13話 レヴィオン・グリムヴェイル(結城 周)
俺の名は
結城 周
76の時、祖父と同じ、肺炎でこの世を去った。
息子や娘の事はさほど心配しなかった。
あの子達はいい子で……それぞれ幸せを築いてくれたから。
俺の心残りはただ一つ。
命より大切だった最愛の妻を残してしまったこと――
彼女には何度も約束した。
死んだら天国の入口で待ってるって。
それなのに。
俺は人生で初めて、澪桜との約束を守れなかった。
まさか天国がなかったなんて……思いもしなかったから。
初めて転生した日。
俺は丸三日、現実を受け入れられなかった。
死んだはずなのに生きていて。
人生も誰かの途中からで。
しかも、時代や国すら違うなんて。
到底受け入れられなかった。
そこは確か、アメリカの開拓時代か何かだったんだと思う。
俺はよく分からないまま奴隷として毎日血反吐を吐くほど働かせられた。
澪桜を思っても当たり前だが会えない。
彼女は現世で幸せに生きているだろうから。
それに、気持ちに余裕すら持てない。
この開拓時代での生活は酷すぎる。
日本で培った仕事のスキルや
常識も。
なにも役に立たないまま
ただ、生きていくことに精一杯だった。
俺はあっという間に、32歳という若さで過労死した。
その後も似たり寄ったりの過酷な人生。
俺が知ったのは
死んだら誰かの人生の途中からか、初めからか、どちらかで生まれ変わるという事。
そして結城周だった記憶は消えないという事。
日本でのキャリアなど、役に立たないという事。
ただ、澪桜の事をずっとを覚えていられることは天からの褒美だと思った。
いつか俺と同じ世界に落ちてくる彼女を、必ず迎えに行けると信じて。
繰り返し生まれ変われる人生を必死で生きた。
誰にも目を向けず、
誰も俺の人生に入れないまま。
澪桜を想って。
転生13回目の人生。
俺は惑星ノアという星に生まれ落ちた。
この世のものとは思えないほど美しい母と父。
驚いたのはその耳の長さと、生まれた場所。
ここは世界樹と呼ばれる空中都市だった。
実際には浮いてはいない。
ちゃんと地続きなのだが、古の幻影結界というものがかけられていて浮いて見えている。
その仕組みを知り、世界樹に受け入れられた者しか中に入れない。
選ばれし者だけが入ることを許される場所。
世界樹の中ではエルフは魔力を大気から補えるので軽く3000年は生きられる長命種。
だが、世界樹から出ると、補給が出来なくなるので3分の1ほどになるらしい。世界樹に戻ればリセットされるらしいが、試したことはないのでよく分からない。
俺は物心が付いた頃から150年ほど、このだだっ広い世界樹を歩いてまわり澪桜を探し続けた。
だけと、やはりここにもいなかった。
外の世界に出る決意をし、両親に挨拶をしたが、あまり関心がないような返答だった。
エルフは基本的に他人に干渉しない。
例え子供でも。
寿命が長いせいか、他人の個人的な事情にはあまり興味がない種族だ。
ただ、誇りは重んじる。
排他的なヤツが多いのも認めよう。
他の種族が皆、世界樹原産の魔石でライフラインを繋いでいるせいだろう。
ガスや石油がない世界だ。仕方ない事なのだが。
だからといって、他の種族をコケにするエルフは同族として俺は許せない。
そんなヤツらは反面教師と捉え、俺は澪桜を探す旅に出た。
1000年しかないとは言え、この長い寿命なら必ず見つけ出せるはず。
この恵まれた肉体に感謝し、俺はもう一度希望を持つことを心に決めた―――。
だが。
その希望は甘かった。
幾度となく人は生まれ、そして死ぬ。
そのサイクルの速さにいつの日か俺はついていけなくなった。
人間の住む国々を探し回ったが、いくらしらみ潰しにしても人は次々と生まれ変わる。
堂々巡りでしかない。
俺の心は摩耗した。
中には俺の外見に魅了され、澪桜のフリをするものもいた。
俺の中の澪桜を穢されたくなくて、
冒涜されたくなくて、
似た雰囲気の人を見かけても
もう、名前を出すのもやめた。
いつの日からか
何かを楽しむことも
笑うことも
泣くことも
怒ることすらなくなった俺は
気付くと700歳を超えていた。
濃い紫だった髪は次第に虹色を帯びた白髪になり
大量に作れていた魔石は年に数十個程度になった。
見た目は変わらない。
でも確実に死期は近付いていると実感し始めた。
数百年前に澪桜を探している旅路で友達になった、タガールという国の王を思い出した。
とても貧しい国で、彼はいつも人に頭を下げ国民の為に走り回っていた。
もう彼には会えないけど、どうせ死ぬなら、友達が命を掛けて守ろうとした国の為に尽くしたいと思った俺は
澪桜を探すのを諦め、タガールの守護者となった。
今は俺が守護者になってから生まれた3代目の皇太子、アズィーズの側近として動いている。
彼らと共に人生を終われるのは光栄な事だしエルフとして誇らしい。
安らかに生を終え、今度こそ転生しないで終わりますようにと、心から願う。
そんな根拠、どこにもないのに。
人の為に生きれば報われるなんてそんな幻想。
馬鹿げてるのに。
そんなものに縋ってしまう程、俺の心は擦り切れていた。
それなのに。
どうして……。
ドクン――
長年感じた事もない鼓動の高鳴りを覚える。
ドクンッ――!
やっと、安らかに終われると思っていたのに。
目が勝手に……彼女を追う。
濡鴉色の艶やかな髪が。
凛とした美しい瞳が。
(そんな……まさか)
色白で長い手足が。
媚びない姿が。
仕草が。
再び俺の心臓に火を灯し
彼女の記憶を呼び覚ます。
(お願いだ。これ以上俺を期待させないでくれ)
君がこの世に居る訳ないのはわかってるのに。
君の記憶と共に生きていけるだけで十分幸せなのに。
それだけでも十分過ぎるほどの恩恵だと思っていたのに。
神は残酷だ。
こんな老兵に
なんの試練を与えようというのか。
目の前に立つ澪桜と瓜二つの女性に目を細めて
目頭が熱くなるのを感じだ。
周の過去回だけでは話が進まないので、舞踏会の続きは11日にまた更新致します!
よろしくお願いいたします!




