第二十一章
エンディミオン宮殿には一〇年前から水道設備がある。
近辺のマルダァス川をせき止め、そこからポンプを使い宮殿へと水を運んでいた。
だからエンディミオン宮殿は庭の噴水も含めて、水についての様々な施設がある。
エンディミオン宮殿は、黄金やガラス、鏡を多数使用した豪華絢爛な華美の宮殿としてだけではなく、水の宮殿でもあるのだ。
故に、方々にあるかつての井戸は蓋で閉じられ、誰にも注目されなくなっている。
日が沈み、厚い雲のせいで月や星の光さえも下界に届かないその日の夜、三人の男女が使われなくなった井戸の一つに集まっていた。
侍女ルナ、音楽教師サイモン、外国人衛兵のデイミアンだ。
彼らはかつて井戸だったものを机に見立て、石の蓋の真ん中にランタンを置き、話し合っていた。
当然、周囲への警戒も怠っていない。庭に飼われている動物でも、彼らに近づけばたちどころに察知されるだろう。
「憲兵隊長ヘルトランド、憲兵チュイ、同じく憲兵コトフ……」
ルナはもう眼鏡をしてない。だから彼女の濁った『殺人者』の目はさらけ出されていた。
だから一目見れば誰でも分かる。彼女がただの侍女ではなく、人殺しだ、と。
はあ、ため息をついたのはサイモンだ。
アイリス姫の音楽担当の家庭教師として、この宮殿に出入りしていた。
「パンと犬のためにか?」
「違う」ルナはサイモンの揶揄を一刀に切り捨てた。
「機、故にだ」
「話を聞こうじゃないか」
衛兵としていつもは宮殿内を見回っているデイミアンが、常の明るく人なつこい彼からは想像もつかない、冷ややかな金属のような声を出す。
「元より、ヘルトランドは我等の目標の一つ。ならば筋書きが出来るのだ」
「筋書だと?」
デイミアンにルナは首肯する。
「そうだ、今回の事件により彼らはシームの家からいくらかの金を得た。窃盗も自演だろうからその金もある……ならば」
「金は諍いのもと、ということか」
ふん、とサイモンが何かをあざ笑う。
「そうだ、だから彼らには『動機』があるのだ……共食いのな」
「話は分かった……っ」
デイミアンは次の瞬間、ルナの胸ぐらを掴んで引き寄せ、彼女の足を浮かせた。
「本当だな? 本当に私怨の末に俺たちを巻き込もうと企んではいないな? 余計な仏心で俺たちを利用していないのだろうな?」
「ふ」とルナは鮮やかな笑顔になる。
「今更パン屋の為にかける情けはない。あいつは運と力がなかった。それを我等が利用するだけだ」
「……良かろう」ルナの双眸を睨んでいたデイミアンが手を離し、ルナは解放される。
「我等の最初の『目標』はヘルトランドだ」
デイミアンが宣言し、他の二人は頷く。
ルナたちがようやく本性を現すのだ。




