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パパが最強すぎて異世界がバグった件  作者: ねこあし


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22/23

第22話「いざ王都防衛戦へ!天才娘の魔導解析と父のゴリ押し迎撃戦」

 夜の王都レルファリアは、昼間の賑やかさが嘘のように静まり返り、街路灯代わりの魔導晶石が冷ややかな青白い光を石畳の上に投げかけていた。


 しかし、その美しい静寂とは裏腹に、街の深層――王城の地下数百メートルに位置する「中央魔導結界制御室」の空気は、張り詰めた氷のように緊張していた。


 各防衛区画の魔導師、重甲冑を纏った衛兵、そして王立警備隊の伝令が慌ただしく行き交い、通信魔導具からは断続的なノイズと切迫した報告が飛び交っている。一触即発の危機が、王都全体を暗雲のように覆っていた。


「……ふーん。なるほどね。魔導結界の制御中枢って、要するに並列処理型のオプト・クォンタム・プログラムみたいな構造になってるんだ」


 制御室の中央に置かれた、巨大な八角形のクリスタル祭壇。その傍らに設けられた簡易作業台で、まひるはノートPCの画面に反射する青い光に顔を照らされながら、力強くキーボードを叩いていた。


 日本から持ち込んだ彼女の愛機――高性能ノートPCは、エルミナと王立魔導技師たちが数時間かけて作り上げた「魔力―USBシリアル変換アダプター」を介して、古代魔導端末の幾何学回路とダイレクトに接続されていた。


 黒い太いケーブルが這う作業台の上で、現代のOS画面と異世界の魔導ルーン文字が怪しく融合し、毎秒数千行のデータログが爆発的な速度でスクロールしていく。


「へへっ、魔力変換のロジックが意外と素直で助かったよ。関数定義とアセンブリ言語が混ざったような構造だし、これなら誤作動や干渉の原因もすぐに特定できそう……って、うわっ!? 何これ、第三防衛区画の魔素配列が不自然にずれてる!? こりゃやばいって、完全にバックドア開けられてるじゃん!」


 画面上の波形データが一瞬赤くフラッシュするのを見て、まひるは短い悲鳴を上げた。


「まひる、落ち着け。状況の把握と冷静な処理こそが、オペレーターの第一条件だ」


 背後から低く力強い声が響く。


 振り返ると、そこには黒の迷彩ジャケットを羽織り、タクティカルベルトのバックルをカチリと硬い音を立てて固定する一真の姿があった。その肩には、王立軍工廠から押収・調整させたという、分厚い鉄塊のような銃剣型大型防衛兵器が担がれている。


「パパが外で敵の主力を物理的に殴り倒して足止めしてくる。その間に、お前は裏のシステムを完璧に押さえろ」


「ねえパパ、さっきから当たり前みたいに“殴ってくる”って言ってるけどさ……王都の防衛作戦だよ? 普通はこう、部隊の配置とか、射撃陣地の構築とか、戦術的・戦略的に段階を踏んで作戦行動するもんじゃないの?」


「するさ。だからこそ、そのあらゆる戦術行動を円滑に進めるために絶対必要なのが……まず“圧倒的な初手火力”だ。火力こそが主導権を握る。能書きはいい、初手はとにかく殴れ」


「何それ、思考回路が完全にバグった脳筋兵士のそれなんだけど……!」


 呆れ果てて苦笑するまひるに対し、一真は口元に不敵な笑みを浮かべ、黒いゴーグルを額から目元へと滑り降ろした。


「そっちの防衛線、頼んだぞ、最高情報参謀」


 軽く手を振り、一真は漆黒の闇が広がる地上防衛ラインの最前線へと、音もなく疾走していった。


 同じ頃。王都レルファリアの南外郭門付近。


 周囲の街灯が怪しく明滅し、静まり返った石畳の路地裏を、風のように滑らかな動作で移動する黒装束の集団があった。地下犯罪組織“ノクターン”が誇る、特殊工作部隊である。


「……周囲に警戒反応なし。警備兵は北側の陽動につられている」

低い囁き声とともに、リーダー格の男が懐から黒く脈動する金属球を取り出した。高濃度の呪導力を秘めた「破城魔導具」である。


「よし、破城魔導具をこの結界基部に設置しろ。南門の警備は薄い、今なら一気に内側から粉砕して――」


 ――ズガァァァァンッ!!!!


 男の言葉は、夜の静寂を切り裂く絶大なる物理的衝撃音によって激しく掻き消された。


 爆発の光ではない。南門の強固な石造りの見張り台から、巨大な質量の塊が音速を超えて着地したかのような衝撃波。石畳が放射状に砕け散り、激しい煙幕と火花が巻き起こる。


「くっ……!? 敵襲! 仲間を庇え! 咄嗟に身を伏せ――」


「―― 一発目、起きたな」


 濃煙の中から現れたのは、夜の闇に溶け込む迷彩ジャケットを着た一人の男――一真だった。


 手にした巨大な銃剣型兵器の柄を固く握り締め、冷酷なまでに研ぎ澄まされた視線で敵集団を完全に見下ろしている。


「な、なんだ貴様は……!? どこから現れた!?」


「レグナス王国防衛任務、臨時召喚兵。一真。陸上自衛隊空挺レンジャー出身だ。手短に済ませよう、よろしくな」


 言い終わる猶予すら、相手に与えなかった。


 一真の身体が、地面を低く滑るような独特のステップで地を蹴る。通常の人間には残像すら視認できない絶対的な加速。


「なっ――速――!?」


 左側から咄嗟に突き出された魔導刃の軌道を、一真は最小限の首の傾げで回避。すれ違いざま、相手の肘関節を左掌で跳ね上げ、無防備になった脇腹へ右肘(エルボー)を突き刺す。ドスッ! と鈍い音が響き、一人目の男が肺の空気を吐き出しながら崩れ落ちた。


 さらに間髪入れず、二人目の胸元へ踏み込み、体幹を軸にした鋭い膝蹴りを叩き込む。


「魔導具か何か知らんが、道具と魔法の詠唱速度に頼りすぎなんだよ、お前らは」


 後ろで慌てて呪文を唱え始め、手元に青い魔法陣を展開しようとした魔導兵。その詠唱の二小節目が終わるより早く――


 ドガッ!!


 すでに敵の正面へ旋回していた一真の拳が、魔法陣ごと男の顔面を完璧に打ち抜いていた。


 自衛隊徒手格闘における、絶対的かつ合理的な近接制圧(CQB)。無駄なタメも美しさの演出もない。ただ相手の息の根と行動能力を最小時間で奪う、洗練された暴力の芸術であった。


 一方その頃、地下制御室。


 モニターから送られてくる南門付近の生体反応ログ(一瞬で赤から灰色の“行動不能”に変わっていくアイコン群)を見つめながら、まひるは引きつった笑顔を浮かべていた。


「パパ、あんた本当に……この世界の人間が見たら泣いて逃げ出すレベルのバグ人間だよ……!」


 だが、まひるの指先もまた、キーボードの上で神業のような速度で躍動していた。


 画面上には、王都全体の魔導結界システムの構造図が立体的にレンダリングされ、そのあちこちに潜む「異物」が次々とハイライトされていく。


「やっぱり干渉されてた……! ノクターンの残党、結界の基幹術式に巧妙な“偽装識別キー”を挿し込んで、自分たちだけが通り抜けられる不視の隙間を作ってたんだ。こんなの、普通の魔導師が表面の魔素量だけ見てたら絶対気づかない……!」


 まひるの瞳に、エンジニアとしての鋭い知性と誇りの光が宿る。


「でもね……現代のプログラミング構文に比べたら、この術式のセキュリティホール、スカスカなのよ!」


 カタカタカタカタ……ターンッ!!


 まひるが力強くEnterキーを押し込むと、ノートPCの画面全体が眩いエメラルドグリーンに染まり、それに呼応するように、作業台のクリスタル端末が爆発的な輝きを放ち始めた。


『システム・アクセス承認。既存エラーログの消去。セキュリティプロトコル構築開始』


「レグナス王都魔導結界、全域強制再起動(リブート)! セキュリティコード“Mahiru-01”にて術式構造の完全再構成、完了!!」


 次の瞬間。


 王都レルファリアの夜空全体を、蒼白く幻想的な光芒が貫いた。


 城塞都市を囲む何十もの防衛塔から光の柱が天へと伸び、上空数千メートルで交差。夜空いっぱいに、王都全体をすっぽりと包み込む巨大な六芒星の多重光陣が浮かび上がったのだ。


 ――完全なる、絶対遮断魔導結界の展開。


 南門付近で一真に追い詰められていたノクターンの残党たちは、突如として空を覆いつくした圧倒的な光の網を見上げ、絶望に顔を歪ませた。


「く、くそっ……! 術式が……我らの仕掛けた偽装キーが消去されただと!? 誰だ、一体誰がこんな神業のような術式改変を――!?」


「さあな。うちの天才娘か、それともお前らをこれから殴り倒す化け物みたいな親父か……好きな方を疑え」


 暗視ゴーグルの奥で冷たく目を細めた一真は、逃げ場を失った敵の背中に容赦ない前蹴りを叩き込み、次々と石畳へとめり込ませていった。


 戦いは、もはや防衛戦ではなく、一方的な「清掃作業」と化していたのである。


 やがて、東の空が茜色に染まり、王都レルファリアに平穏な朝の光が差し込んできた。


 昨夜の未曾有の危機は、王都の住民たちが眠りについている間に、一傷の被害も出すことなく完全に終息していた。


 朝一番、王城の大広間では、レグナス国王自らが一真とまひるの前に立ち、感涙を流しながら正式な感謝状と最高級の勲章を授与。「王都防衛の真の英雄」として二人を認定する声明が公布された。


「……ふぅ。まひる、本当に助かったぞ。お前のオペレーションがなければ、結界の裏をかかれて長引いていた」


 謁見を終え、朝日が差し込む王城のテラスで、一真は缶コーヒー(自衛隊のミリメシ用ストック)を飲みながら、しみじみと娘に声をかけた。


「そっちこそ、よくあんな人間離れした動きができるよね……。っていうかパパ、もうちょっと人間味のある戦い方してくれない? 相手がかわいそうになってくるんだけど」


「パパから言わせてもらえば、お前だって十分チートだぞ。ノートパソコン一台で異世界の古代魔法陣をハッキングして書き換える女子高生がどこにいる」


「えー? 何それ、一応褒めてくれてるわけ?」


 まひるは呆れたように笑いながら、テラスの手すりに寄りかかった。


 異世界に転移してから数日。次々と襲い来る常識外れのトラブルと危機。


 しかし、それを乗り越えるたびに、破天荒な父と苦労性の娘の絆は、より深く、より強固なものへと鍛え上げられていくのだった。

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