ー第2節 神頼みの否定と、呪いをエネルギーに変えるという無茶苦茶な提案
第2節 神頼みの否定と、呪いをエネルギーに変えるという無茶苦茶な提案
リナはムッとした表情を見せた。見ず知らずの男に、自分のささやかな祈りを否定されたのだから当然だ。
「……あなたに何が分かるんですか。私は、ただ希望を持ちたいだけなのに。今をどうにかできるなら、とっくにしています」
「どうにかしようとしていないだけだ。諦めという名の心地よい布団にくるまって、死ぬのを待っているだけだろう」
オズワルドは容赦なく畳み掛ける。リナの瞳に涙が滲んだ。怒りと悲しみが入り混じった、生々しい感情だ。
「ひどい……! 私だって、生きたいって思いました! でも、どうにもならないって、偉い先生たちが……!」
「偉い先生たちが何だ。あいつらは教科書に書いてあることしか知らん。世界はもっと広くて、デタラメで、面白いもんだぞ」
オズワルドはニヤリと笑い、自分の杖をリナの目の前に突き出した。
「例えば、この杖の先についている毛玉が見えるか?」
「……毛玉?」
リナは涙を拭い、杖の先端を見た。そこには、白いふわふわした何かが鎮座している。
「可愛い……ぬいぐるみですか?」
『ぬいぐるみじゃねえ! 高位次元の観測者様だ!』
おつまみが叫んだが、リナには「きゅ!」という高い鳴き声にしか聞こえなかったらしい。
「生きてる……!?」
リナが目を丸くする。
「こいつはな、お前のような『どうにもならない状況』が大好物なんだ」
オズワルドは説明を続けた。
「お前の病気、魔力過多症と言ったな。要するに、お前の器に対して水が溢れすぎている状態だ。普通なら器を大きくするか、水を減らすかしかない。だが、器は変えられんし、水を減らせばお前は廃人になる」
リナは黙って頷く。それが、彼女が宣告された絶望の理由だった。
「だが、第三の道がある」
オズワルドは指を三本立てた。
「溢れる水を、別のエネルギーに変換して消費し続ければいい。常に全力疾走していれば、エネルギーは溜まらんからな」
「そんなこと……できるわけがありません。魔力を消費するには魔法を使う必要がありますが、今の私の体では、魔法を使った瞬間に回路が焼き切れて死にます」
「普通ならな。だが、ここに『フィルター』がある」
オズワルドはおつまみを指差した。
「こいつはお前の『負の感情』や『呪い』そのものを食って、純粋な魔力に変換する。そして、その魔力を制御するのは私の役目だ」
オズワルドは身を乗り出した。
「つまりだ。お前は呪いを嘆く必要はない。むしろ、その呪いこそが最強の燃料になる。お前はその膨大な魔力を使って、好き放題やればいいんだ」
リナは呆然としていた。
「呪いを……燃料に?」
「そうだ。『来世で幸せになりたい』? 馬鹿を言うな。今、この場で、その呪いを使って世界をひっくり返すような魔法を使ってみろ。そうすれば、死ぬのが惜しくなるほど楽しくなるぞ」
リナの中で、何かが揺らいだ。
それは「諦め」という強固な殻に入った亀裂だった。
「でも……もし失敗したら?」
「その時はその時だ。どうせ一年で死ぬんだ。今死んでも大差あるまい?」
あまりにも乱暴な論理。しかし、リナはその言葉に不思議な説得力を感じていた。この青年(中身は老人だが)の目は、嘘をついていない。そして何より、楽しそうだった。
「……やってみます」
リナは震える声で言った。
「どうせ死ぬなら、最後に一つくらい、大きな花火を上げてみたい」
「いい返事だ。合格」
オズワルドは満足げに頷き、おつまみに合図を送った。
『へいへい、了解。いただきまーす』
おつまみがリナの胸元に飛び込んだ。ふわふわの毛玉が触れた瞬間、リナの身体を蝕んでいた重苦しい熱が、すうっと吸い出されていく感覚があった。
「う、あ……!」
リナは声を漏らす。痛みが消えるわけではない。だが、その痛みが「不快な異物」から「熱い力」へと変質していくのが分かった。
『うめぇ! こいつの呪い、極上だぜ! 何十年もののヴィンテージワインみたいだ!』
おつまみが歓喜の声を上げる。
「さあ、リナ。イメージしろ。お前が一番やりたかったことはなんだ?」
オズワルドが導く。
リナは目を閉じた。
やりたかったこと。病室の窓から見ていた景色。自由に空を飛びたい。どこへでも行きたい。
「空を……飛びたいです」
「よし。なら飛べ。私が補助輪になってやる」
オズワルドが指を鳴らすと、リナの身体がふわりと浮き上がった。
ただの浮遊魔法ではない。おつまみが変換した「呪いのエネルギー」が、リナの背中に光の翼となって顕現していた。




