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深縹の坂  作者: 鷹羽諒
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暗い朝

 ゆっくりと目を開けようとして、やめた。瞼を通しても分かる光の色がまぶしい。どうやら朝になってしまったらしい。その眩さから逃れるように、由紀はこの時期にはもう分厚すぎる布団を引きあげた。

 

 どうやらというのは、()()()()()()()記憶がないからだ。寝る前に何をしていたのか、それともなにもしていなかったのか、それすらも思い出せない。一応ちゃんとベッドの上にはいるようだけれど、メイク落としたっけ。歯、磨いたっけ。お風呂は、洗濯は?眠い頭にぐちゃぐちゃな考えが浮かび上がって、澄んでいた頭を濁していく。そんなこと考えたって思い出せないのに、どうしても確認したいなら起き上がって鏡の前に行けばいいのに、私は結局、感情の濁流をぐるぐると反芻し続けるのだ。

 微かにあった爽快さはとうに消え、黒煙のように吐き出した溜め息ともに由紀は目を開けた。だがそこにはただ、小さなアパートの灰色の天井が広がり、そして煌々と由紀の目を照らす、無機質な白いLEDがあるばかりだった。


 やっぱりちゃんと寝れていなかった。分かっていたはずなのに嫌悪感が流れ込んでくる。重い身体を起こして、壁のスイッチに手を伸ばし、無駄に流していた電気を止める。ぱっと視界が暗転し、閉め忘れたカーテンの隙間から洩れる深い藍色の光だけが薄く部屋を染めた。


 いつから私はちゃんと寝ることすらできなくなってしまったのだろう。重い頭を壁に預けながら、窓に映った大人の顔に問う。歪んだ私の顔は何かに怯えるように強張っていた。




 すうっと意識が濃くなって、由紀は沈んだ顔を上げた。髪をかき揚げて窓を見ると、暗さは和らぎ、少しずつ薄い青の兆しを見せ始めている。立ったまま眠っていたのだろうか、壁に立てかけた身体、だるさは少し抜けたようで、なんとなく()()()()()だけが残っていた。


 散歩でも行こうか、不意にそんなことを思ったのはきっと、そのちっぽけな元気のせいだ。すぐ消えて、いつも私を後悔させる偽物の高ぶり。どうせ陽が上って、街が始まるころには嘘みたいになくなるのだと、そう分かっているのに言うことを聞かない指が、右の手首に着けていた黒いゴムを掴む。そのまま細い指は髪を梳くと、伸びた髪をぐっと後ろで縛った。私はきっと家を出てしまう、朝の気配に誘われて。そして、それだけで今日はもううんざりしてしまうのだろう。諦めたような理性が呆れたように溜息を吐いた。



 結局、それから10分ほどして、由紀は家を出た。髪を結い、申し訳ばかりに着替えて、スニーカーに足を通して扉を潜る。後ろで閉まった扉、ロックが掛かったことを教える電子音、そして肌寒い空気。少しだけ、でも確かに息苦しさが抜けていく。由紀は小さく息を吸うと、しばらくアパートの柵の向こうを眺めて、そして階段を下りる。


 丘陵地に立つアパートはすぐ坂に面していて、アパート前の小さな駐車場を抜けてしまえば、あとは上るか下るかしかない。砂利の上で足が止まる。少しだけ迷って、でもすぐに由紀は右へ足を踏み出す。急な斜面に足をかけて、力を込めた。緩み切った筋肉がチクリと痛んだ。







最後までお読みいただきありがとうございます!

学業や就活の関係で投稿ペースは不定期になりますが、少しずつ書き進めようと思っています!

是非、評価や感想お願いします!!!

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