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BAR  作者: もふもふもん
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邂逅1

ある程度の時間や月日が流れた。後のお話しとなりますので、登場人物達は昨日もBARに通ったかも知れないですし、かなり久しぶりに顔を出しているのかも知れないです。と思ってお楽しみ下さい。

 ここは、巨大な繁華街の1番外れにある地元の人以外からは忘れられて久しい古びた飲み屋横丁。


 この飲み屋横丁には古くから一軒のBARが居を構える。BARのマスターのバーテンダーとしての腕前は超一流でカクテルへの並々ならぬ知識の深さにはきっと世界的に活躍をしているバーテンダー達でさえも凌駕するかも知れない。マスターには沢山の弟子がおり彼等彼女等は日本中または世界中でマスターから鍛えられた腕を振るい活躍している。


 そんな凄いマスター。何故なのかは分からないが、この寂れた飲み屋横丁の小さな小さなBARのマスター。と言う今の自分が置かれた状況を非常に気に入っている。所謂「隠れた名店」のマスターを楽しんでいる節すらある。時折、何かの巡り合わせで自分の店を訪れる様々なお客さま達の持つ人間背景。それらのほんの一握りでも触れられ、自分が作るカクテルでほんの少しでもいいから何かが変われば無上の歓び。


 今夜もまた……数奇な運命の歯車に乗せられた人々が導かれたかのように、小さな小さなBARへと集まって来る。


 マスターの小さなBARの名物になってしまった重たいドアを開き、二人組の男性が店に入って来た。時間はまだ開店してから一時間ほどしか経っていない頃だった。店内に流れるいつもと同じクラシックジャズの音色を楽しみながら、五席あるカウンター席の真ん中の二つの椅子にそれぞれが座り。仕立ての良さそうなシングルのスーツの留めていたボタンを、二人揃って外す。


 「しかし……珍しいですね本部長の方から、飲みに行こうとか誘ってくるなんて」


 「お前のおかげだよ。お前がこの小さなBARを俺に紹介してくれてから、俺はすっかりこの店とここのマスターのファンになっちまったのさ。」


 本日最初のお客さまは、定期的に店に通ってくれる常連の中の一人と何時ぞや一緒にやって来て自分の腕前をしっかりと見極めようとしてきた男性の二人組。


 「いらっしゃいませ。木村様。藤田様。」


 最初に来た時に名刺を貰っていた事から、木村と呼ばれる男性の方が、藤田と言う常連の男性よりも、会社での身分が上である事を理解しているマスターは、上司の男性の名前から呼んで店に来てくれた事に感謝の意を伝えた。 


 「こんばんはマスター今日も楽しませていただくよ。」


 「本日は、何からご所望でしょうか?いつもと同じくビールからに致しますか?」


 そうマスターと木村本部長との軽い何時ものやり取りの後に。


 「今日は先ずはジン・フィズからいただこうかな。藤田、お前は今日も生からか?」


 そう問いかけられた部下の藤田は首を縦に振る。


 「かしこまりました。ジン・フィズとヱビスの生ビールでございますね少しお待ち下さい。」


 マスターはいつもの場所に戻り、先ずは「ジン・フィズ」の製作から取り掛かった。これは別に上司の飲み物から提供するとかそう言った意図がある訳では無い。純粋に二人同時に提供するのに、ビールサーバーからグラスに注ぐだけで出来上がる生ビールと、少しの作業が必要となるカクテルとの出来上がる時間差を考えて。それだけの事であった。


 そしてマスターは「ジン・フィズ」を作ろうと作業の手を進めようとした矢先に手を止めて、このオーダーが誰から来たオーダーなのかを思い出して、すこしだけ苦笑いを浮かべた後に、頼んできた男性の方を向き。


 「木村様。ジンのリクエストはございますか?」


 そう聞いた。この木村と言う男性は何故かカクテルへの造詣がそれなりに深く、たまにマスターですら驚くような事を口に出したりする。その事から勝手に自分で「ジン・フィズ」に合うからこのジンを。等とすると酒瓶を持った瞬間、何かしらのリクエストが飛んでくるのは必然だろうと思い先に聞いておく事にした。


 「そうだね……ジン・フィズなら定番のビーフィーターか奇をてらうなら六辺りも良いかも知れないけど、今日はマスターにお任せ。にしようかな。」


 この男性から言われて一番困る言葉を今日に限り言ってきた。「マスターが見繕ってくれ」と。


 そしてマスターは迷う。「タンカレー」を使いバランスが非常に良くなるジンを使うか「ヘンドリックス・ジン」を使い個性的な味に仕上げるかの二択に。

きっとどちらを選んだとしても、文句を言われる事も無くどちらを選んでも美味しく飲んではくれるだろう。しかしきっとこちらの意図は100%で見透かされはするであろうと。迷った挙げ句マスターは並べたられている酒瓶の棚から一本のジンの瓶を手に取る。


 マスターが悩んだ挙げ句に手に取ったジンのラベル(エチケット)には「ウィルキンソン・ジン47.5」と書かれていた。


 カウンター席がたったの五席しか無い小さなBARである。マスターがいつもカクテル等を作るカウンターの隅の作業場、端と言えどそこは二席〜三席程しか距離としても離れではいない。木村本部長の目にはしっかりとマスターに任せると言ってマスターが選んだジンの瓶を確認していた。


 メジャーカップを人差し指と中指で挟み持って正に今、悩んだ末に出した答えのジンを45ml計り、シェイカーに入れようとした瞬間に声を掛けられた。


 「マスター。マスターがいつもバロンシェイカーを愛用してカクテルをつくっているのは知ってる。マスター程の腕を持つバーテンダーならある意味で当たり前だと思うけれども、そこに置いてある「ボストンシェイカー」も別に飾りって訳でも無いと思うんだけど、どうだろ?たまにはいつもの綺麗な所作で振るバロンシェイカーでは無く、そこのボストンシェイカーを振る所を見せてくれないかな?」


 不意にそう声を掛けられて、メジャーカップで計り終えていたジンを、愛用のバロンシェイカーの中に落とし入れるギリギリで手を止めて。顔だけはにこやかに内心では「この方は毎回毎回素直に私にカクテルを作らせてくれないな」と思いつつ。


 「ボストンシェイカーででございますね。かしこまりました。」


 そう言って棚に置いていたシェイカーを手に取る。

計っていたジンをリクエストされたシェイカーの中に入れ、次に冷蔵庫にある生の果実を搾って作った、フレッシュレモンジュースを20mlメジャーカップで計りシェイカーの中に。そして選んだジンが他のジンに比べてアルコール度数が高くキリッとしたパンチのある味である事を考慮して、いつもよりも少し多めにバースプーンを使いガムシロップを三杯シェイカーに入れる。材料を全てシェイカーの中へと入れた後、10オンスタンブラーを一つ用意して。シェイカーの中とタンブラーの中どちらにも氷を一杯まで入れる。

そしてマスターは、ボストンシェイカーの大きな上下のパーツをしっかりと合わせた後で少し拳を作り二度程シェイカーの上の部分を叩いた。


 「シャッカシャッカシャッカ……」とシェイカーの容量が大きい為にいつもとまた違うシェイカーの中で踊る氷の奏でる音を店内に響かせながら十分に材料達が混ざり合い氷で冷やされていく。


 十分にシェイクした後にボストンシェイカーを半分に外してシェイクした中身をストレーナーを通して氷の入れられているタンブラーの中にへと移し替える。

そして最後にタンブラーの中の氷に当てないように炭酸水を静かに注ぎ入れた後にバースプーンで二度程タンブラーの底に貯まっているジンとレモン果汁を炭酸水と混ぜ合わせて「ジン・フィズ」を完成させた。


 そのまま次に冷蔵庫の中で冷やしておいたビールグラスにサーバーから直接冷えた生ビールを注ぎ、ビールの泡がグラス全体の二割程度になるように慣れた手付きで注ぐ。


 出来た二杯のカクテルと生ビールのグラスを手に持ちオーダーを通してきたお客さま二人の真ん中に立ち先ずは上司である木村本部長に。


 「ジン・フィズでございます」


 部下の藤田に対して。


 「ヱビスの生ビールでございます。」


 それぞれオーダーした物の名前を言いながら、先に置いておいたコースターの上に静かに乗せた後に二人の前から離れて行った。


 ここ最近で一番相手をするのが疲れる。まぁ少し楽しみでも同時にあるのだが。その相手に対して無事にオーダーされたカクテルを渡し終えたマスターは、いつもの場所で片付けの後にいつものように布巾でカクテルグラスを磨く。


 二人の男性のお客さまは何やら仕事の話をしているようだ。漏れ聞こえてくる断片的な話の内容から推察するに、どこかに新しいお店を出す話のようである。

この二人の男性の仕事先を知っているマスターは、さもありなんと思った。


 しばらくして、二人連れの部下の男性の方が席を立ち一言声を掛けてきた。


 「マスタートイレ借りるね」


 そう言われて快く頷いて応える。


 席を立った藤田部長がトイレに向かう為に狭い店内の中を歩き始めるとほぼ同時に、名物の重たいドアが開き若い女性の声が聞こえてきた。


 「マスターこんばんはこの前はありがとうございました楽しかったです。」


 と少しはしゃぐような陽気な若い女の子と呼べる程の見た目の可愛らしい女性の姿と、声は発さずに深く一度だけ頭を垂れる背の高い顔の造りがそれなりに良い男性の姿が店内へと入ってきた。


 さて、ただでさえ狭い店内。トイレへと向かう男性と店内に入ってきた若い男女の二人組。当然、店内で鉢合わせると言うか顔をお互いに近い距離で見合う事に自然となる。


 トイレに行こうとしていた藤田部長は自分の体を横に向け、入り口ドアからカウンター席に向かう為の狭い通路の壁に張り付くようにして立ち、入ってきた二人組の男女の為の通路を作る。


 そうしてわざわざ自分達の為に体を横に向けてくれている男性に向かい小さくペコリとおじぎをしながら横を通り過ぎようとした時に、女性が何かを感じ取ったのか不意に何気なく体を躱してくれている男性の顔を見た。


 「あっ!藤田部長だ!」


 そう言って突然自分の名前と役職を言われた男性が自分の正面に立っている若い女性の顔を見て、ゆっくりと十を数える程の時間が経った後に。


 「あれ?うららちゃん?うららちゃんじゃん。どうしたのこんな店に。」


 そう言って二言三言挨拶のような物を交わした後。

入ってきた若い男女はもう一人席に残ったままの最近はマスターの天敵と化している男性の横の空いている席に座る。この時に、若い男性は心の中でこう考えた。「知らない男性の横に自分の大切な女性(お客さま)を座らせるべきでは無いが、それじゃ奥に座らせるか?と言えば五席しか無い横はすぐ壁になっている隅の狭い席に座らせるべきか」を悩み自分から率先して狭い壁寄りの席に腰を降ろした。


 席にすでに座っている男性の横の席に座る時に女性は小さな声で「お隣失礼します」と声を掛ける。それを聞いて座っていた男性も「お気になさらず」と返礼を返す。そしてトイレから帰ってきた藤田部長が、既に座っていた男性。木村本部長の隣の元々から座っていた席に戻ってきた。


 隣に座った藤田部長に向かって木村本部長が。


 「こら藤田。こんな店はマスターに失礼だろ。」


 そう言って自分の直属の部下を窘めた。藤田はマスターに向け頭を下げて謝罪をした後に自分の上司の隣の席に座る若い女性に再び声を掛ける。


 「うららちゃん。おはよう仕事帰り?お疲れ様。」


 そう言って自分達の会社が経営している風俗店の中の一つで働いている若い女性に向けて挨拶を改めてすると。若い女性からも。


 「藤田部長もお仕事帰りですか?お疲れ様でした。」


 そう返事が帰ってきた。


 そんな二人のやり取りを間に座る男性は必然的にこの横に座る女性は風俗嬢で、自分達の会社の系列店に所属している事を知る。


 「失礼。うららちゃんって言うんだね。お仕事お疲れ様でした。」


 そう言って少しだけ頭を下げた。


 見ず知らずの男性から声を突然掛けられ少し驚いている女性は、知り合いでもある藤田部長に困惑の顔を顕にして見ると。藤田部長が笑顔で、うららと呼ばれた女性にこう告げた。


 「うららちゃん安心して大丈夫だからね。あっ!奥の連れの方も安心して下さいね私は、うららちゃんの働いているお店の経営に携わっている同じ会社の人間ですから。そしてね、うららちゃん。この横の人はね私の上司の木村本部長さん。ほら、店長かマネージャーから聞いた事無い?ウチのLineグループをゼロから立ち上げた人の事。」


 そう言って自分の横に座る男性が、貴女にとって決して害を及ぼす可能性の無い人間である事。むしろ無条件で味方になってくれる人である事を説明した。


 それを聞いたうららはうららで少しだけ大きな声で。


 「あっ!聞いた事あるよ〜なんかすごい本部長さんが本社に居るって有名だもん。」


 「木村本部長。まぁそう言う事です。この子はウチのLine系列で。」


 それだけを言えば十分過ぎるほどに理解してくれる事を知っている藤田部長は、横に座る女の子が風俗で働く風俗嬢である。なんて事までは言わずに居た。

まぁ一言だけ言えば。この店に今居る全員が理解している事でもあった。


 「改めて。うららちゃんよろしくね。最近はあまりお店の方に視察に行く事も減っちゃったから会うのは初めましてだね。よろしくね。それと奥の彼。彼も、うちのうららと仲良くしてくれてるようでありがとう。」


 そう言って女の子と一緒に店に入ってきた男の子に向けて「お前はホストだよな?うちの系列で働いてる風俗嬢の担当なんだろ?あまり無茶な扱いをするなよ!分かってるよな?ウチのグループの力を。」と言う意味を込めて挨拶をした。


 その挨拶を受けたホストの男性は、席から飛び上がらんばかりの勢いで席を立ち直立不動の姿勢になり、大きく深く頭を一度下げた後に。


 「木村本部長。お久しぶりです。後、お疲れ様です。」


 と声を掛けてきた。その声を掛けてきた相手をマジマジと見つめる事、数十秒。


 「あれ?お前、ひじきか?え?EDENのひじきだよな?何だよ。同じ会社の人間だらけじゃねぇかよ」


 そう言って笑う木村本部長。それを見た藤田部長に木村本部長から説明があった。

うららと言う風俗嬢が連れているホストは、ウチの系列のホストクラブに所属しているホストである事を。

無店舗型風俗店事業部の部長である藤田部長は、そこの事業部が運営しているデリバリーヘルスに勤める風俗嬢の事は良く知っていても、流石に他の事業部の系列店のホストクラブに勤めるホストまでは知りようが無い事に。そして会社が展開する全ての事業部の統括を仕事にしている本部長ならばこそ、視察に訪れた時に印象に残り話を交わした事のあるホストの事を覚えていた。


 そして木村本部長の言葉に更に驚く事になる人間が二人。


 「え?聖君のお店ってウチの系列店だったの?」


 と言う声と共に。


 「うららさんってLineグループのお店の人だったんですね。」


 この飲み屋横丁の奥まった場所にある小さなBARのたった五席しか無い席の内の四席もの席を、同じ【ArcadiaGroup】と言う複合風俗店経営会社に所属している人間だけが占めていた。


 その後は木村本部長を中心にして、系列店のホストクラブで働く東堂聖と言うホストと藤田と言う本社の一事業部の部長を紹介しあい。


 四人共が同じ系列の会社に所属していると言う事を全員認識した。


 偶然の出会いをいつもの場所で聞き耳を立てて聞いていたマスターは、頃合いを見て新しく店内に入ってきた若い男女の間に立ち。


 「いらっしゃいませ。お二人様お久しぶりでございますねご来店ありがとうございます。ご注文はお決まりですか?」


と静かに歓迎の声を掛けた。


 「あっ何にしようか?」


 そう言って横に座る連れの聖に聞くうらら。

二人が何を注文しようか迷ってる時に不意に藤田部長からとある提案が投げ掛けられた。


 「うららちゃん、聖君。何を頼むか悩んでるなら良い事を教えてあげるよ。ここに座っている本部長さんはね何故だか知らないけど、カクテルにもとっても詳しいんだよ。どうだろ?本部長のおすすめするカクテルを頼んでみたら?」


 と告げた。そしてその提案を二人がとても歓迎して、一人が物凄く心の中で「嫌な顔」をした。


 「そうだね。それじゃ僭越ながら若い二人に私からおすすめを提案させてもらおうかな?まぁあまりマスターを困らせたりしない限りは、メニューに載ってないカクテルでも作ってくれるはずだからね。」


 ここ最近は一番困らせられている人間からそう言われたマスターは、苦笑いを浮かべるしか無かった。


 

長くなりそうなので分ける事にしました。

今でも十分に長いとは思いますが……申し訳ありません。

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