表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/15

ー第3節 憑き物が落ちた少年の涙と、賢者が示した新しい道

第3節 憑き物が落ちた少年の涙と、賢者が示した新しい道


カイルは唇を噛み締めた。

分かっている。心のどこかでは、復讐なんて虚しいだけだと気付いていた。でも、怒りを燃やし続けなければ、悲しみに押し潰されてしまいそうだったのだ。


「……どうすればいいんだよ」

カイルの声が震える。

「俺には剣しかない。でも、人を守るためじゃなく、殺すために剣を振ってきた。今さら、どう生きればいいのか分からないんだ」


「剣しかないなら、剣で生きればいい」

オズワルドは懐から、一本の剣を取り出した。それは彼がかつて愛用していた予備の剣で、魔法付与が施された業物だ。

「やるよ」

「え……?」

カイルが受け取ろうとすると、オズワルドはその剣をカイルの足元に突き刺した。


「ただし、条件がある」

オズワルドの目が鋭く光る。

「その剣は『守る』ためにしか抜くな。自分の命を、大切な人を、あるいは通りすがりの猫でもいい。誰かの未来を守るために剣を使え。そうすれば、お前の剣技は錆びつかない」


カイルは突き刺さった剣を見つめた。

曇りのない、美しい刃。

「守るための……剣」

彼はそっと柄に手を伸ばした。冷たい感触が、熱くなっていた頭を冷やしてくれる。


「もしその約束を破って、またつまらん復讐のために剣を抜いたら……その時は私が地獄の果てまで追いかけて、お尻ペンペンの刑だ」

「ぶっ……!」

シリアスな空気をぶち壊すオズワルドの言葉に、カイルは思わず吹き出した。

「なんだよそれ、子供扱いすんな!」

「子供だろうが。鼻水垂れてるぞ」

リナがハンカチを差し出す。

「……うるせえ」

カイルは乱暴に顔を拭ったが、その目から殺意の光は消えていた。


『お、味が変わったな』

杖の先で、おつまみがくんくんと鼻を鳴らした。

『さっきまでの腐った泥みたいな匂いが消えて、今は……そうだな、雨上がりの土みたいな匂いだ。まだ少し泥臭いが、これから何か芽が出そうな、いい匂いだ』


「ほう、それは楽しみだな」

オズワルドはカイルの肩を叩いた。

「どうだ、カイル。しばらく私たちの用心棒でもするか? リナは魔法は凄いが、近接戦闘はからっきしでな。お前みたいな猪突猛進な剣士がいると助かる」


カイルは少し考え込み、そして剣を引き抜いた。

「……用心棒代、高いぞ。飯代とおかわり代も込みだ」

「交渉成立だな」


こうして、一行に新たな仲間が加わった。

元賢者の老人(見た目は青年)、余命一年の天才魔法少女、そして復讐を捨てた少年剣士。

凸凹なトリオは、夕闇に包まれた帝都を後にした。


「次はどこへ行くんですか、師匠?」

リナが尋ねる。

「そうだな。南の海が見たいな。魚が美味いらしい」

「海! いいですね!」

「ケッ、海なんてただの水溜まりだろ」

カイルが悪態をつくが、その声は弾んでいる。


オズワルドは夜空を見上げた。

星が綺麗だ。

数十年生きてきて、世界は残酷なままだと思っていた。だが、捨てたものでもない。

少なくとも、今夜の酒は美味そうだ。


「おつまみ、魔力は足りてるか?」

『おうよ。カイルの憑き物が落ちた時のエネルギー、デザートとして頂いたぜ。満腹だ』

「ならよし。行くぞ、若者たちよ。夜は長い」


オズワルドの杖が微かに光り、三人の足取りを軽くする。

彼らの旅は、まだ始まったばかりだ。

命の循環を止めるような悲劇を、笑いと食欲と、ほんの少しの魔法で塗り替えていく旅が。


(第4章へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ