ー第2節 生への執着を肯定するオズワルドと、虚無を拒絶する毛玉の怒り
第2節 生への執着を肯定するオズワルドと、虚無を拒絶する毛玉の怒り
「愚かな」
魔王は憐れむように首を振った。
「貴様も老いた身で、死の恐怖を知っているはずだ。なぜ抗う? 我が手を取れば、このまま永遠に微睡みの中で過ごせるのだぞ」
「お断りだ」
オズワルドは鼻で笑った。
「私は今、人生で一番楽しい時期なんでな。美味い飯を食い、若者たちの成長を見守り、くだらないことで笑う。その『雑音』こそが生きる醍醐味だ」
魔王の顔色が変わる。
「ならば、力ずくで沈めるまで」
魔王の背後から、無数の黒い触手が出現した。それは物理的な攻撃ではなく、触れた者の精神を侵食し、生きる気力を奪う『虚無の波動』だ。
「リナ、カイル! 私の後ろにいろ! 防御に専念しろ!」
「はい!」
「くそっ、なんだよあの黒いの!」
触手が襲いかかる。オズワルドは杖を振るい、障壁を展開した。
だが、魔王の力は強大だった。障壁がミシミシと音を立ててひび割れる。かつて全盛期のパーティー全員でようやく倒した相手だ。個人の力では分が悪い。
「無駄だ。我は人々の『諦め』を喰らって強くなった。この街の数千人の絶望が、我の力となっている」
魔王の笑みが深まる。
「貴様の魔力も尽きよう。その時が最期だ」
「尽きる? 誰が?」
オズワルドはニヤリと笑った。
「おい、おつまみ。準備はいいか?」
『おうよ! こいつの出す『虚無』は不味いが、こいつ自身の存在エネルギーは別だ。超高密度の魔力の塊だぜ!』
「よし。なら、いただくとするか」
オズワルドは障壁を解除した。
「なっ!?」
リナが叫ぶ。無防備になったオズワルドに、黒い触手が殺到する。
だが、触手がオズワルドに触れる寸前、杖の先のおつまみが、カッと目を見開いた(ように見えた)。
『いただきまーーーす!!』
おつまみが口を大きく開けた(ように見えた)。
瞬間、触手がねじ曲がった。オズワルドを襲うはずだった『虚無の波動』が、渦を巻いて杖の先へと吸い込まれていく。
「な、なに!?」
魔王が驚愕する。
「貴様の攻撃はエネルギーだ。たとえそれが『無』を誘うものであっても、力である以上、食える」
オズワルドは悠然と言い放った。
「お前の『安息』とやら、我が相棒の胃袋には少々物足りないようだがな!」
『ペッ! やっぱ不味いなこれ! 味がしねえ! もっとスパイシーなのないのかよ!』
おつまみは文句を言いながらも、猛烈な勢いで黒い霧を吸引していく。
魔王の身体が揺らぎ始めた。
「馬鹿な……我の力を吸収しているだと……!?」
「お前は『輪廻からの離脱』を救いだと言ったな」
オズワルドが一歩踏み出す。
「だが、命は巡るものだ。死んで土に還り、草花を育て、それを虫が食い、鳥が食う。その循環こそが美しい。お前がやろうとしていることは、その流れを堰き止めるだけの、ただの便秘だ!」
「便秘……!?」
魔王が屈辱に顔を歪める。シリアスな問答が台無しだが、オズワルドは大真面目だった。
「流れを止めるな、ゼノス! 命は、汚くて騒がしくて、だからこそ愛おしいんだ!」




