邂逅2
木村本部長がマスターの顔を満面の笑顔を浮かべて見る。マスターは少し苦笑い混じりの笑顔で笑い返した。お互い心の中では何を思っている事やら。
「それじゃ僭越ながら二人に僕のおすすめのカクテルを告げて、それをマスターの匠な技術で最高の一杯に仕上げて貰おうね。よろしくねマスター。」
そう言われたマスターは顔は笑顔のままで、心の中でこの状況を招いた一人の常連に向けて心の中でひたすら悪態をついていた。「藤田め要らん事を言いやがって!見てみろあの顔。めっちゃ良い顔で笑ってやがる。あれ絶対に困らせてやろうとしか考えてない顔だろ。」と。
二人の男の目には見えない熱き戦いは既に始まっていた。
「ひじきは確か……夏の生まれだったよな?」
そう言って一番奥の席に座る少し装飾の施された派手目な黒のスーツを着ている男に質問と言うか確認をする。
「はい!そうです。よく覚えてましたね木村本部長。」
うららはそのやり取りを聞いて。「沢山ある系列店の中の一つのホストクラブの沢山働いてるホストのそれもあんまり売れてないホストの誕生日なんてよく覚えてられるのね。」と感心をし。
藤田部長は。「うわ〜流石変態……相変わらずの記憶力。」と少し失礼な事を思った。
少しだけ頭の中に浮かんでくる数多くの記憶しているカクテルの出来上がりと味等を思い出しながら。一つの結論に達した。
「夏生まれのひじきには。」
「マリブサーフを。」
そう言ってカクテルの名前を先ずは一つ挙げた後に、隣に座る小さな可愛らしい系列店のお店で働いている女の子の顔を見つめながら。
「うららちゃんは、ココアは好きかな?」
そう聞くと。私にはどんなカクテルを教えてくれるのかな?と期待を表情一杯に笑顔で浮かべている女の子が。
「ココア大好きです。」
と木村本部長にワクワクを添えて答えた。
ココアが好きかどうかと聞いてる時点でもう決まってるでしょうに!と約一名だけが心の中でツッコミを入れる。そして頭の中でココアを使ったカクテルをいくつか思い描き。何を言われても良いように心の準備と言う平穏を取ろうとしていた。
「それじゃうららちゃんには。」
「枯れ葉を。」
そう言って一杯のカクテルの名前を告げた。
マスターはその二杯のカクテルの名前を聞いた後に、心の中で「おい!そこ来るのかよ!マリブサーフはまだいいが、枯れ葉って……」そう思いながらも顔だけは笑顔で。心にも無い事を言う。
「流石木村様カクテルへの造詣が深い。なるほど夏生まれにマリブサーフは確かにピッタリですね。そしてお嬢様には女の子のお好きなココアを使った枯れ葉と来ましたか恐れ入れます。それでは、まだまだ未熟で拙い技術しか持ち合わせておりませんが、心を込めて二杯のカクテル確かにご注文承りました。」
そう言ってカウンターの向こうに座る。東堂聖と一麗に一礼した後に、いつもの場所へ戻る際に、木村本部長に向け小さく会釈をして通り過ぎて行った。その時にチラリと見た顔にはイタズラが成功した悪ガキの様な笑顔が浮かんでいた。
マスターは先ずは、言い方が悪くなるが作る手間が掛からない要は面倒くさくない方のカクテルから作り始める事にした。いつもの場所から後ろに並べられている数多くある酒瓶の中から。ラムをベースとしココナッツの香りを付けたリキュールの「マリブ」とオレンジの果肉と皮をスピリッツに加えて作る「キュラソー」と言うリキュールの中から。「ブルーキュラソー」と言う名の青い色のリキュール。二本の酒瓶を取り出して、作業テーブルに置いておく。
次にコリンズグラスを取り出すと氷を一杯まで入れた後に、メジャーカップを使い。「マリブ」を30ml。「ブルーキュラソー」を10ml。順にそれぞれ計り注ぎ入れた後に、トニックウォーターをフルアップ(グラスの縁まで)まで注いだ物をバースプーンを使い二度程ステアして見た目が鮮やかなコバルトブルー色に輝くカクテル「マリブサーフ」を完成させた。
そして手間の掛からないカクテルを作り終えたマスターは出来上がったカクテルの入ったグラスを片手に持ち、東堂聖の座る席の前に立つと。
「マリブサーフでございます。」
と言って、カウンターの傍らに重ねて置いておいたコースターを一枚取ると東堂聖の前に置き静かにグラスをコースターの上に置いた。
そして次のカクテルを作る為にいつもの作業している場所へ戻る際に、木村本部長の方に少しだけ顔を向け、会釈をして通り過ぎて行く。木村本部長の顔は笑顔を浮かべており、どうやら合格点は貰えた事に一先ず安堵する。
「うわっすげぇ!綺麗な色のカクテル!」
「だねだね、聖君まるで南国の透き通った海の色みたい……」
若いホストの前に置かれた一杯のカクテル。
「匠」と呼んでも過言では無いマスターの卓越したバーテンダーとしての技術により。作り上げられた爽やかで鮮やかなコバルトブルーの色彩を放つ一杯のカクテル。そのカクテルの色に小さな感動すら覚えた若い男女の二人に向けて、木村本部長からカクテルの簡単な説明がなされる。
「そのカクテル。マリブサーフはね、アメリカのカリフォルニア州にあるビーチのマリブと言う名の海岸線。聞いた事が無いかな?サーフライダービーチとか、ズマビーチなんて名前を。」
「あっ私知ってます。有名なサーフィンスポットと有名なビーチの名前ですよね。」
そう言って、うららが答える。流石は元とは言え女子大生なだけはある。多少は地理にも詳しいのか又は、有名な観光地でもある事から知っていたのかは不明ではあるが、木村本部長に向けて質問された事に反応を示した。
「そう。うららちゃん良く知ってるね。その海岸線に打ち寄せるサーフつまりは波打ち際に立つ波の色を模したカクテルがこのマリブサーフ。」
「飲んでごらん。南国のフルーツでもあるココナッツの味と少しだけ香るオレンジの爽やかな甘味が感じられて、トニックウォーターで割っているから、キリッとした酸味も一緒に味わえると思うから。」
飲むよう促された東堂聖はコリンズグラスを持ち。グラスの縁ギリギリまで注がれている中身をこぼさないように注意しながら、グラスに口を付けてゴクリと一口中身を飲み干した。
「あっ美味しい……本当だ!甘味と酸味のバランスが良い味……。」
そう言って満面の笑顔を木村本部長の方に向けて。少しだけ大きな声で「木村本部長ありがとうございます。マリブサーフか……マリブサーフ……よし覚えたぞ。」とお礼を一言告げた後に、自分が担当しているうららに笑顔を向けて、カクテルが本当に美味しかった事を言葉にせず伝えた。担当のホストが満面の笑みで美味しそうに一杯のカクテルを飲んでいる姿に、うららも自然と嬉しい気持ちが心の中に湧いて来ると同時に、自分におすすめされた「枯れ葉」と言う名前を持つカクテルに思いを馳せ、自然と視線はマスターの方へと向けられる。
そしてそれは、いつもの作業場所へと戻っていて、次に作る「枯れ葉」の準備に入ろうとしているマスターにプレッシャーと言う名前を持つ、ある感情を。もう一人、悪ガキの笑顔を浮かべているマスターを驚かすと言うか困らせるのが最近の楽しみになっている男にも感じ取れた。




