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第5章 第1節 南国の風に吹かれて、それぞれの道を選ぶ弟子たちの決意

第5章 旅は続く


第1節 南国の風に吹かれて、それぞれの道を選ぶ弟子たちの決意


マリスでの騒動から数週間が過ぎた。

魔王ゼノスの残滓が消滅したことで、街を覆っていた奇妙な倦怠感は完全に払拭された。人々は再び活気を取り戻し、観光地としての賑わいは以前にも増しているように見える。


オズワルドたちは、海を見下ろす丘の上の宿で、最後の朝を迎えていた。

窓を開けると、潮風と共にカモメの鳴き声が飛び込んでくる。空はどこまでも青く、海は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。まさに「生」を象徴するような光景だ。


「さて、荷造りは済んだか?」

オズワルドが振り返ると、リナとカイルがそれぞれの荷物を背負って立っていた。

二人の表情は、出会った頃とは別人のように明るい。


リナは、魔力制御のための杖をしっかりと握りしめていた。肌の色艶は良く、余命一年と宣告された病人の影はない。

「はい、師匠。準備万端です」

彼女の声には芯が通っている。

「私は、アカデミーに戻ります。師匠に教わった『循環の魔法』理論……呪いを力に変えて生きる方法を、もっと体系化したいんです。私と同じように苦しんでいる子たちが、まだたくさんいますから」


オズワルドは満足げに頷いた。

「いい心がけだ。だが、お前の魔力過多症が完治したわけではないぞ。無理をすれば、また回路がショートする。定期的におつまみ……いや、似たような『負の感情を食う触媒』を見つけるか、あるいは自分で発散する方法を確立しろ」


「はい! 研究テーマは決まりました。『負の感情と魔力変換効率に関する論文』で、学会をぎゃふんと言わせてやります!」

リナは茶目っ気たっぷりに笑った。死を待つだけだった少女はもういない。彼女は今、自分の手で未来を掴み取ろうとしている。


一方、カイルは少し照れくさそうに鼻を擦った。

腰には、オズワルドから譲り受けた剣が差さっている。

「俺は……とりあえず、国に帰るよ」

「ほう。復讐のためか?」

オズワルドがからかうように尋ねると、カイルはむきになって否定した。


「ちげーよ! ……まあ、墓参りはするけどな。父ちゃんと母ちゃんに、ちゃんと言ってくる。『俺は生きてるぞ』って」

カイルは視線を落とし、そして真っ直ぐにオズワルドを見つめ返した。

「それから、剣術道場でも開くかな。守るための剣、ってやつを子供たちに教えてやりたい。俺みたいに、間違った道に進むバカが出ないように」


「それはいい。だが、お前の剣筋はまだ荒削りだ。子供に教える前に、まずは自分が基礎からやり直せ」

「うっ……分かってるよ! 師匠の教えを忘れないように、毎日素振り千回やる!」

「二千回にしておけ」

「鬼!」


三人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。

かつては孤独な隠遁者、死を待つ少女、復讐に燃える少年だった彼らは、短い旅の中で「家族」のような絆を育んでいた。だが、鳥が巣立つように、人はそれぞれの場所へ帰らねばならない。


『けっ、湿っぽいのは無しだぜ』

杖の先で、おつまみがぷるぷると震えた。

『リナの極上の呪いも、カイルの腐りかけの復讐心も、もう食べられないと思うと残念だがな』


「おつまみちゃん、ありがとう」

リナがおつまみをそっと撫でる。

「あなたがいなかったら、私は今頃ベッドの上で泣いているだけだったわ」

『よせやい。俺様はただ飯を食ってただけだ』


「カイルも、ありがとうな。用心棒、頼もしかったぞ」

「……お前こそ。変な魔法ばっかり使いやがって」

カイルはおつまみを小突いたが、その手つきは優しかった。

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