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BAR  作者: もふもふもん
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邂逅8

 急ぎボストンシェイカーを水洗いして水気を切った氷室吾郎は、シェイカーを布巾で拭き完全に水気を無くす。ただでさえシェイカーの中で氷と一緒に混ぜられる事から多少なりとも薄まってしまう事を考慮して、なるべく水気を排除した方が好ましい。



 洗い終わったシェイカーを片手に、準備を一つ忘れていた物を取り、元の舞台に戻ると四人のお客さま達に対して一礼した後に、 次に作るカクテルの下準備に入る。一脚のカクテルグラスを手に取ると、グラスの縁をライムでクルリと一周撫でた後に、先程シェイカーを洗った時に持って来た、塩の入れられているトレーの中にカクテルグラスを沈め、縁に塩のコーティングをし「スノースタイル」にした。


 そして、一枚のコースターを、藤田部長の前に置き、カクテルを作る前にスノースタイルにした何も入っていないグラスを置いた。


 「本部長。次は俺みたいですね。楽しみだなぁ。」


 そう言って、スノースタイルのカクテルグラスの中にどんなカクテルが注がれて、どんな味がするのか?また、氷室吾郎は自分のカクテルを作るのに、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか?。色々な楽しみで年齢の割に心の中は少年のような気持ちで、はしゃいでいた。


 氷室吾郎は、シェイカーの下パーツを右手に持ち、左手にはテキーラの「オルメカアルスト」の瓶を持って、シェイカーの下パーツと酒瓶の二つを使い、ボトル・フリップしながら華麗に二つの物を大道芸人の様に器用に回し始めた後に、最後に酒瓶を自分の左腕の根本の肩辺りにバランス良く横にして乗せて、そのまま腕を下げて、酒瓶が腕の上をコロコロと転がり、そのまま左手で酒瓶をチャッチすると。


 「今、氷室が酒瓶を肩から自分の腕の上を転がしキャッチしましたがそれを【ロール】と呼ぶ一つの技でございます。」


 と藤田部長の前に立ち解説役を務めているマスターが、目の前に座る藤田部長に向けて技の解説をした。


 そして転がしてキャッチした酒瓶から、右手に持つシェイカーの中へと「オルメカアルスト30ml」を注ぎ。その後は、パームとボトルフリップを交えながら、テキーラの酒瓶を戻すと、違う酒瓶に手を伸ばした。酒瓶のネックを掴み、上に向けてヒョイと投げた後に空中にある酒瓶を左の手で掴んだ後に、今度はテキーラが入れられたままのシェイカーの下パーツと酒瓶を使い、中身が一滴もこぼれない巧みな技術で、酒瓶とシェイカーを回し、最後には、酒瓶を首の後ろに持ってきて、頭を後ろに曲げ首と頭で酒瓶を挟むと、上半身を折り曲げて、先程は腕だったが、今度は背中の上をコロコロと転がして、腰でキャッチした。


 氷室吾郎が持っていた酒瓶は「コアントロー」と呼ばれる「キュラソー」と言うオレンジを使った「リキュール」の中でも「ホワイトキュラソー」と呼ばれる部類にあり。「コアントロー」は他にも数多くある「ホワイトキュラソー」の中でも別格。と呼ばれる程に、カクテルの数多あるレシピの中で「ホワイトキュラソー」との表記では無く、わざわざ「コアントロー」と種類指定しているレシピが多い事でも有名である。


 その有名な「コアントロー15ml」をシェイカーに注いだ後に最後に「フレッシュライムジュース10ml」を注いで、先程の様にステンレスラックの中の氷を二個程、シェイカーの中へ投げ入れて、シェイカーの上下のパーツを重ね、中身をシェイクしていった。


 シェイクが終わったシェイカーをパームしながら、藤田部長の前に移動した氷室吾郎は、先程と同じくシェイカーの上パーツを左右に動かし、真空状態でお互いが密着しているシェイカーを上下のパーツに分けた後に、先程とは違い静かにストレーナーをグラスの上に置き、シェイカーの中身の液体のみを注ぐ。これは、東堂聖の時の様に卵を割るように注ぐと、わざわざ付けた、グラスの縁の塩が溶けてしまう事を防ぐ為でもあった。


 「藤田さんに贈るカクテルは。」


 「マルガリータ。」


 「でございます。このマルガリータは創作者の元恋人の名前でもあり、不幸な事故に巻き込まれ命を失くした恋人の事を思い作られ名付けられたカクテルになります。塩でスノースタイルにしてありますので、一緒に飲んで下さい。多くの女性(風俗嬢)と出会いと別れを経験している藤田さんにはこのカクテルと決めていました。」


 そう言って、深く藤田部長に向けて一礼した後の氷室吾郎は、優雅にまたシェイカーを洗う為にシンクへと向かった。


 木村本部長は、氷室吾郎が去った後に静かな声で横に座る部下に向け。


 「そのマルガリータのカクテル言葉は、無言の愛。お前が出会い見送って来た女の子達へのお前の愛は確かに伝わっているよ。」


 その言葉を聞いた藤田部長は、目頭が熱くなるのを感じて、ほろり……ほろりと大粒の涙を流しながら、黙って差し出されたカクテルの入ったグラスを持つと、そっと口を付け、飾られた塩と共に中身を一口飲み干した。そしてまた……一粒の涙が頬に伝わる。

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