私に視線を戻す。

 満面の笑みを向け、精一杯感じ良く挨拶をした。自己紹介はしっかりと好印象にしないとね。

今更だがね。


「改めまして。私の名前はアステレサ・セレスティアと申します」


「アス……テレサ……? え、星屑……」


「はい。他国との衝突を避ける為の隠し名がテレサ、各国で轟いている譜なしと呼ばれる偽名です」


 少しずつ青ざめていくアズィーズ。

 口をパクパクとさせながら答え合わせをしていく。



「ま、まさか昨日の……あの女神の誓約書……は……」


「はい。私を一生エルカディア王国に縛る為の誓約書でした。そこに婚約が3年前に追加されていたんですな。ぬはは」


「ほ、星名……は理解できましたが。し、しかしセレスティアも銀河という意味では……?」


 さすが皇太子。神聖語(女神の言語)もよく勉強している。一発で見抜くとは。


 私は頷いて、全てをさらけ出した。ままどろっこしいのは苦手。直球だ!


「ああ、フルネームが星名というのは前代未聞らしいですなぁ! 歴代なんたらです!」



「「「はあああああああ!?」」」


 三人は声を揃えて驚き叫んだ。喜ぶと思ったのに、とても心外。



 ***


 ラクダが疲れたらしいのでお昼休憩。


 ラクダ車? から降りると、レヴィがジッと私を見てくる。

 なんだ? まだ何か言い足りないのか?

 メンチ切ろうとしゃくれる私へ、レヴィの方から口を開いた。


「慣れない旅で疲れただろう? ……そこに座って休むがいい」


「へ? ……う、うん。ありがとう」



 拍子抜けした私が戸惑っていると、レヴィが眉を下げた。


「ったく。お前が星名だなんてな……未だに信じられんが……あんな力を見せられては信じるしかないか……。まぁ、我々はエルカディアのようにお前を縛ったりしない、そこは安心しろ」


 優しい言葉。

 どう返したらいいか分からなくなった私はしどろもどろに返事をした。


「それは……助かるよ」



 レヴィは少し目を見開いて、首を振った。



「……いや、助けて貰うのは俺たちの方だ。聖女よ」


 私の目を真っ直ぐ見つめ


 朗らかに……笑う。


 雲から覗いた陽の光がゆっくりとレヴィに降り注ぎ

 柔らかい表情が余計に儚く見えた。


「!!!!!」



 一瞬、私が目を泳がせていると、騎士や従者達と話していたベンが大声を上げる。



「団長〜! ちょっとこっち来てください!!」


「ああ、すぐ行く」



 踵を返し、向こうに立ち去って行く。


 その後ろ姿に視線を向けていると

 不意に私たちの間を爽やかな風が通り過ぎる。


 フワッと空気を孕み、私の鼻腔を掠めた。


 優しい暖かな匂いがした。

 レヴィの香り……。


 初めて嗅ぐ香りなはずなのに。


 とても懐かしい


 そんな気がした。



 これは……まさか……


 …………アンバー……?


 そんなはずないと、私はやつを周さんと重ねすぎた自分を諌める。


 やけに心臓がうるさい。


 止まりかけていたはずの鼓動が蘇るように。


 熱を帯びる。



「みんなぁ! これ! 美味しそうだったから買ってきたよー!!」



 パタパタと両手にパンパンの袋を持ってアズィーズが駆け寄って来た。


「はい! お疲れ様! 足りなかったらまだあるからね!高いもの買えなくてごめんね!」


 露店で買った100ジェニ程のケバブサンドとタダで付いてくる水を皆に配っていくアズィーズ。皇太子だと言うのによく動く青年だ。

 優しい子なんだなぁ。と感心しながら、私は一番見晴らしのいい場所に一人で座った。


「どっこいしょっと」



 サラサラと風に靡く草原に目を向けて、心を落ち着かせる。


 記憶の泉の底に沈殿していたはずの周さんがまた浮かび上がってきてしまって。どうしようもなく苦しい。


(ちょっと優しい言葉をかけられただけなのに……なんてちょろい女なんだ私は……)


 奴が周さんにそっくりだから、きっと余計にダメージを食らうんだ。


 よく見たら少し違うのに。

 あの人と同じ穏やかで優しい笑みを浮かべるもんだから……。


 まともな話をするのは危険だ……これ以上意識しないように工夫せねば。


 それにレヴィはこの国の要人。

 大丈夫、この旅が終わるまでの辛抱だろうから……


 色々とこの先の事を考えていると、アズィーズが私にも寄ってきてケバブと水を手渡してくれた。



「はい。テレサ様も」


「ありがとうございます」


「……にしてもお連れするのが星名の歴代最高位の聖女様だったなんて未だに信じられません……」


 そう感慨深げに、恐縮するように一礼し、静かに隣に座った。


 私は眉を下げる。



「あはは。そんな大袈裟なあれじゃないですよ。私、草むしりしかしてませんでしたしね」


「またご謙遜を……でも歴代最高位のはずの貴女がなぜあのような扱いを……?」


「いつの世も、星名は戦争の火種です。エルカディアは軍事的に力がある国ではありません。……私は厄介者でしかない。必然ですね」


「そんな……」


 言葉を失うアズィーズに私は笑って言う。


「……だからアズィーズさん、私が星名だとは誰にも言わないでください。もちろん、国王にも。役立たずの常闇の譜なしを助けてやった。それでいい」


 私の言葉を聞いたアズィーズは驚いて私に目を向ける。


「そ、それでは、あなたの扱いがっ!!」


「私は自由がある、それだけでいいんですよ。大丈夫、家賃と食費分くらいちゃんと働きますから。あ、そうそう。……今のうちに砂漠の砂、壺か何かに入れておいた方がいいですよ?」


「……え?」


「いずれ二度と見られなくなるからね。砂なんて」


 重い空気にしたくない私はアズィーズに向かってニッと歯を見せ、イタズラに笑って言った。


「……!!!」


 目を潤ませていくアズィーズは震える手で

 ケバブを頬張ろうとしていた私の手を握る。


「っ!?」


 思わずケバブを膝の上に置いて、彼に目を向けた。

 嘔吐(えず)くように肩を揺らして、涙を流す。


「ふっ……うっ……貴女と出会えたことはきっと……女神様のお導きだ……ありがとう。……ありがとうテレサ様」


 私の手をおでこに当てて鼻をすすり、感謝を述べる彼に目が泳いだ。


 また脳裏によぎ

 周さんから告白された時の彼の仕草。


 つい

 似ても似つかないアズィーズに重ねてしまった。


 グッと唇を噛み、ぎこちない笑みを浮かべる。



「こちらこそ。私を鳥籠から逃がしてくれてありがとう。アズィーズさん」



 そっと目を閉じて、高原の方に顔を向ける。

 今はもう何も見ないで済むように。


 最近は思い出しても感傷に浸ることは無かったのに。


 どうして……



『……澪桜、愛してる』


 優しい彼の声が


 耳に響く。


 幻聴だと分かっているのに


 目頭が熱くなった。


(ああ、会いたい――)


 胸の痛みを


 必死で堪える。



 ……アズィーズさん、君といい、レヴィといい。


 頼むから

 周さんを思い出させる仕草や表情を向けるのはやめてくれ。


 たまにね


 彼を感じたくて


 寂しくて


 泣き叫びたくなるんだよ……。




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― 新着の感想 ―
やっと、本当の名を名乗ってもいいと思えるひとたちに出会えたんですね。 いっしょに育った後輩の聖女たちにさえ明かせなかった大きな秘密を託せる相手が出来て良かったです。 そして千年にわたる転生を繰り返し…
両方読んでいる者には神の視点で隣、隣と言ってしまうけれど、当事者にはわからないこのもどかしさがたまらないです。 美しいすれ違い。 早く気づいて欲しいのと、もう少しだけ別人だと思って恋しがって欲しいと勝…
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