表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BAR  作者: もふもふもん
8/11

邂逅4

 入って来た若い男はマスターの目の前の席に腰を降ろすと小さな声でマスターに向けて。


 「マスター。カルピスミルクお願いします。」


 とアルコール度数が完全に0の所謂。ソフトドリンクを注文する。それを聞いたマスターは。「コイツはコイツでまた……。」と少しだけ困り顔の苦笑いを浮かべて、他の席に座る四人には聞こえない程の小声で。


 「お前な……ここ何処だか知ってんのか?何だよそのカルピスミルクってオーダーはよ。酒頼めや酒。」


 そう言うと。若い男はこちらも苦笑いを浮かべて。


 「ごめんごめん。今日はそこの横丁の入り口にあるコインパーキングに自分の車を停めて、車で来てるからさ。アルコールはねほら、飲酒運転になっちゃうしね。」


 と酒を頼まずに単価がどうしてもカクテルやビール等のアルコール飲料に比べて安くなり勝ちな、普通の飲み物を頼む、お店の売り上げに全くと言っていい程に貢献する気もさらさら無い様な言葉を言い訳にして、マスターに伝えた。


 マスターは。「ちっ!仕方ねぇヤツだな。全くよ。」と心の中でハナからお客さま扱い等さらさらする気も起きない、かつての弟子の一人を軽く睨みつけて、仕方なさそうに。冷蔵庫の中から先程まで使っていた牛乳パックを取り出して、8オンスのロックグラスに、わざわざ開店前にマスターの超越した技術により削り出された丸い形の氷では無く、製氷機の中で作られた普通の氷を2個〜3個入れて、そこにカルピスの原液を適量牛乳で割り、最期に濃縮還元された少しだけトロ味の付いているオレンジジュースの原液を垂らして、適当にバースプーンを使い。乱雑にかき回して、目の前の席に座る男に。「他のお客さまに見られた時。」用に体裁だけ保つ為のコースターを投げるように置くと、その上に丁寧の欠片も無く一言、小さな声で。


 「ほらよ。金は取るからな。」


 そう言って、ソフトドリンクのカルピスミルクを作ってやった。それを目敏い誰かさんに一部始終を見られているとも知らずに。


 「しかし……お前懐かしい物飲むんだな。最初に俺が飲んでるの見て。社長それなんですか?とか聞いてきたのをふと思い出したわ。」


 「師匠に教えられてからは、もっぱらこればかりで。家にもカルピスの原液置いてるぐらいでして。」


 そう言って初めて夜のお仕事を始めたBARのマスター兼社長がいつも飲んでいた、飲み物を真似して飲むようになり、気付けばよく自分でも作り飲むようになっていた。


 「で?今日は何?昼間に福の神にでも遭遇したの?五席中四席で、しかも全員が知り合いって感じじゃん?」


 今のお店の状況が非常に珍しく未だに少し現状を把握しきれていない氷室吾郎は、マスターに向かいそう言って楽しげに話をしている四人組にチラリと横目を向け見る。 


 「それで?わざわざジュースを飲みに来ました。って訳ねぇよな。今日は何?またテストでもしてくれと?」


 マスターが小声で目の前に座り、ロックグラスに入れたれたカルピスミルクをチビリチビリと飲んでいる、割りとお気に入りの弟子の一人に声を掛けると。


 氷室吾郎は、おもむろに持ってきていた小さな紙袋の中身をマスターに見せる。そこに入っていた物を確認したマスターは。「今度はそれか……」とこの若造は、この前テストしたばかりでちゃんと合格点を出してやったんだから、自信を持って新しい店で働いてくりゃいいものを、きっと今度も店から腕前をほんの少しだけ見せただけで、下っ端じゃなくカウンターの一つでも任されたんだろうと、アタリを付ける。


 「氷室、お前また今度働こうって店でやらかして、複数あるカウンター席の一つでも任される事にでもなったんだろ?で。イマイチ昔の勘が取り戻せて無い気がしてまたやって来た。図星か?」 


 モロに図星をさされた氷室吾郎は。「へへへっ。」と

苦笑いを浮かべて師匠の仰る通りです。とペコリと小さく(こうべ)を垂れた。


 「次の店がコレの店でさ、まぁ普通に作る分には師匠からこの前合格点貰えたんで自信は付いたんだけど、いざ面接です。と店に行ってみたらコッチ系の店だったのよ。それでコッチもこなせる師匠にちょっと見てもらいたくて……。」


 「はぁ……仕方ないな……しかしソレか……俺も久しくやってねぇからな。開店前の時間がある時に時間潰しにちょっと投げてる程度だし。」


 そう言って謙遜して見せるが、氷室吾郎は「師匠の暇つぶしは絶対に暇つぶしレベルじゃない!」と勝手に決め付けており、何が何でもと意気込みが激しかった。そして……カウンターの一番右端の席に座る新たに現れた男とカウンター越しに目の前に立つマスターとのやり取りを、チラリチラリと見ていたとある男が動き出した。


 「おい藤田。お前ちょっと席交代しろ。」


 そう言って自分の隣に座る直属の部下に声を掛けると、部下である藤田部長は。「また何かやらかすのか……。」と呆れながらも、素直に上司の言葉を受け入れて素早く二人の席を入れ替えた。


 藤田部長が座っていた席。五席ある席の中で右端から数えて二つ目。目的の新しく店に入って来た男の横の席に座った木村本部長は、男が持ってきていた紙袋の中身をそっと気付かれ無いように中をチラリと盗み見る。そして中身を見ただけで、この新しく店に入って来た男の目的が何なのかを、自分なりに考え推察し一つの答えに辿り着いた。それは実に、この男の目的の九割ほどは正解していた。


 「失礼。マスター。どうもお客さまって感じより知り合い友達って感じがする人だね。」


 とマスターに声を掛けた後に席を変わり真横に座る事になった新しく来た男にも、笑顔で頭だけを下げる形で挨拶を交わすと。


 「げ!いつの間に席を変えた?」


 そう心の中で叫ぶマスター。


 一番ヤバい人が介入してきた事に、ちょっと驚いたマスターは。もう素直に話をするかと思い。


 「すみません木村様。うるさくしてしまい本当に申し訳ございません。はい、木村様が仰る通りコイツは、まぁお客さまでは無く、不肖私の弟子の一人でして……名を氷室吾郎と言います。」


 そう言って、木村本部長に横に座る男の事を紹介する。


 「へぇマスターのお弟子さん?それはそれは。あっ私はこう言う物です。以後お見知りおきを。」


 そう言って木村本部長は、氷室吾郎に既に藤田部長と席を変わる前に用意しておいた自分の名刺を一枚、氷室吾郎に渡す。


 名刺を受け取った氷室吾郎は、木村本部長に一言。


 「お名刺ちょうだい致します。申し訳ございません当方今ちょっと名刺を切らしておりまして。師匠……いやこの店のマスターの不肖の弟子の一人でございます。氷室と言います。以後お見知りおき下さいますよう。」


 とまるっきりサラリーマン同士のやるようなやり取りを完璧にこなして、自分の名前と簡単な素性を明かすと、手渡された名刺に目を落として、驚く事になる。何せ名刺には、この繁華街と言うかこの県内に住み。夜の仕事に関わって生きている人間にとって知らない人は、きっと一人も居ないと思われる程に有名な会社の名前が書かれ、しかもその役職には。取締役員の肩書きが書かれていたから。


 「氷室君と呼んでもいいかな?氷室君すまないね。見るつもりは無かったんたが君の持って来た袋の中身が目に入って来ちゃったから見えてしまったんだが。君それ【ポアラー】だよね?」


 そう言うと氷室は。


 「はい。氷室と呼び捨てにしていただいて構いません。そうですねこれは、ポアラーです。ちょっとこの後マスターに見て貰いたい物があって……。」


 とぼかして言った事の本質を既に見抜き終わっている木村本部長は、物凄く良い笑顔で隣の席に座る男の顔を見る。


 その笑顔をカウンター越しに見たマスターは。


 「あ〜あ……捕まった……俺もう知らね〜。」


 そう言って自分の店に足繁く通ってくれる貴重なお客さまでもあり、この店に来る客の中で断トツ一番に困った客に捕獲されたかつての自分の弟子を早々に生け贄に出す事を決めた。


氷室吾郎と言えば出さずには許されない「カルピスミルクオレンジの風味を乗せて」の登場です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ