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46「いいよ。わかった」


「は? なんでいるの?」


 レオを見たアルマの第一声がそれだった。

 一瞬だけ驚いて、それから視線がゆっくりとブランカの頭の上にある手に向かうと、盛大にレオを睨みつける。

 キラキラと炎のように揺れる瞳の色がぐっと濃くなったような気がして「わあ、綺麗」とこぼせば、レオから「本気かよ」と呆れられた。けれど手を退ける気はないようで、ぐしゃぐしゃと頭を撫でているままだ。


「……レオ? なんでいるの?」

「会いたいから」

「――離れて」


 と、言っているのはブランカに、だ。

 ブランカはアルマの方へ走ると、優しく抱きしめた。


「おかえり、アルマ」

「……ん、ただいま」

「無事?」

「うん」


 あちこち触れたブランカに、アルマはくすぐったそうに笑う。どこにも怪我はない。ほっとしたブランカはもう一度、今度はぎゅうっと抱きしめると、アルマの顔は花のように綻んだ。先ほどまでの剣呑な雰囲気はない。


「あれは猛獣使いだったんですね」

「本当になー」

「レオ、ただいま戻りました」

「おう。恐ろしく早かったな」

「天使が本当に天使のように活躍しまして」

「いい意味か悪い意味かは聞かないでおく」

「――ねえ、ヴィート」


 アルマが名前を呼んだ瞬間、ヴィートはしれっとした顔で手をかざした。

 間髪入れずに、手の前の薄い膜にカンッとナイフが刺さった。

 ブランカの腕の中で、アルマが緩慢な動きで手を下ろす。


「レオが来てるなんて聞いてないよ?」

「言っていませんので」

「理由は?」

「身の安全のためです」


 言い切った。

 ヴィートは無表情で、手のひらの薄い膜でナイフを包んで落とす。返す気はないらしい。


「それに、落ち着いて事を運んで欲しかっただけです」

「レオがいると聞けば雑になるとでも?」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。ははは」


 よく無表情で笑っている声が出せるな、とブランカは感心した。

 後ろにいるレオが「喧嘩すんなよ」と言いながら、ヴィートの肩をつかんで前に出る。


「アルマ、あー、待て。誤解するな」

「誤解するようなことをしてたの? へー、そう」

「してない」

「彼女にさわってた」

「あれは」

「あ。アルマ、レオのことは気にしなくてもいいよ」


 ブランカは、レオからの「これを止めろ」という視線を受けて、抱きしめていたアルマゆっくりと放した。


「大丈夫だよ。レオは家族なの」

「……何言ってるの」

「えーとね、家族になったんだ。家族として好きでいていいって、お互いそう納得したの。すごく自然だと思うんだけど、どうかな?」


 アルマは丸くしていた目をゆっくりと猫のように細めた。笑っているときとは違うそれは、レオに向けられる。


「……へえ?」

「なんだよ。妙に距離を取ったり、二度と会わなくなる方が意識してて変だろ」

「……ふうん」

「家族として好きで、問題あんの?」

「ないよ。君らが彼女を酷使していた事実があったとしても、断絶した方が彼女は気になるだろうしね」

「だろ。兄として会いに来る」

「来なくていい。彼女は僕が幸せにするから」

「お前の兄にもなってやろうか?」

 

 ぴくりと反応したアルマは、一瞬誰も気づかないようななめらかな動きで腰に手を回した。

 この次の動きはみんなわかっているので、ヴィートはレオの前に立ち、ブランカはアルマを引き寄せてそれを阻止する。


「私の家族なの。だめ?」


 ブランカが甘く聞くと、アルマは何も投げずにブランカの背に手を回した。


「僕が最初の家族になりたかった」

「もうとっくに、家族以上の、唯一、大切な人だよ」

「本当に?」

「本当。アルマがここから出て行きたいっていったら、縛り付けてでも許さないもの」

「うれしい」

「……あいつら過激じゃねえ?」

「……触れてはいけませんよ、レオ」


 ぼそぼそと何か言われているが、ブランカは気にならなかった。

 きっと、アルマにとってもレオは必要な気がする。

 それがなにかよくわからないけど、多分、必要なのだ。


「わかった」


 アルマの頭に頬を寄せてぐりぐりと可愛がっていると、アルマが息を吐きながらそう呟いた。やっぱりわかってくれると思っていた、とブランカがアルマの額に唇を寄せれば、困ったように笑う。


「君が彼らを家族だとするなら、仕方ないね」

「アルマが嫌なときは好きにしていいよ。家族だからこそ遠慮しなくていいんだもの」

「やめなさいアリス」


 ヴィートがすかさず止める。

 アルマはもう一度大きなため息を吐いて一度離れると、いつものようにブランカの腰を抱くように横から抱きついた。そのまま、レオを見る。


「いいよ。わかった」

「お前素直だな」

「だってレオがかわいそうだし」

「……は?」

「かわいそうだし」


 二回言った。

 アルマはブランカの横にべったりとくっついたままだ。

 ちらりと見ると、微笑んだ顔のまま、睫はくっと上がっていた。

 反論を許さない視線を受け取って、レオは頭を掻く。

 

「はいはい、どーも」

「……それにしても姑息な手を使ったね?」

「なんのことかわからねえな」

「そこまでくるとかわいそうだから、許してあげる。彼女の家族の範囲なら好きにしたら? どうせ、好きにはできないだろうけど」

「睨むなよ」

「僕の兄にもなってくれるんだって?」

「お前が望むならな」

「ふふ。おにいちゃん」

「怖いわ!」

「怖いですね……」

「仲良しだねえ。よかったー」


 ブランカの言葉に、三人の視線が一気に集まる。

 少しの沈黙の後、似たような表情でが揃ってため息を吐いた。


「あいつは本当に大丈夫なのか」

「は? 何言ってるの。彼女は心が綺麗で優しいんだけど?」

「同意できませんね」



 と、三人が次々に口にしているが、ブランカは隣のアルマの頭を撫でる。アルマはちらりとブランカを見上げると、まるで見透かしたような大人びた顔で、微笑むのだった。

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