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……近付かないで……汚れてるから  作者: あおあん
前編

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24/48

第24話 E

 あの、変態ババァ……

 メラニーへの怒りが沸々と湧いてくる。


「お願い、エミリ、なんて書いてあるのか教えて」


 確かに、私のこんな反応見て、気にしない方が無理だよね。

 だけど、みいなみたいな世間知らずのお嬢様ディーバに、こんなこと言っていいの?アナンが養子にもらわれた先で性的虐待を受けてたなんて言える?


「アメリカに帰るって……」

「え?嘘でしょ?なんで?」


 手紙は10枚くらいある。

 こんな一言でみいなの好奇心は満たされないよね。


「税金の事が書いてある……法律違反をしちゃったらしくて……そのことがずっと書いてある」

「そうなの?それって、急にアメリカに行かなきゃならないような事なの?」

「貯金を使い切って、日本に居られなくなったって……」


 アナンが私にしか話していない真実は伏せてあげたい。

 アナンは『誰かに聞いて欲しかった』と、言っていた。

 その誰かに選ばれたのは私であって、みいなじゃない。


「ねえ、どうして九条さんがその手紙を持ってきたの?」


 本当にみいなは何も聞かされてなかったんだ。

 こんなに心配してるのに、気の毒になってくる。


「出国の手伝いをしてくれたらしいよ」

「九条さんが?」

「そう書いてある」


 私は初めてディーバの怒りの顔を見た。

 あんなに穏やかで、どちらかと言うと浮世離れしてるって言うか、霞を食べて生きてそうな子だって思ってたから、こんな一面も持ち合わせてたんだ。


「そんなに仲良かったっけ?」


 確かに一緒に箱根の展覧会に行ったし、アナンはみいなの絵が好きそうだったけど、手紙にみいなのことは一言もない。


「好きだったの」

「はい?」

「私、アナンのこと好きだったの」


 ぽろぽろと泣き出すみいなに、私まで釣られて泣きそうになった。


「九条さんは?」

「だから……あの人は、そんなんじゃないって……何度も……」


 さっき会場でもらったポケットティッシュで、みいなの涙を拭く。


「ごめん、ごめん」


 そう言われて見れば、みいなはいつも九条さんは彼氏じゃないって否定してたかも。


「泣かないでってば」


 自分の目からも涙が溢れてしまって、二人でオイオイと泣いた。


「待たせたね……って、あれ?何があったんだい?」


 タイミングの悪いパパが来て、見られてしまった。


「いいの。ちょっと放っといてくれる?」

「そう言うわけにもいかないだろ?ほら、人が見てるし」


 そう言われて、パパの目線に視線をやった。


「九条さん……」


 みいなの肩がビクンと震え、顔を上げた。

 泣いてるディーバは、過去一やばい。

 立ち上がって、つかつかと九条さんに歩み寄るみいな。

 思いっきり手を振り上げて、九条さんに叩きつけようとしたみたいだけど……手首を掴まれてヒットはしなかった。



 ◆



 みいなは九条さんに連れて帰ってもらって、私はパパと車に乗る。


「一体、何があったのか聞いてもいいかい?」

「アナンがね……アメリカに行っちゃったの」

「そうなのか」

「そう手紙に書いてあったの。メラニーから何か聞いてないの?」

「いいや。何も」

「パパ……まだ、メラニーと会ってるの?」

「はは。エミリは好きになれないって言ってたけど、私は嫌いになれなくてね」


 絶望的な気持ちになった。


 家に着いて、パパはいつもの部屋着に着替え、いつものウィスキーを飲み始めた。


「夕飯は?」

「そうだな。パスタでも茹でよう」


 二人でキッチンに立つ。

 パパはアメリカ人のマミーと、私が10歳の時に離婚した。

 マミーは一旦捨てたキャリアを諦めきれず、今はアメリカで弁護士をしている。


「パパ、あのね、後でアナンの手紙読んでくれる?」


 アナンはパパとメラニーを別れさせようとしてくれた。

 こんな形で、私に打ち明けてくれた秘密をばらすのは嫌だけど、でも、パパにメラニーの正体を知らせるにはこれしかない。


「ああ。読ませてもらうよ」


 パパはのん気な顔で答えた。



 ◆



 パパの手紙を持つ手が震えている。


「何という事だ……」


 知らない人の声みたいだった。


「言えなかったの。でも、私もアナンもパパとメラニーに別れて欲しいって思ってたから……」

「いや。よく打ち明けてくれた。それにしても……アナン君は……いや……」


 パパはウィスキーを一気に口に入れた。


「不甲斐ないよ。私がメラニーの事を……もっと早く気が付いていれば、アナン君の力になってあげられたかもしれないのに」

「パパのせいじゃないよ。ちょっと納得はいかないけど、こうしてアナンはメラニーから離れられたわけだし、パパはメラニーの正体を知って、被害者にならずに済むんだし」

「ああ」


 私の話聞いてる?

 パパは必死に手帳を捲っている。


「サンフランシスコに向かったと書いてあったな?」

「うん」

「ちょっと、パパはやることが出来たから部屋に籠るよ。エミリはもう寝なさい」


 そう言ってパパは仕事モードになった。




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