表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
……近付かないで……汚れてるから  作者: あおあん
後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/48

第33話 M

 まさか!


 一生分のビックリマークを使い果たすくらい驚いている。


 エミリから届いたメールと、アメリカで絵が売れた際の売買契約の書類……


 大学の卒業とともに、エミリはお母さんのいるアメリカの会社に就職すると言っていた。


 寂しくて、『そんなの嫌、考え直して』って言葉が出かかったけど、飲み込んだ。


 エミリの応援をしないなんて、友達じゃないもの。


 だけど卒業してからは、毎日、絵を描いて過ごすうちに時の感覚が無くなり、気が付くともう2年も経っている。


 こんなんじゃ、近くにいなくなった途端、友達じゃなくなりましたって言ってるみたいで……私ってば、なんて薄情者なんだろう。


 九条はエミリを知ってて依頼をしたのだろうか?


 普段は一緒に過ごさないリビングへ赴く。


「売買契約の書類が届きました」


「そう。サインして送り返してくれるか?」


「はい。あの……エミリから……」


「ああ。驚いたか?」


「知ってたんですか?」


「まあ、偶然だけど、もしかしたらって思ったよ」


「そうですか」


 ニューヨークで働くエミリを偶然見つけるなんてことできるの?


「今日は何時に行くんだ?」


 共同開催の個展の最終日だ。


「いつもと同じ時間に……」


 10時に開催するので、私は9時に着くように出発している。


「みぃがよければだけど、私の車で一緒に行かないか?」


 九条は障害者用の特別な車を運転している。


 どう断ろうか迷う。


「ニューヨークでの話も少ししたいし」


「はい」


 そう言われては断われない。


 久しぶりに乗る九条の助手席に緊張する。


「安全運転するから、心配しないで」


 私の顔は引きつっていると思う。


 でも、どうしようもない。


「昨日、雅君も言っていた9月に計画をしている個展だ。涼くん、KIRAHOSHIさん、クマさんも声をかけている。もちろん目玉は雅君とみぃだ」


「雅さんと並べないで。恥ずかしい」


「そんな事ないよ。もう少し自信を持ってくれないか?みぃの絵があるから、私はこの活動をしているんだよ」


 そんな事を言われても……


「今回だってみぃの絵は3枚とも売れただろう?」


 そうなのだ。


 昨日、開催2日目にして、私が持ち込んだ絵は完売した。


 雅さんだって、初日に売れた1枚だけだって言うのに。


「忙しいとは思うが、出発までできるだけ描いてくれ。今のみぃは勢いがあって、描けば描くほどいい作品になっていく。そして、それは評価とともに売れるんだ。有名になりたいだろう?」


「はい」


 私は有名になりたくて描いている。


 絵を描くことしか出来ない私が、アナンに見つけてもらう方法はこれしかないから。


 箱根のギャラリーに到着したら、涼くんが出迎えてくれた。


「みいなさん!九条さん!ありがとうございます!ほんと!ありがとうございます!」


 ニューヨーク行きの事を言っているのだろう。


「最初、まじ、信じられなかったんすけど、昨日、アメリカからメールが来たっす!」


「そうか。ちゃんとサインして返したか?」


「当り前っす!よろしくお願いします!」


 涼くんが九条さんの運転席に頭を突っ込んで話している。


「分かった分かった」


 ぎこちなく笑いながら、涼くんの相手をする九条は別人に見える。


 私を縛り付けるパトロンには到底見えっこない。


「みぃ、車を駐めて来るから、涼くんと先に行ってなさい」


「はい」


 会場に入ると、KIRAHOSHIさんとクマさんも涼くんと同様に駆け寄ってきた。


「ありがとう!みいなさん!」


「いえ。私にお礼を言われても……」


「いや。チャンスをもらえたんだ。ありがたい。みいなさんと知り合えたお陰で、九条さんに拾ってもらえた」


「そんな。私は何も……」


「ほらほら。みいなちゃんが困ってるよ」


 雅さんが間に入ってくれる。


「個展に出展したからといって、絵が売れるかどうかは実力の世界だ。今日は最終日だから、頑張って宣伝していこうな」


「雅さんも今回は1枚しか『売約済み』取れてないっすもんね」


「『しか』ってなんだよ!涼なんて、『1枚すら』売れてないくせに!」


「あー!言いましたね!ヒドイっす」


「そんなんじゃ、九条さんに置いてかれるぞ」


「それは困るっす!今日は、ぜってー売ってみせます!」


 まだ売約済みが取れていない3人は、慌てて自分の持ち場に戻った。


「ありがとうございます」


「なにが?」


「いつも助けていただいて」


「どうして、みいなちゃんはいつも困っているのか不思議だよね」


「え?」


「気が付くと、みいなちゃんはいつも困った顔をしてる。そして手を差し伸べたくなる」


「そうですか?」


「無自覚なところもいい」


「えっと……」


 言葉に詰まっていると、九条が現れた。


「みぃを口説かないでくれるか?」


「まさか、そんなことしてません」


「そう見えたんだが?」


「気のせいですよ」


 雅さんは九条よりも若いはずだけど、随分前から面識があるようだった。


 ビジネスライクの付き合いのようだけど、互いのプライベートも少しは知っている仲なのかな。


「さて。みぃはもう売る絵は無いけど、顔は売っておかないとな。持ち場につけ」


「はい」


 最終日は一番の客足で、私は隣の涼くんと一緒にたくさんの方とお話をした。


 持ち込んだ3枚の絵が完売したという事、そして九条がニューヨークに連れてってくれるという事が自信に繋がってくる。


 だって、アナンに近付いてるって気がしてならないから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ