第二十五章
チュイとは違い、コトフは上機嫌だった。
彼はチュイより冷静だ。
だからヘルトランドがただ『運』だけでその地位にいないと分かっている。
むしろヘルトランドにはその『運』がなかったのだ。
ヘルトランドはチュイが思っているよりも強い。
コトフは体躯にふさわしく、武に秀でている。
正直、真正面からの戦いに置いて、今の憲兵隊で彼を脅かすのはヘルトランドしかいないと考えている。
ただ、だから言って常に彼を下に見ているヘルトランドを、チュイと同じく嫌っていた。
──なあに、あと十年さ……。
ヘルトランドは今年で三六歳だ。力が衰え始める時期である。
十年経てば、力も地位も逆転している、との確信が彼にはあった。
闇に肩をそびやかして歩くのは、自信の現れだ。
「それにしても……」にんまりと彼は頬はだらしなく垂れたがる。
パン屋の犬を殺すのは楽しかった。アイン、とか名付けられた犬だ。
コトフは弱いものをいたぶるのが好きだ。
弱いクセに生意気にも彼の前に立つものを徹底的に潰すと、彼の下腹部の一部が屹立する。
だからアインをいたぶり尽くした。
蹴って蹴って蹴って蹴って……最初は主人のためにふらふらと立ち上がった犬だったが、最後は横に倒れ、口から赤いあぶくを出していた。
そこで首を斬る。
嬲るようにゆっくりと刃を通す。
余程痛かったのか、アインは最後の力で弱々しく暴れた。
だが構わず、彼は犬を処刑した。
チュイがパン屋を担当していたからだが、それにしても最高の気分だった。
ヘルトランドと行動を共にして、良いところはこうして臨時に弱者をいたぶれ、そして金まで入るところだ。
この境遇はまだ維持していたい……そう、十年だ。
その時、彼は気配を感じた。
はっとランタンを向けると、一人の男が近づいてくる。
「何者だ?」と誰何したが、正体は分かっていた。
いつかの外国人衛兵だ。
彼は黒いマントを羽織って、灯も持っていない。
「何だ?」
コトフはランタンを石畳に置いて、剣の柄に手を伸ばした。
「夜分申し訳ありません」
衛兵は畏まった口調で言い、その場に片膝をついた。




