第三十七話 紅茶愛の溢れるお店再来店
仕事が終わりクタクタである。猛暑つらい。
お昼休憩がまともにとれず、お昼ご飯はドーナツであった。熱中症にならないよう塩タブレットを噛む。
現在十九時半。お店は二十一時まで。いけるよな?
本日は再来店。同じ店を書くのはどうかと思ったが、面白すぎたから是非とも聞いてくれ。
初見の人は第八話参照だぞ。
再来店となると、道を覚えるもの。スムーズに店に到着。見上げるとティーポットの看板。
そう、紅茶を飲みに来た。晩御飯は後回しである。ここのケーキが食べてみたくてな? 年内近くまで来ることもないだろうから寄ったわけだよ。
問題は店に入れるか。前回は満席だった。相変わらず外から中の様子は見られないのでドアを開けるしかない。ゆっくりドアを押す。
「ん?」
まさかの貸切!! それは予想外!! 華金だから皆飲みに行ってるのかな。
「いらっしゃいませ」
オーナーのおじ様が現れた。
「まだ大丈夫ですか? 一人です」
「お好きな席へどうぞ」
では、全体が見渡せる席へ座るかね。はー、雰囲気独り占め最高。暖色の照明。ティーカップの植木鉢が可愛い。チェロの音楽が響いて心地いい。
メニューを渡された。んー、どうしよう。ケーキは何がある? 紅茶も悩むなぁ。
「どういった紅茶が飲みたいですか?」
オーナーさん!! 悩んでいるのバレてたかな。
「すみませんね! 美味しい紅茶を飲んでもらいたくてお店しているので」
ふふ、知っています。紅茶愛、初っ端から全開ですね。貸切最高かよ。
「えっと。どういった? とは?」
なんて答えたらいいんだ?
「そうですね……カップ三杯分ご用意します。全部ストレートでお飲みになりたいか、二杯目三杯目はミルクティーでお飲みになりたいとか」
わたしゃ両方飲みたい欲張りです。
「最後はミルクティーがいいです」
あと、決まっているのは……ケーキだ。
「ケーキを食べたくて」
「いいですね。何のケーキにするか。おすすめの紅茶がかわります」
こんな手厚い接客……すでに感謝で死にそう。
「先にケーキ選びますね」
立ってショーケースを見る。
ブルーベリが乗ったレアチーズケーキ。好き。
いちじくのショートケーキ、メロンのショートケーキ。ちょっと気になるが特別好きでもない。
チョコレートケーキ。好きだが今の気分ではない。
くりのケーキ。……夏に栗? あ、ダメだ。気になってしまった。
優柔不断なのだから、少し気になったら決めてしまうのが楽である。
「くりのケーキにします」
着席。
「くりのケーキでしたら、こちらがオススメです。MUSICAのマッタケレ茶園のディンブラ」
やべ、聞き取れない。マツタケ園? って言った?
「砂糖なしで美味しく飲めます」
「ミルクティーは砂糖入れたい派です」
オーナー眉に力がはいるじゃん。
「砂糖ない方が美味しく飲めます……。砂糖入れるのでしたら、こちらのアッサム」
うーむ、アッサムの気分ではないかも?
同時並行でアッサムの説明をしてくれるが、思考のせいで頭に入ってこない。
というか、このオーナーは紅茶愛がすごすぎて情報量えぐい。私は一度映像化して覚えるタイプなので間に合わず半分拾える程度。
「じゃ、じゃあティンブラで……」
あ、ディンブラだった。はず。はずーい。
「ディンブラで!」
なんか嬉しそうだなオイ。熱量を受け止めきれずここに書いていないのだが「オススメです!!」と力を入れて熱弁されていたのだ。
「お待たせいたしました」
え、早くない? 貸切状態だから? ちょつとスマホ触っていた間に来たぞ。もう注いで大丈夫な感じですか? 三分待つ?
「一杯目はそのままで」
おお、待って? 説明始まるじゃん!
シャキッと背筋を正す。もう授業だからね。覚えろよ自分!!
「ペラペラペラペラペラペラペラペラ」
あ、無理。語彙力すごい。感心している間に話が進む。イメージ! イメージでなんとなくキャッチするんだ!!
「ポットに茶葉入っていますから、一杯目から三杯目の味の変化を楽しめます。ケーキが美味しくて紅茶を飲まずにケーキだけ食べる人もいるんですが……」
ほ、ほう? そんなに美味しいケーキなのか。
「紅茶を飲みながらケーキを食べてください」
あくまで主役は紅茶だと。おぅけぃ。
紅茶を入れようとしたら、茶こしの使い方まで見守られる。ひぃ、貸切だからマジで手厚すぎる。
「だいたい七から八分目で三杯分です」
承知!
注いだ紅茶を見る。綺麗だな。濃すぎず薄すぎない水色。美味しいのがもう分かるもんね。
まずはケーキじゃなくて、紅茶から飲もうね。ううっ、猫舌。少量しか口に含めないが美味い。紅茶飲んでる。はー。
色つきのお湯じゃなくて、紅茶を飲んでいる感。これが素晴らしいのだよ。
冷ますためにカップを置いてケーキを食べることにする。一般的に想像されるモンブランのクリーム、スポンジ、栗、スポンジ。構成は四層かな。
三角形のケーキ。先っぽを四層フォークでぶっ刺す。ちまっ。ぱくり。
あー、うまいやつ。もう一口。
先にケーキ食べ進める気持ち分かる。
我が家の最寄り駅には有名なケーキ屋さんがあるのだが、甘くて好みではない。
断然ここのケーキが美味しい。甘すぎない。パクパクいける優しさ。前も思ったけど、オーナーの優しさが味に出てるんだよ。気が入ってんのこれ。
ケーキだけじゃなくて、ちゃんと紅茶を飲む。
ッオ。うめぇーーーー。
飲める温度の紅茶。口にしっかり含むと分かる。この紅茶、確かに砂糖いらんぞ。ケーキと合いすぎる。ウママママ!!
「ッ……」
しまった。お店が見渡せる席を選んだから、キッチン奥からこちらを見るオーナーさんの視線を感じる。恥ずかしいぞ!
飲むの少し緊張する。すみませんね。カップ両手持ちで。落とすタイプの人間なので、たっぷり入っているうちは両手持ちさせてください。あと、美味いっす。
携帯触ることを忘れる。というか、触りたくない。オーナーの視線も気がつけば忘れていた。余韻に浸りたい味。
あっという間に一杯目を飲んでしまった。お茶漬けを食べるCMが如く。
「一杯目はどうでしたかッ」
オーナー様! 飲みきったタイミングで来られたんですね!? そのために、こちらを見ていたんですね!?
「砂糖いらないお味です」
「二杯目は、これがもっと美味しいです」
な、なんだってーーーーーー!?
「いい紅茶の条件。渋みがサッと引きます」
それが、いい紅茶の条件なんだ!? 勉強になりす!
ワクワクしながら紅茶を注ぐ。
「二杯目は先程より濃い色になっています。水色を見てください」
はい、この色も素敵です。
オーナー様は去っていった。
ウフフと飲む。渋みを意識して感じる。
スッ……。確かに! すごい。言っていた通り渋みがサッと引く。なんだこれ。
ゴクリ。程よい渋みが……サッ。すごい。ここまで意識して紅茶飲んだことないぞ! 意識するポイントが分かれば美味しさをキャッチできるものだな。
よし、ケーキの美味しさにも注目してみようじゃないか。もっと、もっとね。
栗のクリームは優しい味。やまとなでしこ……少し違うな。とにかく奥ゆかしい。お淑やかな感じ。そう! いい女!! なんだそれ。語彙力くれ。
スポンジに挟まれた栗の甘露煮はラム酒の香りがふわっと鼻からな抜ける。これが紅茶と合わさると美味いんだ。甘露煮販売してほしい。この絶妙な甘さ。すごいんだって。
ケーキを口の中に残しつつ紅茶を飲んでみようか。意識的にね。
フォークでケーキを刺す。このスポンジは空気を多く含んでいる。若干水分が足りない感じ。これが紅茶と合うって知っている。オーナーも分かって作っているでしょう?
ケーキを残しつつ、紅茶を飲む。スポンジは紅茶を吸ってホロホロと解けていく。崩れるじゃないんだよ。糸を解くように、だよ。指揮者の杖の動きのよう。不快じゃない。繋がっているってこと。
マリアージュ――――。これ、まさに。
汗が垂れるわ。美味しいものを食べて飲んで体が喜んでいる。手をパタパタする。風なんて起きないんだけど、したくなるほどの発汗。
幸せなんだよ。
よし、三杯目だな。
もちろん颯爽に登場するオーナー様。タイミング完璧ですね。
「三杯目は茶葉の個性が出ます!」
そうなんですか!? 二杯目が最高かと思って飲んでいたのに、まだそんな魅力があるんですか!?
オーナー様は鼻の辺りで手をグッとすぼめてから開いた。花火のよう。
「渋みがここで弾けます」
ボディーランゲージ上手いよな。
「その渋みとミルクが合わさると美味しいです。まずは一口、ミルクを入れずに飲んでみてください」
了解した。三杯目を注ぐ。
「注ぎきってください。最後に美味しさが凝縮されています。ゴールデン・ドロップといわれます」
おぅけぃ。でも、ずっと見られるの恥ずかしい。
おお、三杯目の濃い水色。これはミルクと合いそうだ。どれどれ一口。
「……!」
渋いが美味い。オーナー様が言う通りの弾け方をする。すごい。体感と表現か完全一致。面白すぎるぞ。
「余計かもしれませんが」
なんとミルクを注いでくれた。そうであった。ミルクを入れすぎると「多いかもしれませんね」って突っ込む人だもん。美味しく飲んでほしい思い入れが強すぎて手が出たんだね?
ペコペコ頭を下げておく。
……飲むべき? ゴクリ。
さすがミルクの量が完璧である。入れすぎると乳臭くなる言ってましたもんね。
「このミルクティーは栗とよくあいます」
じゅるり。期待してしまうじゃあないか。
「お砂糖いりますか? どーしてもっ、というのでしたら……なしの方がいいと思いますけれどね」
そんなに言われたら入れませんてー。日本人だもの。
「砂糖なしでいただきます」
オーナー様、笑顔になる。
「紅茶とケーキ。一緒になると、それぞれの甘さが引き立ちます」
うんうん。砂糖いらないと本気で思いました。
「紅茶の旨味を感じてください」
返事をする間もなく次々に言葉が飛んでくる。
ん? 旨味? 紅茶で旨味は初耳ですぞ。
ハテナを飛ばしている間にも、オーナー様は美味しさを体を使って現していく。伝えきるとキッチンに戻っていかれた。嵐だな。
それにしても、素晴らしい表現力だ。オーナー様の感じ取る美味しさを、その語彙力で表現されている。ソムリエとか、評論家の人はそんな感性をお持ちなのだな。
気持ちを落ち着かせケーキを食べ、ミルクティーを飲む。ストレートより濃厚でまろやか。本当に砂糖なしで三杯いけちゃうな。
おっと。
食べ進める手を止め、水で舌をリセットする。
旨味とやら、感じてやろう!
口に含むんでゆっくり味わう。初めて旨味を探しながら飲む。緑茶のお出汁ような旨味とは違うのだろうか。うーむ? この辺り? これが紅茶でいう旨味か? 分からん。しかし、表現するなら旨味なのだろう。
覚えたぞ。多分……。だって美味しい紅茶じゃないと分からないと思うよ!?
また飲みに来るしかない。
大満足で余韻に浸っていると、登場オーナー様。
「どうでした?」
この感じ、ドラマで見たことある。エンディングに繋げる会話。リアルなの凄い。
「美味しかったです!」
感想を交えつつオーナー様がお店を開いた経緯を話してくれた。こうして表に出してくれることで知れることがある。
「店によってカラーがあります。店によって美味しさがある。あそこの店主はあの辺に住んでおりまして────」
他店の情報まで。話して大丈夫なんですかい? 忘れておこう。他県なのに手広いお方だ。
キリのいいところでお会計を頼む。レジに立ち、財布を出す。
「ミルクティーがお好きでしたらティールームブレンドがオススメです」
んお? 詰め込むなぁ。いけない、名前メモっておかないと。
「ティー? なんでした?」
「ティールームブレンド。チャイのような濃いミルクティーがいただけます。今回お飲みいただいたのは軽めです。スコーンとあいます」
や、やめろ。飲みたいし食べたいじゃないか。商売上手いですね!
「では、次回はそれを。メモしました」
小説家になろうにな!
「お待ちしております」
会釈をして外に出た。二十一時前の人通りのない静かさ。ここに満たされまくった人間がいると誰が知ろうか。
あー! 次いつ来れるの!?
機嫌よく駅へと向かった。
お読みいただきありがとうございました!
あまりに内容濃すぎて書くことを決めました。
人気店になると困るけれど、広めたいお店です。親友に話したら行きたいと言ってくれました。
時間があればもう一種、別の紅茶をいただきたかったものです。
後日、ティールームブレンドとスコーンをいただきました。
とても美味しかったです。
最後に訪れてから全然行けてなくて……編集していたら行きたい欲がひどいです。
次話、どれ投稿しましょうね??
そろそろ、関東の話も投稿したいです。




