47「そういうことです」
「アリス。今回のことについて話したいのですが、時間をもらえますか?」
そう言いだしたヴィートに、アルマに関することなら聞かない、とブランカが宣言すると、一拍置いたあとにレオと同じような「キッツいことしますね」との言葉をもらった。
なぜか二人がアルマに同情するような目をしているが、アルマは「うるさいよ」と軽く睨みを飛ばす。
「えー、はい。では、あなたに伝えなくてはいけないことだけ、伝えます」
「私に?」
「そうです。それだけでしたら、天使の話には関わらないので」
「わかった。じゃあ、聞く」
「僕、おやつを用意してくるね」
アルマはブランカを離すと腕をくいっと引いて、頬にキスをした。にこっと微笑まれ、ブランカは穏やかに頷く。アルマがひらりと手をヴィートに向ければ、落とされていたナイフがゆっくりと飛んできて返された。何も言わずに手を振って、アルマが家へと戻っていく。
何となく三人で見送ると、ヴィートは手をかざし、いつものテーブルを出した。椅子は四脚。とりあえず、前と同じ場所に座る。
目の前に座ったヴィートがテーブルの上で手を組んでじっとブランカを見た。
「では、あなたのことですが」
「うん」
「無事に生き返りました」
真面目な顔でそう言ったヴィートは、隣に頬杖をついて座っているレオをちらりと見る。レオはブランカに向けて頷いた。
「本当だよ」
「そういうことです」
「待って。私……生き返ったの?」
「生き返りました」
「なんで?」
「事情が変わったからです。レオの協力を得られる形になったので、そうなるとあなたが生きていないとマズいんですよ。まあ、予定外でしたが、おかげで全てが恐ろしいスピードで終着地点へ向かいました。あなたの言う、そういう流れだったんでしょうね」
「へえ、そうなんだ」
「お前、それだけかよ」
とりあえず納得の言葉を口にしたブランカを、呆れたようにレオが見る。
「よくわからないけど、私が生きていた方がいいんでしょ?」
「まあ、そうなったな。ヴィート、前の計画は?」
「あなたを屋敷から自主的に出て行かせ、死の森の中の魔力を持つ木に引きこもらせている間に、他の魔法使いに話を通す予定でした」
「他の?」
「ええ。あなたは知りませんでしたけど、魔女も魔法使いも、力があるものはほとんどここのような木の森に引きこもっています。外で貴族に飼われているのは、木に入れないような力の弱い野良です」
野良の魔法使い。
初めて聞いた言葉に、ブランカはぽかんとする。
「今現在、引きこもっているのはあなたを合わせて二十六人。全員の許可がようやく取れたので、この度魔法使いたちは独立宣言をすることになりました。これからは貴族には飼われず、国に所属する一機関、魔法局に属することになります。全員。例外なく。こちらが管理します」
「ふうん。わかった」
「絶対わかってねえだろ……」
「いいですか。アリス。水晶のある森に引きこもれるのは、力が強い者だけです。よって、現在の二十六人を冠の魔法使いとして、常に魔法局が正しく機能するか監視をしていただきます。つきましては、この森はアリスの森。あなたはAの魔女と名乗ってください。そのうち他の冠とも顔合わせでもして、それから紋章を肩に。アリス、あなたにこちらが望むことはないので、ここでおとなしくしていてください。それだけで浄化は常に行われるので」
「わかった」
「……本当かよ」
「……本当に、わかっていますか?」
真剣に話していたヴィートから、青いレンズ越しの怪訝な目を向けられる。
ブランカは素直に首を縦に振った。
「うん。大体。ヴィートがその魔法局のトップに座るんでしょ?」
「……ええ、まあ」
「それで、レオの家が、魔法使いを解放した最初の家として、国にめり込んで魔法局とやらの実権を握るんでしょ?」
「……まあな」
微妙な顔をした二人が交互に頷く。
「ヴィートがしたかったことができて、よかったね」
「……あなたは本当に嫌ですね」
「ふふ。レオに最初から協力してもらえばよかったのに」
「彼を巻き込みたくなかったので。何より、引きこもりの魔法使いたちを説得するのが大変だったんですよ。脅したり宥め賺したり……あいつらは本当に。あれたちがしっかりしていたら、回りくどい人脈づくりなんてしないで全員でとっとと殴り込みに行けたものを」
チッと舌打ちをしたヴィートは、レオの肘でつつかれると「こほん」とわざとらしく咳払いをした。
「まあ、アリスとレオのおかげで、平和的に、それも素晴らしく健全に、国に堂々と我らが立つことができて感謝していますよ」
「本当にな」
はあーと、深いため息を吐いたレオが、テーブルの下でヴィートの足でも蹴ったらしい。ヴィートが笑った。この話については、二人の中で終わっているのだろう。
よくわからないものを押しつけられたような気がしないでもないが、今後魔法使いたちが飼われることがなくなったことはわかった。
「貴族の家にいた他の魔法使いたちは?」
「こちらがすでに全員回収しています。相性が良さそうな冠の魔法使いのところに弟子として引き取らせました。残りは、まあ、花を咲かせる業務に携わりますが、これからは国の事業への協力であり、レオの家からは完全に手を放れます」
「そっか」
「待遇はかなりいいですよ。あなたも志願しますか?」
「ううん。私はここから出ない。何かしないといけないことがあったときは、できる限り協力はするから、そのときは言って」
「……ほう」
ヴィートが驚いたように目を丸くする。
絶対に関係ないと言うと思ってた、と饒舌に語るその目に、ブランカは少しだけ微笑む。
「アルマを助けてくれたんでしょ? だからだよ」




