第三十八話 千三百年の歴史ある温泉①
仕事依頼を受けた際は「遠いな!?」と驚いたものだ。移動時間を考えるとコスパが悪すぎる。断ろうかと地図を見ると有名観光地が近かった。
「そうだ、温泉に行こう」
というわけで仕事を受けた。蟹で有名な温泉地。味噌は好きだが身に興味がないので初夏でも全然楽しめる。
昼過ぎに仕事を終え特急券を買った。全席指定席らしい。初めて指定席を買った。席は自分で選ばず、券売機にお任せすることにした。そんなボタンがあるとは優柔不断人間には助かる。
と、思ったんですけどね。コンセントはどの席にあるか、ちゃんと調べましょう。
特急列車がホームへやってきた。行き先を確認するも不安で車掌さんに券を見せた。合っているとのことで乗り込み、席へ向かうと……座っているではないか女の子が!
本当にこんなことある?
「すみません、席間違っていませんか?」
自分の券を見せた。
「本当ですね!?」
あ、いい子。
かなり慌てて券を確認してくれた。同じ席番。そんな馬鹿な。
「あれ? 確認してきますね」
もう一度、車掌さんに聞いた。もうすぐ発車時刻なので焦る。事情を聞いた車掌さんが券をもう一度よく見た。
「これ、あっちの電車ですね」
ホームを挟んだ反対側。
ッッおい!? 分からないから君に聞いたんじゃないか!!
今にも発車しそうな二つの電車。何で行き先名が似てるんだよ!
慌てて女の子に「駅員さんの間違いでした」と伝え、反対ホームの特急列車に乗り込んだ。
あれ、ちゃんと女の子に謝ってなくない? 本当にすまない。一人旅を邪魔して悪かった。
ていうか、田舎の駅だからなのか電光掲示板が無いのも間違えた原因だと思う。行き先が、ほぼ一緒の名前なのも良くない。
なんとか温泉の最寄り駅に到着した。
「ここが……」
兵庫県で有名な温泉地の一つ。城崎温泉! 有馬温泉は巡ったし、湯村温泉は車で立ち寄っただけで入浴はしていないが雰囲気は知っている。城崎を楽しめば、兵庫の温泉地はあらかた知っていると言えるな。
まずは荷物を預けよう。スーツケースが重たい。
そして、スマホ充電できるところを探すのだ!
コインロッカーを見つけ、使いやすそうな場所を開けた。
「うんっっ?」
荷物がアルヨー? ミッチリダァ。
自分の荷物を他のロッカーに詰め込み、鍵のかかっていないロッカーに戻る。
え? これは……鍵閉め忘れなのか? よし! 親切心で管理会社に電話してやるぞぉ! 親切心だから親切心。徳積みですわよ。
管理は案内所らしい。電話番号をポチポチポチ。
「駅前のロッカーにいるのですが、荷物が入ったままになっていて。危ないのでお電話しました」
よし、あとは任せよう。充電ないから行き先は電源カフェ……と。
検索していると、一人の男性が走ってきた。案内所から来たの絶対あの人じゃん?
「○○○○番のお客様ーーーっ!」
ロッカー番号を連呼している。
さ、探している。よく通る声ですな。近くにいると思えないが。
電源カフェ見つけた。ここに行くぞ。
「お客様ーーーーッ」
……ハッ!? もしかして、ロッカー利用者が困っていたのだと勘違いしているのでは!?
伝え方悪かったなぁ……とソロソロ歩いていく。
「で、電話した者です。私の荷物ではなく、開けた時に入っていました」
「あっ! そうなんですね! ありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
これ徳積めたか? トータル迷惑かけたんじゃないか? 知らない知らない。
マップを頼りに電源カフェに向かった。
まさに日本の観光地という感じである。川と枝垂柳の組み合わせが美しい。
日曜だが小雨が降っているためか、蟹シーズンではないからなのか人は少ない。やったぜ。
カフェも空いていて安堵する。スマホ充電できそうだ。
風が強くなってきたタイミングでカフェに入った。天井たかーい。
素敵なカフェに来られた。メニューを見る。おや、軽食は時間外らしい。残念。
珈琲が美味しい店らしいのでブレンドコーヒーとクッキーを頼む。
席まで持ってきてくれた。あざまっす。
オシャレなマグカップに入った珈琲を飲む。珍しく猫舌を発揮しなかった。
んめぇ。砂糖もミルクもいらない。エチオピアブレンドかな? しっかり酸味があるけれど美味しく飲める。
スマホを充電しながら、このエッセイを書いていると、外国人が次々に来店する。人気店じゃないか。彫りの深い美しい顔に惚れ惚れしながら珈琲を飲んだ。クッキーも珈琲に合ってオススメである。
雨が強くなってきた。傘をさしながら歩く。これもまた良し。
塩味のあるものが食べたくてデリカ屋さんに来た。立ち飲みもできるらしい。肉まんでも食べてみようか。
「いらっしゃいませー」
入店してメニューを見る。お姉さんが待っているが、迷うなぁ。つい首を傾げてしまう。お姉さんも首を傾げる。ギャビーン!? でも可愛い。というか同類の動きするじゃん。
普段食べないくせに蟹まんも気になる。が、一番人気の但馬牛肉まんを食べることにした。
「良かったら店内で召し上がっていきませんか?」
雨だから声かけしてくれているのだろうか。好き。
「そうします」
テーブルに運ぶとコンセントがある。まだ不安な残量。
「電源使っても良いんですか?」
「どうぞ!」
接客うまかよ。
肉まんを食べる。ジューシーだ。生地のこの蒸しパン感も良き。高級感は分からないけれど美味しい。
腹が適度に膨れたので温泉を目指す。事前の情報収集によると、なんと開湯千三百年らしい。そんな歴史ある温泉。入らずに帰れるものか。
おっ、温泉卵美味しそう。温泉地の代表グルメ。自分の胃と相談する。お腹いっぱいになってしまうな。空腹でも満腹でも風呂には入りたくない。
テクテク歩いているとプリン専門店を見つけた。ワンコイン以下で食べられる。このプリンなら安全に胃に入れられるだろう。
定番のプリンをカラメルソースで注文した。黒蜜きなこも選べるらしい。
プリンは一人で作っている、と紹介ポップがある。こだわりって感じで良い。
「お待たせしました」
四角いお皿に四角いプリンが乗っている。もう美味しそうだもん。木のスプーンでパクリ。
濃厚だっ! 卵の味はもちろん。ミルク感が強い。生クリーム。優しい甘さ。カラメルソースの一体感。愛が伝わりますな。
美味しい水道水と書かれていた、店内セルフの水を飲む。
うま!? 書くだけある。
自分はカルキ臭さが苦手で水道水飲めない人だが、これは飲めます。温泉前なので水分補給と思って一杯飲みきった。
食器を持って返却しに行く。
「…………。あっ」
カウンターに持って行ってから気がついた。水はセルフだが、食器は返却しなくて良いのではなかろうか。
「あ、ありがとうございます」
ほらー。戸惑ってる。
「間違えましたね。ご馳走様でした」
店内に自分だけで良かった。
日帰り入浴できる温泉を探す。どこが人気かもよく分からず、行きやすい立地の中から勘で選んだ。
決め手は、洞窟風呂という名前。珍しくて惹かれたのだ。
カポーン───。
さっぱり。素晴らしかった──!!
温泉は混雑しておらず、ゆっくりできた。泉質も肌に合った。
この湯が千三百年もの間、愛されていたのも納得である。タイムスリップしたような不思議な気持ちになれた。
特に気に入ったのは、やはり洞窟風呂だ。露天風呂だったのだが、どうやって作ったのか。何故作ろうと思ったのか。素直に驚いた。
そして! 構造、雰囲気が、自分の書いた長編小説のワンシーンに似ていた! 一人だけ違う視点でワクワクしてしまったわ。
実際に体験すると、小説で表現したものより素敵であった。上を見上げた時のスケール感。岩肌の感じ。水面の煌めき。もっと感動的に書けばよかった!
変なところに興奮しつつ、次の目的地へ歩きだす。その道が、昔はどんな感じだったのか、どんなお店があったのか。昔の風景を思い浮かべながら───。
お読みいただきありがとうございました。
今回巡ったのは【城崎温泉】でした。
湯村温泉もいつか入浴してみたいですね。立ち寄った際は有名な温泉地だと知らず、何かお土産だけ買って帰りました。たしか栃餅。
兵庫県には淡路島、赤穂市にも代表的な温泉地があるようです。編集するなかで調べて初めて知りました。
お邪魔しましたお店はこちら。
珈琲 Kinosaki TOKIWA GARDEN(城崎ときわガーデン)
肉まん 但馬デリカ茶屋
プリン 城崎プリン専門店 kiman 生萬
一の湯
城崎温泉編は後半に続きます。




