表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
……近付かないで……汚れてるから  作者: あおあん
後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/48

第38話 M

 九条をホテルに残して、ギャラリーに向かう。


 ずっと雅さんに準備を任せきりだった。


「休憩中?」


 入り口の階段に座ってコーヒーを飲んでいる2人に声を掛ける。


「ああ。サボってるのがバレちゃったな」


「遅くなってごめんなさい」


「荷ほどきは済んだの?」


「はい。あらかた」


 エミリの元気がない?


 どうしたんだろう。珍しい。


「エミリ、さっきは凄かったね」


「え?」


「お仕事モードのエミリ、かっこ良かった」


「そう?」


「うん。尊敬しちゃうよ」


 てっきり『わーい』って抱き付いてくれると思ったのに。


「どうかした?」


「え?」


「お腹空いたの?」


「もう……!」


 怒ってるの?


 咄嗟に雅さんを見る。


「俺じゃない、俺じゃない……」


 雅さんは手の平を左右に振りながら、奥に逃げて行ってしまった。


「エミリ?」


「ごめんね、みいな」


「どうしたの?」


「黙ってた事があるの」


「なあに?」


 固く目を瞑って、息を詰めている。


 可哀想で見ていられない。


 思わず、背中に手を当てる。


「あのね……アナンがいるよ」


「……」


 アナンって聞こえたけど、


 アナンって言ったよね、


「マミーの事務所で一緒に働いてるの」


「アナン……」


「そう」



 ◆



 雅さんと開梱作業を進める。


 今回は売れたら絵は即日取り外して、次の絵を掛けるというので、皆、ありったけの絵を持ち込んだ。


 涼くん、KIRAHOSHIさん、クマさんは、オープニングの直前に到着する。


 だから、ここに最初に掛ける絵の選択は、私たちに任されている。


「とりあえずこれで最後だな」


「はい」


 雅さんは、さっきのエミリとの会話には触れないでいてくれた。


 私は心がどこかに持って行かれてしまったかのように、さっぱり集中出来ていなかったから、おかしいと思ったはずなのに。


「この後、どうする?」


「えっと……」


「友達と会う?」


「いえ……」


「九条さんなら、俺に任せとけ」


「え?」


「こっちの心配はしなくていいから、エミリと楽しんで来いよ。大学の同級生なんだって?」


「はい」


 もうそんな話したんだ。


 エミリも雅さんも人付き合いが上手だな。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


「遅くなるようだったら連絡頂戴。迎えに行くから」


「ありがとうございます」


 お兄さんがいたら、きっと雅さんみたいな人だったかもしれない。



 ◆



「みいな!連絡ありがとう!」


 よかった。


 エミリが復活してる。


「ごめんね。お仕事終わった?」


「もちろんだよー。アナンも来るから、先にお店に行ってよ?」


「うん」


 なんだか体が軽くなったみたい。


 ふわふわと飛んで行っちゃいそうだから、エミリの腕に絡みつく。


「わーい!私たち、めっちゃ仲良しじゃん!」


「ふふふ」


 お洒落なワインバーに連れてってもらった。


「みいな、お酒飲める?」


「あんまり。でも、今日はちょっと頂こうかな」


 エミリのおすすめの白ワインをグラスで。


「「乾杯」」


「アナンが来る前に、改めて、謝らせて」


「え?」


「アナンの事、黙っててごめんね」


「別に……」


 何とも思ってなかったけど、もしかして……って思ったら、急に怖くなった。


 言わなかったのには理由があるの?


 お願い……付き合ってるとか……それは……


「アナンがみいなに会えるのすごく楽しみにしてて、なんか焼き餅やいちゃったんだよね」


「え?」


「女の嫉妬ってやつ?別に、アナンが好きって訳じゃないんだけど、誰もかれもみいな、みいなってちやほやされてる気がして」


「そんな……」


 全然そんなことないのに。


「だから、ほんのちょっぴり、意地悪な気持ちになっちゃって。ほんと、ごめんね」


 いつも笑顔のエミリが、真剣な顔でこちらを見ている。


「怒ってないよ。意地悪とも思ってない」


 むしろ、アナンに会わせてくれてありがとうって思ってる。


「みいなは優しぎるんだよ。『ごめん』って言われたら、なんでも許しちゃうんじゃない?」


「そんなことないよ」


 口にした白ワインが甘く酸っぱく感じた。


 ジャズが流れるウッド調の店内は、男女のカップルや、小人数のグループでテーブルが埋まっていた。


 みんなとても背が高い。


 外国に来たんだな、と改めて実感が持てた。


「ミーナ」


 頭上から降り注いだ声に固まる。


 あの何度も繰り返し思い出してきた……


 私の心をくすぐり、焦がす、あの声……


 ああ。みっともない。涙が勝手に溢れて……


「ダイジョウブ?」


 この世で一番好きな、私に元気をくれる魔法の言葉。


「アナン」


 ゆらゆらと揺れる視界に、夢にまで見た好きな人が納まっていた。


「会いたかった。すごくすごく会いたかった。ずっとずっと会いたかった。嬉しい。会えて嬉しい、アナン!」


「ミーナ……」


 アナンが私の肩に手を置いた。


「アナンあんたさ、まさかとは思うけど、みいながなに言ってるか分かんないんじゃないでしょうね?!」


 エミリが英語でまくしたてた。


「しょうがないよ。だって、もともと日本語は得意じゃなかったし、こっち来てから一度も使ってないんだ。『アリガトウ』と『ダイジョウブ』しか覚えてないよ……」


 アナンの英語が分かる。


 今の私は、アナンの言ってることが理解できる。


「英語の勉強してきたの。だから私も会話に加われるよ」


 ずっと頑張ってきた成果を発揮する。


「「OH!!」」


 2人のこの顔が見られて幸せ。


「I missed you」


 ずっと言いたかった言葉を口にできた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ