第二十二章
ルナは侍女である彼女に与えられ部屋を、当然『準備』する場所として使わなかった。
侍女の部屋は相部屋で、どんな縁かルームメイトになってしまったマリアに、本当の姿を見られたくないのだ。
マリアは侍女用の粗末なベッドで、幸福そうな顔で眠っていた。
最後に確認したルナは、ふとマリアが羨ましくなる。
「……私も、あなたのように幸せな表情のまま、生きていきたかった」
つい飛び出た本音に、ルナ自身が唖然とする。
彼女は頬を引き締め、マリアから目をそらして侍女の部屋から出た。
ルナがその後訪れたのは、使用人の部屋が集まる館の端にある、小部屋だ。
一応暖炉はあるが使われておらず、暗い中に幾つもの不要になった机や椅子が乱雑に並べてある、忘れられた物置だ。
ルナはここに来て早々、そこを見つけ出した。
慎重に堆積した埃を調べ、何年も誰も使っていないと判断すると、その部屋をもう一つの自分の部屋にした。
もう一人の彼女へと変貌する部屋だ。
ルナは灯りが漏れないように扉を閉めると、蝋燭に火を灯し、しつらえてもらったばかりの青色の侍女の服を脱いだ。
諸々の下着もはぎ取り、揺れる小さな火に照らされる中、一糸まとわぬ姿となる。
まず彼女は素足に、牛の革から作られた平べったい紐を巻いていく。
丹念に、動いても足の肌が出ないように慎重にそれを巻き結ぶ。次に闇に溶けるような漆黒の、身体にぴったりのズボンを穿き、同色の上着をかぶるように着る。
そして目元だけが見える覆面を装着すると、常に髪を纏める為に使っている円筒状のかんざしを、するりと取る。
結わえられていた髪がさらさらと解けるが、ルナは構わず、じっと髪にあった細長い棒を見つめた。
蝋燭の火がちらちらと震え、金の装飾が成されているかんざしが煌めいた。
ルナはそのかんざしの底部分を握り、捻る。そして、すうっと彼女はかんざしから引き抜いた。
長い金属の針だ。
彼女の最大の武器であり、刺客としての生命線であるそれは、サソリのから抽出した強力な毒をかんざし部分の底に液体として溜めている為に、神経毒により濡れていた。
ルナは針の毒を確認すると、ふっと、蝋燭の炎を消す。
暗殺者が動き出す時間なのだ。




