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……近付かないで……汚れてるから  作者: あおあん
後編

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第30話 A

 ミーナにまた会えるとしたら……どうしたって気分が高揚してしまう。


 アパートに戻り、九条さんがくれたミーナの絵に語りかける。


「ボクは……」


 話したいことがたくさんあるはずなのに、ちっとも言葉がまとまらない。


 ちゃんと練習しておかないと、恥を掻いてしまいそうだ。


 炭酸水を飲んで、シャワーを浴びる。


 急なお別れで、まともな挨拶が出来なかった。


 ミーナは九条さんと上手くやれていたのだろうか。


 お金がないボクのアメリカ渡航は九条さんが取り計らってくれた。


 ミーナと九条さんは特殊なリレーションシップを築いていたように思う。


 九条さんと喧嘩して、ミーナは一時的に家出をしたけど、おそらく心配ない。


 九条さんはミーナをとても思っていたし、ボクとママとは違い、あの2人は対等な関係のようだから。


 ボクがこの絵を見る度に胸が締め付けられるのは……


『あの子にとっても、君との出会いは特別だったという事は認めざるを得ない。こうして絵に閉じ込めて、君に贈ろうとしていたくらいだ』そう言った九条さんの声が耳から離れないからだ。


 ミーナにとってボクが特別だったとは思わない。


 だけど、ボクにとっては特別だ。


 ボクの気持ちはこの絵の中ではもう閉じ込めてはいられないほどに膨らんでいる。


 ミーナにどうしても会いたい。



 ◆



「アナン、来て早々悪いんだけど、このアポの変更をお願いできる?」


 ここの社長であり、エミリの母親のキャシーだ。


 いつも明るく朗らかで、一緒に居ると自然と元気になれる。


「その後は、エミリのサポートお願いできるかしら?お友達が日本から来るんでしょ?」


「いいんですか?」


 ボクはキャシーのアシスタントとして雇われている。


 他の人の依頼よりもキャシーのリクエストが最優先だと言われてきた。


「今回だけ……ならいいんだけど。Mr.KUJYOからは十分過ぎるほどの依頼料を頂いているの。しかも、エミリをご指名で。あの子はまだパラリーガルになって一人立ちして間もないから不安ではあるけれど、かと言って、一応プロなんだから、失敗が怖いからという理由で断るわけにもいかないしね。アナン、エミリを助けてあげてね」


「はい!」


 エミリは本当に凄い人だ。


 日本の大学を出てから、アメリカの学校に行き直し、1年でパラリーガルになった。


 極力、キャシーのリクエストもこなしながら、エミリの手伝いをしたいと思った。


「アナン、エミリから電話だ」


 早速、何か手伝えることがあるのかも知れない。


「エミリ?今、キャシーから指令が下りたところだよ」


「ははは。マミーってば仕事早すぎ。そうなの。早速だけど、今から送るメールリストをチェックしておいてくれる?日本から複数名のアーティストが集結するんだけど、その中の人に九条さん以外のプロデューサーが付いてたりしないか下調べをお願いできる?確認作業は後で必ずするから」


「分かった。出来る範囲で調べておくよ」


 緊張しながらリストを開く。


 ……あった!


 Ms. Miina SHINKAI


 目を瞑って、叫びたい気持ちを堪える。


 開催予定日は9月。あと3ヵ月でミーナに会えるんだ。



 ◆



「エミリ、このMIYABIって人だけ、過去にニューヨークで個展を開いた実績があるんだ。でも、その時のプロデューサーが分からない。九条さんかもしれないし、そうじゃないかもしれないんだけど……」


「オッケー。ここまで調べてくれたんだね。充分だよ。ありがとう。後は私がやるね」


 九条さんが連れて来るアーティストは全部で、5人だ。


 ミーナ以外は知らないけど、ボクはもともと絵に詳しいわけじゃないし。


 だけど、ネットで見たMIYABIの絵には寒気を覚えるような迫力があった。


 ボクの感想がいい評価と言えるのかは分からないけど、この人の絵は全てを飲み込んでしまう気がした。


 ミーナの近くにいて欲しくない人だと思った。


「ふーん。みいなの絵、また変わったね」


「また?」


「昔から色遣いは地味目だったけど、ほっこりとした温かさみたいのがあったんだよ。ほら、箱根に行ったときに一緒に見たじゃない?あの頃の絵が、私は一番好き」


「今のは好きじゃない?」


「私はね。でも好きな人はいると思うよ。冷たい感じがしない?心を閉ざしたっていうか。それが逆に『美』を際立たせてるとも言えるんだけど」


 そう言われれば、そんな気もしてくる。


「大学を卒業して友達がいなくなったからかな?エミリもこっち来ちゃったし」


「それもあるかもね。もともと交友関係が広い子じゃないしね。九条さんの元で絵だけ描いてたら、こうなっちゃうのも自然なのかも」


 九条さんという理解者の元で、才能を開花させ、作品を評価されているミーナ。


 だけど、その生活が孤独じゃないとは言いきれない。


「エミリはミーナに連絡を取るの?」


「ううん。依頼主は九条さんだし、みいなに話を聞く必要はないから。個展が開かれて、本人がニューヨークに来れば、その時は話せるけど……友達として……どうだろう。連絡取ってもいいと思う?」


 そうか。本人は来ない可能性もあるのか。


「ボクは……ボクなら……エミリから連絡が来たら嬉しいけど」


「そうだよね。個展見に行くよって言うくらい構わないよね?友達だもん」


「そうだよ。友達としてだよ」


 ボクはミーナに連絡をしちゃいけない。


 これは日本を出る時に九条さんと約束をした事だから。


 でも、エミリは違う。エミリを通してでも、ボクはミーナと繋がりたい。




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