ー第3節 全盛期を超える大魔法と、魔王をただの自然現象へ還すフィナーレ
第3節 全盛期を超える大魔法と、魔王をただの自然現象へ還すフィナーレ
オズワルドの杖が、かつてないほどの輝きを放ち始めた。
おつまみが吸収した膨大なエネルギーが、オズワルドの魔力回路を通じて増幅され、変換されていく。
「リナ、よく見ておけ。これが『魔力過多』の正しい使い方だ!」
オズワルドが叫ぶ。
「カイル、目を逸らすな。これが『守るための破壊』だ!」
オズワルドは杖を高く掲げた。
「天地乖離、万象流転。我が手に集いし星の息吹よ、淀んだ闇を払い、新たなる風となれ!」
詠唱と共に、マリスの街全体を覆うほどの巨大な魔法陣が展開された。
それは攻撃魔法ではない。浄化と再生の超高等魔法『聖域回帰』。かつての大戦でも使えなかった、神の御業に近い術式だ。
「消えろ、亡霊! お前は『無』になどなれない! ただの魔力となって、この世界の一部として生き続けろ!」
「やめろぉぉぉッ!」
魔王が絶叫する。
だが、その声は光の奔流にかき消された。
オズワルドの杖から放たれた極光が、魔王の黒い霧を貫き、拡散し、街全体へと降り注ぐ。
灰色の世界に色が戻っていく。
凍りついていた時間が動き出す。
人々の顔から虚無が消え、生気が戻る。
黒い霧は光に溶かされ、キラキラと輝く粒子となって空へ舞い上がった。
「あ、ああ……」
魔王の姿が崩れていく。
「これが……循環……? 我が……世界の一部に……?」
その顔に浮かんでいたのは、恐怖ではなく、どこか憑き物が落ちたような安らぎだった。
「……悪くない……かも、しれぬな……」
最後にそう呟き、魔王ゼノスは完全に消滅した。
いや、消滅ではない。彼は無数の光の粒となり、海へ、空へ、大地へと還っていったのだ。
光が収まると、そこには元の鮮やかな南国の風景が広がっていた。
波の音が聞こえる。遠くで誰かが笑う声がする。
何事もなかったかのように、世界は回り続けていた。
「ふぅ……」
オズワルドは杖を下ろし、額の汗を拭った。
さすがに疲れた。魔力の消費はゼロ(おつまみのおかげ)だが、精神的な集中力は使い果たした。
「すっげぇ……」
カイルが口を開けて空を見上げている。
「師匠、今の……凄すぎます!」
リナが目を輝かせて駆け寄ってきた。
「あれだけの規模の魔法を、あんな一瞬で……! やっぱり師匠は世界一の魔法使いです!」
「よせよせ、おだてるな。腰に来る」
オズワルドは苦笑しつつ、内心ではガッツポーズをした。
(見たか、若造ども。これが年の功というやつだ)
『けぷっ』
杖の先で、おつまみがゲップをした。
『不味かったけど、量はあったな。おかげで当分、魔力切れの心配はなさそうだ』
「そうか。なら、しばらくは平和に観光といこうじゃないか」
オズワルドは海に向かって大きく深呼吸をした。
潮の香りが肺を満たす。
生きている。
魔王が誘った永遠の安息よりも、この生臭い空気の方が、何百倍も上等だ。
「よし! ロブスターだ! 今度こそ食うぞ!」
「おー!」
「ったく、このジジイは……」
三人と一匹は、騒がしく笑いながら、再び街の喧騒へと歩き出した。
過去の亡霊は消え去り、彼らの前には、眩しいほどの未来が広がっていた。
(第5章へ続く)




