第10話 E
「でーきた!うん。超いい感じ」
満足、満足。
早速、先生に見てもらおう。
先生の手を引っ張って、キャンバスを見せる。
「あら。なかなかいいじゃないエミリ!」
「ですよね?思った通りに描けましたー」
「これ、箱根の個展に出してみない?」
「えー?そんなことできるんですか?」
「もちろん、全員じゃないわ。他の美大と共同展示を企画してるんだけど、若干、まだ置けるスペースがあるのよ。ねじ込んでみようかしら」
「えー!嬉しい!」
まだ完成していなそうなみいなには、絵に集中して欲しいから、今は言わないでおこう。
今度、ゆっくり時間ができたら話そう。誘って一緒に見に行けたらいいな。
「今日は、お先にー!」
今日は先日知り合った、織田さん達とフットサルの約束がある。
アナンは私には気付いてなかったみたいだけど、私はバッチリ見てたからね。
『今日、フットサル来る?』
『No,バイト』
アナンってば、本当、バイトばっかり。
でも、あの変態から独立する為なんだよね。
話しづらい事を私には打ち明けてくれた。
私もアナンの助けになれたらいいのに。
◆
「はあ……はあ……エミリちゃん、よく動くね……はあ」
「織田さんが運動不足なんですよ。若いのに、そんな息切れます?」
めっちゃ苦しそう。笑っちゃう。
「そんな足の速い美大生、授業でも見たことないよ」
「ははは。てきとー!大学に体育の授業なんてないし。ウケる」
「織田さんいつからフットサルやってるの?」
「まだ1年経ってないよ。俺のチームは、皆、地元の同級生で、去年の同窓会でノリで作ったチームだかんな」
「へえ。アナンは?」
「あれ、アナンのこと知ってたっけ?」
「うん。ちょっと知り合いみたいな」
「そうだったのか。あいつはバイト先が一緒なだけ」
「あ。コンビニ?」
「そ。知ってんじゃん」
「アナンは、今日はシフトに入ってるってことかぁ」
「コンビニじゃないよ。たぶんファミレスか、カラオケか、ラーメン屋」
「そんなに?」
「外国人は週に28時間以上シフト入れらんないんだって」
「へえ。そんで掛け持ち?」
「らしいな」
身体壊さないか心配だから、今度、ご飯でも誘ってあげよう。
「アナンは可愛いんだよ。最近、カフェラテのお姉さんに恋しちゃって、仕事頑張っちゃって」
「カフェラテのお姉さん?」
「そ。コンビニに来たんだよ。透明感がすげえ美女」
そうなんだ。アナン、好きな人いるんだ。
会ったこともない人に嫉妬してしまう。
『透明感がすげえ美女』なんて、私も一度言われてみたい。
◆
「おはよう、エミリ」
あ。いた。
「実在する透明感がすげえ美女がこんな近くに……」
「え?」
「いや。何でもない。こっちの話」
それにしても、ほぼスッピンっぽいのに、この漂う色気はなに?
「みいな、課題提出した?」
「あ、うん。一応……」
「一応って?」
「どこで止めていいか分かんなくて、切り上げた」
「そういうことね。先生なんて?」
「箱根の個展に出展してくれるらしいの」
なーんだ。私だけじゃないのか。なんかがっかり。
「私のもだよ」
「やったね」
この曇りなき笑顔……自分が醜く感じるわ。
「ねえ。一緒に見に行かない?」
「え?」
「いいじゃん。ゴールデンウイーク、どっか行くの?」
「そういうわけじゃないんだけど」
「イケオジ彼氏と過ごしたいか」
「そんなんじゃないけど」
なにをそんなに、モジモジしてんのさ。
「エミリがよかったらなんだけど」
「なに?」
「アナン……誘ってみない?」
「アナン?」
「ほら、絵に興味あるっぽいから」
確かに。バイト三昧じゃ可哀想だしね。
「いいね。声かけとくよ。みいなも彼氏誘ったら?」
「え……あ……う……」
「ま、どっちでもいいけど」
◆
パパが香港出張から帰ってきた。
「お帰りー!お土産は?」
「ほら」
渡されたのはパイナップルケーキ。
「違う!」
「何が?」
「思ってたのと違う!」
「そうか?会社じゃ大人気なんだぞ。喜ぶと思ったのに」
「もっとキラキラしたのとか、可愛いのがよかった!」
「ははは。それは悪かった。次はそういうのを買ってくるよ」
パパはスーツケースを持って部屋に入った。
玄関に残ってる、もう一つのパイナップルケーキ。
「パパ!これは誰に?」
「あ、それは……」
「まさかメラニーじゃないよね?」
「いいじゃないか。メラニーはエミリが思ってるような人じゃないよ」
メラニーはパパが思っているような人じゃないの!
「いつ会うの?」
「明日だよ」
「どこで?」
「まだ、決めてないけど」
「じゃあ、家に呼んでよ」
「いいのか?」
「そうして欲しいの!」
もちろん、パパの前でメラニーの本性は言えない。
けど、ちょっと脅して、パパに近付けなくするくらいはできるかも。
「お寿司とってよ」
「ちゃっかりしてるな。分かったよ」
メラニーは会社を経営してるらしい。
お金持ちだからって、孤児を引き取って虐待するなんて死んでも許せない。
私が成敗してやるんだから!




